第七十五話 食会
「くそっ…まさか逃げる術を持っていたとはな…」
「まぁ、いいですよ。次、見つけたら捕まえればね」
「そうだな。早速各国にも連絡し、指名手配するぞ」
「はぁ、バッカス…なんでここにぃ? それに騎士団長様まで…」
誰だろう、この二人は。ラハンドさんは知っているようだが…?
二人が、俺に自己紹介してきた。
「君がアリム・ナリウェイだな。自己紹介が遅れた。私はゴルド・キングズ。前にオルゴが世話になったようだな」
「私はバッカス・デュソース…SSランカー兼酒造者。今日は王様達の護衛できているんだ…。以後、お見知りおきを。ちなみに、ラハンドとは、一緒に奴隷制を撤廃した仲さ。 ね?ラハンド」
「ど…どうも、アリム・ナリウェイです」
なるほど、オルゴさんのお父さんに、王様の護衛の冒険者…兼お酒を作ってる人か。
バッカスさんが、ヒソヒソと話しかけてくる。
「(ウルト氏から聞いてるよ…物を司るマスタースキルを持ってるんだってね? 私の酒造りに今度、協力してくれない?)」
「そんな…ヒソヒソ声で話さなくても……いいですよ」
「やったー! これで私と君はお友達だね」
「そ、そうですね」
おう、ウルトさんや、勝手に広めないでくれよ。俺、酒なんて飲んだことないっての。
まぁ、いいか。いつも暇だし。
それにしても、奴隷撤廃の人達って結構いるんだな。
ゴルドさんが申し訳なさそうに、口を開いた。
「アリム、ラハンドよ、私は謝らなければならない。あの男を捕まえるための証拠を掴むためとは言え、不快な思い……特にアリムは、想定外ではあったが、性的な行為をさせられてしまっていた………誠に申し訳ない」
「あ…はい。いえ、今は大丈夫です」
「そうですぜ、気にすることありやせん」
「そうか……本当に申し訳なかった」
4人で、今あったことを話している時、姫様がこの部屋に入ってきた。
「お料理ができましたわ! アリム様、ラハンド様、それにバッカス様と騎士団長様も、いらしてくださいね」
「御意」
「はい」
俺ら4人はカルア様についていく。
ついた場所のその先にはテーブルに並べられた沢山の豪華な料理。
すでに、王様や王子様、大臣さん、ルインさんなどなどの人達は席についていた。
王様はいう。
「二人とも、悪かったな。あの者の逮捕に協力させてしまって」
「いえ」
「気にしてないでくださぁ」
俺らの言葉を聞き、安心したようだ。
俺はセクハラされたけどね。
「ふむ、そうか。感謝する。………ではこれより、第452回武闘大会優勝者の2名を讃え、食会を行う! 皆の者! 天に感謝し、地に感謝し、神に感謝するのだ。 それでは……いただきます」
「「「「「いただきます」」」」
食会が始まった。城お抱えの料理人たちが作った料理だ。その材料も相当なものが揃っている。CランクやAランクの魔物の肉などだ。……あの青舌の煮物もある。
飲み物も一流品。バッカスさんが作ったお酒だそうな。この国では17歳以下は酒をのんではいけないことになっているので、俺とカルア様はぶどうジュースなんだけど。
バッカスさんの作ったお酒はすごい。特に王様が飲んでるワイン、価値が宝だ。
俺がアイテムマスターを持っていることを知っているバッカスさんに、お酒が凄いという感想を伝えると、かなり喜んでいた。
自分の酒の価値を分かってくれて嬉しいんだと。
俺らはとにかく料理を食べる。それにしても、王様から聞いた話だと、ルインさんは食会に参加するのが初めてらしい。俺が居るからだからだとか。
この場にはセインフォースも全員居るのだ。
お酒の酔いに任せて、リロさんが抱きつこうとしてくる。
危ねぇ、なんとか回避できた。#女の子__アリム__#に戻るの忘れてたんだよ。さっさと成ってしまおう。
ラハンドさんは、おもにバッカスさんと話をしていた。
食会中盤。今、カルア様と一緒に、隣どうしに座って食べている。
あぁ、とても嬉しそうだ。もう、この娘とは友達だもんね。
カルア様が、俺に話しかけてくる。
「その……ありがとうございます。アリム様…私、その…友達がいなくて……同い年で一緒に食べてくれる方が居なかったので……私は嬉しくて嬉しくて……」
「いえ、いいんですよ。……そうだ、ボクのことは呼び捨てで構いませんよ? もう友達ですよね?」
「え……そう……じ、じゃあ、私のことも、カルアって呼んで下さい! その、ついでに、敬語もなくして頂けると……」
やべ、友達だから呼び捨てにしてと言ったそばから、『それはちょっと』なんて言えないよな。
俺はそーっと、王様と大臣さんの顔を伺ってみた。話の内容がわかっていたのか…? それとも最初から想定内だったのか? 二人とも、既にokサインを出していた。
「わかりまし……わかったよ。改めてよろしくね! カルアちゃん!」
「はい! よろしくお願いします! アリムちゃん!」
「ところで、カルアちゃんの敬語は抜けないの?」
「うーん、難しいんですよね……これが私の普段の口調ですから」
「そっか、無理に直して不自然になった方が、ボクとしては嫌だから、普通にしててよ」
「はい、わかりました。アリムちゃん!」
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俺らは食会を楽しんだ。騎士団長さんと剣について語ったり、バッカスさんと食べ物について語ったり、ティールさんとカルアちゃんに、俺の冒険譚を聞かせたり、リロさんやミュリさん、カルアちゃんに抱きつかれたりしてね。
でも、こういうひとときには、イレギュラーが稀にあるもの。
ラノベとかでもそうだよね。
突然なんの前触れもなく、落雷が落ちて、いや、撃たれこまれ、この食会会場の外側の壁が壊された。
城の壁はそう簡単に壊せるもんじゃない。
特に、この城は俺は鑑定済み、まぁまぁ頑丈だ。
Sランク以上の魔物の攻撃でなければ、壊れないだろう。
そう、案の定、Sランクなのだ。
Sランクの魔物、雷鳥≪サンダーバード≫




