第六百九十六話 初詣
「あけましておめでとう!」
「あけましておめでとう!」
1月3日の午前中。
俺と美花は今年初めて顔を合わせた。昨日は夜遅く帰ってきたからダメだったんだよね。
一日千秋という言葉があるとして、5日間会わなかったから5000回分の秋を過ごしたと同じくらい会いたかった。
だから思い切り抱きしめる。
去年と同じように柔らかいしいい匂いだし、ものすごくかわいい。
「今年もよろしくね」
「こちらこそ! さ、初詣の準備しよ」
「うん!」
俺と美花は部屋に戻り、初詣に行く準備をするの。
とりあえず押入れから出しておいたものを着よう。初詣とか、とにかく和風の気分を味わい時に着るものだ。
なんでも親が昔来ていたお下がりらしい。
もらった時はちょっとサイズが合わなかったけれど、それはとうの昔に直してある。
確か着方は…。
これを後ろに回して、袖を通し…見た目が良くなるように巻いて行く。そして帯を巻き、端折りを作ったりシワを伸ばしたりして整える。
これで終わり。
昔は苦労したんだよ、いちいち着るのに。
「あ、にいちゃん。俺と桜は先いってるね」
「うん、いってらっしゃい」
「……もう数え年で18歳なのにその格好するの?」
「べ、別にいいじゃないか!」
ぷくー。
部屋から出て来て早々ダメ出しされてしまった。
そんなことは気にせずに、俺は財布とケータイを持ち…かるーくほんのり化粧をしたら準備完了だ。
「いってくるねー」
「はーい。私たちも後で行くからね」
「…の前にどう? お母さん、今年も似合う?」
「うん、とってもにあってる!」
「えへへ」
それならいいんだ。
俺は外へ出た。寒い…寒いのはわかってたからカイロとか持ち込んでる。でも寒い。
「お待たせ」
「俺も今外出たばかりだよ!」
「そうなんだ。……今年もやっぱり可愛いね、その着物。紅色に黄色い花模様っていうのがアリムっぽい」
「確かにそうかも。美花も似合ってるよ。今年も綺麗だ」
着物も髪結いも似合ってる。
本当に綺麗だなぁ…何着ても似合うし。
「ありがとうっ。胸がきついけどね…」
「大変だねー」
「…有夢も私の胸が大きい方が嬉しいでしょ?」
「ん、まあね」
そのまま手を繋いで俺たちはこの地域で1番大きな神社へと向かう。1月3日だけど同じ方面に行く人が多いみたいだ。うちの学校に通ってる人の一家も見かける。
その途中で見慣れた2人に出会った。
「おう、あけましておめでとう! 有夢、美花!」
「あけましておめでとう、あゆちゃん、美花ちゃん」
翔とリルちゃんも俺と美花と同じように手を繋いで歩いている。
「おめでとー! リルちゃん、着物姿綺麗だねー!」
「ふふ、そうかい?」
おそらくは俺があげたなんでも作る機械で作り上げたんだろう、水色の着物だ。とてもよく似合ってる。
「着付けはママに手伝ってもらったんだ。でも息苦しいよ……無理やり寸胴に見せようとするのが美だなんてね」
「ほら翔? リルちゃんのムニムニの胸は今、タオルかサラシでギチギチに巻いてあるのよ? どう思う?」
「……お前は俺に何を言わせたいんだ…」
美花だって同じ状況だろうに。
帰ったら悪代官ごっこ(着物の帯をぐるぐるするやつ)でもしてやろうかしら。
「それにしてもあゆちゃんは、なんやかんや言っても男だろう? ジャパニーズレディース着物を着るんだね。とてもよく似合ってるけど」
「まあ似合ってなかったら普通に男性のを着てるよ」
「毎年それだよな……。お前だから許されるみたいなもんだが、他の男子がやったらバカにされる」
「ま、俺だからねっ」
最後に男の人用の着物を着たのはいつだったか。
小学生低学年くらいかな。
とまあ、そんな感じで話をしていたらすっかり神社についてしまった。人が多い。
「わふわふ…甘ったるい匂い……これが甘酒の匂い?」
「おう、お参りが終わったら飲もうな。おしるこもあるぞ」
「……あ! お姉ちゃん達!」
「わふ、サクラちゃん! カナタ君! あけましておめでとう!」
「あけましておめでとう!」
先に行っていた叶と桜ちゃんと遭遇した。
どうやら一緒にお参りしたくて待ってくれていたみたいだ。
「揃ったね、じゃあ行こうか」
6人で列に並んで、お参りをする。
手元にあった小銭を1枚お賽銭箱の中に入れ、お願いをするんだ。
「(今年も一年、みんなと楽しく、無事に過ごせますように)」
って。
まあ、去年も同じようなお願いしたけど1回死んだわけだし…無事に過ごせたとは言えない。
今年こそ…ね。
でも美花と一緒になりたいっていうお願いは叶ったかな。
そのあとは屋台に立ち寄って、お饅頭を摘んだり、甘酒、お汁粉を飲んだりした。
おみくじも引いたし、御守りも買った。
これで一年、またきちんと過ごせるといいね、




