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第七百十話 リルの誕生日 2 (翔)

「わふぇぇぇん! わふぅ、ふぇぇ」

「嬉しかったか」



 リルは泣きながらコクコクと頷いた。

 みんな何で泣いてるかわかっている。だからあえてなにも言わない。



「ありがと…ありがとぅ…」

「リルちゃん、まだお誕生日おめでとう、としか言ってないよ。本番はこれからだよ」

「わふん。わふぅ…」



 美花が俺にこっそりハンカチを手渡し、目線でリルを拭いてあげろと語ってくる。

 俺はリルの涙をそれで優しく拭い、抱きしめた。



「それじゃあパーティ開始だよ! 夕飯は六時になったら出すから、それまでお菓子食べたり遊んだりしようよ!」



 有夢がそう言った通り、机の上には山盛りのお菓子が。

 そして有夢は一人だけパーティ用の三角帽子をつける。なんかおかしい。滑稽というべきだな、あれは。



「わふん…幸せ」



 リルは手前にあった菓子を一つ手に取ると、そう呟いた。リルの最大級の幸福そうな顔。いつ見ても魅力的だ。



「そりゃ、よかったぜ」

「えへへ」



 菓子を食いながら四時間、俺たちはゲームを楽しんだ。

 ゲームと言っても、王様ゲームだとかそういうのじゃない。普通にテレビゲームのレース系だとか格闘系だとか最大8人で遊べるタイプのやつだな。

 RPG専門の有夢はそれ以外はやっぱり弱い。



「あ、時間だ! お料理持ってくるね」



 レースゲームで最下位を取ったと同時に、有夢はそう言った。お菓子などで散らかっていたテーブルの上は、いつの間にか綺麗になっており、その上に準備を終えた有夢が料理をドンと並べて行く。


 美味そうなドラゴン肉のステーキだ。

 これは喜ぶに違いない。



「わふぁ…! 美味しそう!」

「ゴールディローズクィーンドラゴンっていう最高級のドラゴン肉だよ!」

「わふわふ…いい匂い…あれ?」

「どうかしたのかリル」



 なんか首を傾げているが。



「ローズちゃんと似たような匂いがするよ?」

「えっ……! あ、ああ、それはあの子も名前の通りバラの匂いがするんだよ。ほら、このステーキも薔薇の龍だからさ、薔薇って点で同じ匂いがするんじゃないかな」

「うーん……それにしては……。ま、いいや」



 なんだ、有夢がひどく慌ててるぞ? 

 何か隠してるのか。美花もドキッとした顔をしてたし。だが、今気にすることではないな。



「そんなことより早く食べようよ」

「わふ、そうだね!」



 テーブルにつき、手を合わせる。

 リルはナイフで1ポンドはありそうなステーキを大ぶりに切り取り、頬張った。



「んふー! 美味しいっ!」

「そっかー、よかった」



 リルは次々と食べる。

 見た目的にステーキが少し多い気もしたが、そんなことはないようだ。

 ……こうやってパクパク食べてるところを見ると、俺はいつも、心底安心する。



「これがお誕生日なんだねっ。幸せだなぁ…。みんな本当にありがと」



 全て食べ終えたリルはとびっきり満足したらしく、ニコニコと笑っている。



「まだだよ。これからケーキもあるからね」

「わふ、ケーキ!」

「あとお誕生日プレゼントも」

「お誕生日プレゼント!」



 有夢が言って行く一言一言に目を輝かせている。めっちゃ喜んでくれてるな。主催は俺じゃなくて有夢だが、開いてよかったと思う。


 全員が食べ終わると、有夢はさっきの宣言通りバースデーケーキを運んできた。

 フルーツがたくさん乗り、チョコで作ってあるネームプレートに『リルちゃんへ 17歳ハッピーバースデー!』と書かれている。

 ろうそくは10歳ぶんであろう、大きいの1本と、小さいのが7本。



「じゃあ電気消すよー」



 その宣言通りにこの部屋の電気が消え、ろうそくの明かりしか見えなくなる。

 ……そして、誕生日の歌の合唱。

 俺も含めてみんなで拍手をリルに向け、盛大に祝う。



「こ、これがバースデーケーキとお歌…!」

「じゃあ切り分けるからね」



 俺たちの元にケーキが配られる。

 主役であるリルと、甘い物好きな桜ちゃんは少し多めだ。



「じゃあ食べながらリルちゃんにプレゼントを渡していくよ! まずは俺から」



 そう言って、有夢はよく包装されたプレゼントを取り出し、リルちゃんに渡した。



「開けてみていいかい?」

「うん、いいよ」



 この間宣言していた通り、獣人用の毛の手入れブラシだ。おそらく神具級。

 リルは涙目になりながら、ありがとう、と言った。

 それから美花、桜ちゃん、叶君の順番でプレゼントを渡して行き、その都度リルの目頭はあつくなっていったようだった。


 最後に、俺のプレゼントを渡す。

 ここはビシッと決めようじゃねーか。



「リル、もう一度言うぜ誕生日おめでとう」

「わふ、ありがとう! わたし…嬉しくて…えへへ、また泣いちゃいそうだよ」

「泣くのはいいが、中身を開けてからにしろよ」

「うん」



 リルは俺のプレゼントの中身を開けた。

 俺が用意したのは赤い頭巾。

 半ばリルのトレードマークである頭巾を、俺が手作りした。


 

「わふぇ…っ」



 リルはプレゼントをぎゅっと抱きしめると、俺に寄りかかってきた。

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