第七百十五話 両親をアナズムへ
「全員揃った?」
「うん、十二人と一匹、しっかりいるよ」
みんなうちに集まってる。
説得するために解散した翌日だってのに予定していた人物全員集合だよ。
美花と翔に話を聞いてみた限りでは、難なく説得に成功したのだとか。常日頃から親には包み隠さず不思議な力を使いまくったからかな。抵抗ないのかも。
「そのシヴァだっけ? ロボット犬も向こうで作ったやつなんだよね」
「うん、お父さん。だけどまあ、こいつは色々と訳ありだから…」
シヴァに関しての詳しい話をするのは向こうに馴染んでからの方がいいよね。まさか近所のお地蔵様の仲間が魔神…いわゆる邪神とは誰も思わないでしょ。
あともう一つ注意すべきことがあるかな。
「あと俺に関して注意事項が一つあるんですけど」
「有夢君に関して……? なにかな」
「俺を向こうで男扱いしないでください。戸籍上でも女になってます」
「ま、仕方ないよな」
あ、あれ?
親御さんたちみんな驚いて無い…? なんで予想の範囲内みたいな顔をされてるんだろう。とりあえず失礼なこと考えてるのは確かだ。ぷくー!
「とりあえずわかった。お母さんに着せ替えさせてくれるんだったら貴方を向こうで女の子扱いするね」
「あ、そうは言ってもお外だったり、他人の前ではやめてってことね。家の中だったら誰も遊びに来てない限り普通にしてよ」
「うんうん、わかったわかった」
お母さんは美花と一緒に俺に女物の服ばっかり着せて、女装を趣味の一つにさせた戦犯だからね、向こうに行ったらもてあそばれそう。まあ、それも悪くないけど。
「にいちゃん、そろそろ行こう」
「よーし! じゃあお母さん達は誰かの肩を掴んでねー! 行くよー!」
全員がアナズム経験者の誰かの肩を掴んだことを確認し、俺たちはアナズムへと飛んだ。
________
_____
__
「はい到着だよ!」
「お、お地蔵さん?」
「なんでこんな部屋にお地蔵さんが置いてあるんだ…? て、これ幻転地蔵じゃないか」
「うん、それがワープ装置になってるの!」
「地蔵がワープ装置なんだ」
全員無事に着いたみたい。
カナタの腕に抱かれたシヴァもしっかりといる。
【ははは、何百年ぶりだろうか! この魔力溢れる空気は!】
【気持ちはわかるけど、おとなしくしててね】
【うん、わかっている】
とりあえずシヴァはそうやってなだめとく。
何か変なこと言われても困るからね。
「それにしてもリルちゃん…」
「わふ? なんだい?」
「すっごい可愛いわねぇ…これ、触ってみて良い?」
「私は触っていい約束だったよね?」
「わふん! お耳は好きに触っていいよ」
リルちゃんは少ししゃがんで自分の頭を撫でやすいようにしてる。お母さん達がこぞって耳をなでなでし初めた。
「すごーい、これは本当に本物なんだ!」
「動かせるの?」
「わふん」
ピクピクとリルちゃんの耳が動く。
「母さん達やめないか。リルより先に有夢君達にこの世界の説明を聞かなければ」
「ああ、そうね」
「ごめんなさーい」
ショーの親父さんの一言でみんなリルちゃん弄りをやめた。やっとちゃんと説明できるね。
「えーっと、俺の口から説明するよりも頭の中でステータスって唱えて出てきたものを見た方が早いよ。大事なことだからよーく説明を受けてね」
「あ、頭の中でステータスって考えるの? …あ、出てきた!?」
みんな、頭の中に機械の画面みたいなイメージが出てくるのにすっごく驚いてる。そういや、俺自身は最初はあまりこれには驚かなかったっけ。
唐突に別の場所に居たっていう方が驚きだったしね。
お母さん達はそれぞれ30分ぐらいかけてステータス画面とこの世界についてのある程度の説明を読み終えたみたいだ。
「ゲームみたいな世界なのね」
「有夢君、この世界危なくないか? 魔物って…」
ショーの親父さんがそういった。
警察であるこの人が一番、そういうこと気にしてるみたいだね。
「念のために有夢のステータスって見ることできないか? もしデータを人に見せられないのだったら紙にでも起こして……」
「うん、いいよ! 見せてあげる!」
俺はお父さんにトズマホの画面でステータスを開いたまま手渡した。それを受け取って、こぞってみ始める。
「これは……ネットゲームの廃課金者かつ古参みたいな…」
「まあ、遠くないよその表現は」
六人ともなんだか引いてるみたい。
強すぎるからね、仕方ないね。
「まあ、この世界での俺の扱いはそのステータスから予想つくと思うよ」
「ええ……もうなんかすごいことたくさんしてるんでしょうね」
「えっへん!」
でも自慢をするのはこの世界に慣れてもらってからだよ。早く言いたくてうずうずする。
「ところで有夢」
「ん?」
「なんで髪が赤いんだ? 身長も思いっきり下がってるし」
……おっと、そろそろカ色々とミングアウトする時が来るみたいだ。




