第七百一話 女子だけの風呂 3 (美花)
「次はリルさん、お願いします」
「狼のリル、お前の彼氏は、この屋敷に住んでいるあのいかにも強そうな二枚目の男だよな?」
「うん、そうだよ」
リルちゃんはうなずいた。
そういえばまだローズと翔と叶君は接触がないのよね。今日か明日にでも自己紹介させておくかな。
「それで、馴れ初めは?」
「そうだね、まず私はエグドラシル神樹国の出身なんだ」
「……! エグドラシル神樹国出身の獣人って……」
「わふ。まあ、そういうことだよ」
「なんだ、じゃああの男に無理矢理付き合わされてるのか?」
ローズが思いっきり眉間にしわを寄せている。
リルちゃんが慌てて弁解し始めた。
「ち、違うよ! そもそも告白したのは私からだし…色々とわけがあるんだ」
「ワケ?」
「うん……だいぶ要約するけど…」
リルちゃんは自分が奴隷として正式に売られる直前だったこと、そこを商人が翔に押し付ける形でリルちゃんを譲渡したことを話したの。
何度聞いても生々しいわ…。奴隷だなんて、日本じゃまず考えられないものね。少なくとも私の日常では。
「な、なるほど…」
「かなり壮大ですね」
「わふん、確かにそうかも。だから私からショーを離れることは絶対にないよ」
「リルちゃんもサクラちゃんも、良い恋人をお持ちなのですね…!」
私だって良い彼氏持ってるもん。
仮に私が2人のような状況になったら必ず助けてくれるもん。……なんていまは言えないのよね。アリムはあくまで女の子だから。
「それで、どこまで進んでるんだ?」
「どこまで……そうだね。ちょっと恥ずかしいな…」
「は、恥ずかしい…!?」
「みんなにとってゴール地点がどこかわからないけれど、とりあえず……最後までって答えておくよ」
「最後…っ! 最後って、夜伽ですか!?」
「わふ……そ、そうだよ」
「わぁーーっ!!」
私と桜以外がこぞった。
なるほど、つまり言えばこの中でカルアちゃん達にとって1番の経験者がリルちゃんになったワケだ。
これから色々とリルちゃんはきかれそうね。
「こ、こここ、今後の参考までに、いくつか質問させていただいても…!」
「わふん…答えられる範囲なら大丈夫」
特にリロさんとミュリさんがノリノリだ。もう18、19歳だもんね。そろそろ色々考えてるんでしょう。
「どんな雰囲気で事に至ったんですか?」
「私はデート終わったその日に…誘ったんだ」
「……本で読んだんだけど…痛いってほんと?」
「うん、すごく痛いよ。でもそれ以上に幸せかな…好きな人が相手なら。私の場合は初めての買主も初めての相手もショーだったから、すごく幸せだった」
リルちゃんがしみじみとそう言った。
なんだかリルちゃんが大人っぽく見える。童顔なのに。
「な、ならリルさん、いえ、リルちゃんはそろそろ子供ができてお腹が膨らむのですか?」
「……まだ、私たちに子供は早いからね。ちゃんと避妊具を買ってから事に至ったよ」
「子供目的ではなく、行為を楽しむためだけのアレですか……ちゃんと効くんですね…」
ひとしきりみんな、リルちゃんに質問をした。男子がいる前じゃ絶対にできないような質問ね。有夢がいなくて本当に良かったわ。
「なかなかためになったぞ……狼族のリルちゃんよ。それで、カルア姫はどうなのだ?」
「……私ですか?」
次の標的はカルアちゃんね。
1番恋愛とは遠いこの子にも、なにかあったりするのかしら。
「私はまだ好きになった殿方は居ませんね。ただ…」
「ただ?」
「ティールお兄様みたいに、あの年齢になっても誰とも付き合ったことがないというのは絶対に避けたいです。お兄様はモテるのに、恋愛対象として女性に興味がないので」
そ、そうだったんだ!
確かにあの人の周りで恋沙汰は騒がれたことないわね。男の人が好きってわけでもないみたいだし…ただ単に興味がないのかしら。
「それじゃあ2代後の国王はどうするんだ?」
「それは……ね?」
カルアちゃんが流し目でリロさんを見る。
全員、カルアちゃんが何を言いたいのか察したみたいね。
「……わ、私…えーっと…」
「お姉様、期待していますね。私も殿方探しがんばりますので」
「ふええ…」
リロさんは顔を真っ赤にしてお風呂に顔を沈めたの。そっかー、リロさんとルインさんの関係にメフィラドの血筋がかかってるのかー。
……安産型よね、リロさん。
しばらくして私達はお風呂から出て、着替えてから冷たいジュースを飲んだ。
いろんなこと聞けたわね。恋愛事情の。
……1番ひた隠してるのは私かもしれないけれど、いつか本当のことが言える時がきたら……有夢の魅力について思いっきり話しちゃおうかな。
「んあ……? みんなおふろ上がったんだね」
お部屋でアリムが眠たそうに可愛く目をこすりながら私達を出迎えてくれた。机にはたくさんのデザイン案…マジックルームにこもってたくさん考えてきたところって感じかしら。
「ふふふー、しっかりデザイン考えてるからね! みんなに見せるよ!」
そう、ドヤ顔をしてきたの。




