第七百三十七話 旅路でのもつれ (翔)
「お、おはようリル」
「おはよう……ショー」
ギクシャクしちまっている。つーか、信じられない。
ダブルベッドの上で一緒に添い寝してるのに、リルが抱きついたり顔にキスしてきたりしなかった。
そうとう怒ってんだろうな……。
バスローブのままで寝たみてーだから、めちゃくちゃエロかったのに……。今だって、はだけて胸があらわに……いや違う、いまはそんなこと考えてる場合じゃない。
とりえあえず、機嫌を戻してくれることを考えなきゃな。せっかくの旅行なのに。
それにもう馬車自体は港町に着いており、準備が出来次第出なきゃいけない。
「な、なあリル」
「なに?」
いつもより冷たいというか、そんな感じがする。
あれだ、うちの学校に来た当初、周りから見られていたリルはこんな感じだったのかもしれねぇ。
「あー、その。昨日は悪かった」
「なにが?」
「いや…誘いを断ったりして」
「それはショーが嫌だったってだけでしょ? 謝る必要なんてないんじゃないの?」
嫌だったわけじゃねーんだよ。
ただ、風紀的にどうかついつい、いつも考えちまうだけで。前にも同じようなことがあってあの時は解決したつもりで居たんだが、結局は俺が変われてないって事か。
「思えば私、ショーにガッつき過ぎてたよ。うん、前にも同じような事あって解決したけど、あれはショーが優しかったから妥協してくれただけなんだよね」
「別にそれは……」
「そんなことよりほら、はやく準備しなきゃ。出航時間さえまだわかっていないんだから」
そのあと用事以外の雑談は一切することなく、淡々と時間は過ぎていった。アナズムの朝だったら、いつもなら今頃、リルとイチャついているんだがな。
一応準備ができた俺たちは、馬車からでて、御者達に金を支払い、港町に足をつけた。
磯の香りがする。俺でこんなに匂うことができるんだから、リルにとっては強烈だろう。
……あれ?
そういえばリルが馬車を降りてから見当たらない。
「近くにいた船乗さんに聞いたよ。出航は明日の朝だって」
「見当たらないと思ったら、聞いてきてくれたんだな。サンキュ」
「どういたしまして。……宿を探さなきゃね」
しばらくして街を歩き宿を探したが、今の時期に旅行する人は少ないのか、高級な宿がすんなりと取れることになった。
一応、二人部屋。
シングルベッドかダブルベッドかも選べるみてーだな。
「わふ、じゃあシング…」
「ダブルでお願いします」
「え? ショーがそういうなら……それで」
もうリルと寝るならダブルベッドじゃなきゃな。
頼んだ通りの部屋、それも一番見渡しの良い部屋に通された。今日は快晴だから街の綺麗な景色がよく見える。
「なんでダブルにしたの?」
「いつもダブルだろ?」
「私と寝るの嫌じゃないのかい」
「誰も嫌とは言ってないぜ。……なあリル、少し早とちりしすぎなんだよ」
「わふぇ?」
キョトンとした顔でこちらを見てる。これはいつもの俺の可愛いリルだ。
「俺はその……毎日するのが嫌なだけで、別にリルとのアレが嫌なわけじゃない」
「ショーはいつもそう言ってくれるね。断ったあとは」
「ただ、俺の性格の問題なんだよ……ついな、風紀に関しては厳しく言っちまう」
もうこの年齢で高頻度で営みをしてる時点で相当やばいがな。
「それも十分承知だよ」
「ああ、本当は断りたくないんだがな」
「どっちが本当のショーなの?」
「わかんねーよ。ただ、昨日のはマジで悪かった。変な断り方しちまって」
リルはクスクスと笑いだした。
な、なにを笑っているんだろうか。
「だから、ショーが謝らなくてもいいんだよ。断るなんて当たり前じゃないか。私だって月に一回の体調が悪い数日間はやめてもらってるんだし」
「確かにそうだが……」
「やっぱりおかしーよ。謝るなら私だよ。断られたくらいで拗ねちゃうんだから、いつものことなのに。……妙にテンションが上がってたからね」
たしかについでに旅行でもするかという話になった時から、リルはずっとテンションが高かったが。
よかった、これで仲直りは済んだんだろうな。
「……ま、まあそういうわけだからよ。一年に一回とか言わず、今まで通りでいようぜ」
「うんっ!」
ニコッと笑ったリルが可愛い。
ああ、そうだ。昨日できなかった分、仲直りした今。
俺はリルをお姫様抱っこした。
「わふぇっ!? な、なんでっ?」
そのままダブルベッドへと向かい、ゆっくりリルを降ろす。
「昨日は昼間にリルが誘ってくれたからな」
「今は昼間ですらないよ! 朝だよ! 街を見て回ったり……」
「それは昼でもできるよな? ははは、さっきまでのは俺たちの初めての喧嘩みてーなもんだ。その記念に今日くらい、こんな時間に……いいだろ?」
「わふぅぅ!」
俺から襲うのも珍しいんじゃねーだろうか。
ともかく、昨日イチャつけなかった分を取り戻さなきゃな。喧嘩もこれっきりにしたいぜ。




