第六百八十四話 クリスマスデート (翔)
「わふん、メリークリスマスだよ!」
「おう、メリークリスマス」
「……私、キリスト教の信者さんじゃないけど、祝っても良いのかな?」
「日本人のほとんどがそうだから気にするな」
「わかった!」
朝、顔を合わせるなりそう言ってきた。
寝ぼけた顔をしているリルもまた愛らしい。
「でね、ショー! 聞いてよ、枕元に包装されたプレゼントが置いてあったんだ! サンタクロースっているんだねっ」
「ああ、そうだな」
「私の地球での体験していない記憶でも、施設でサンタクロースが来てくれて皆んなにプレゼントを配ってたよ。サンタクロースがわざわざ私のところに来てくれたんだね!」
「そうかもしれねーな」
なるほど、リルはサンタを信じているのか。可愛いから真実は教えないでおこう。
……そのプレゼント、20日あたりに親父が持ってるとこ見たぞ、なんて言えないもんな。
「サンタさんは良い子のところに現れるんだよね? 私って良い子?」
「もちろん」
「…そうなんだ。どこらへんが…かな?」
「勉強も運動もしっかりやってるからじゃないのか?」
「なるほどね! 普段からショーにワガママ言ってるから悪い子って思われてるかと思ったよ」
ワガママ…?
リルが俺何かワガママって言ったことあるか? あるようでないような気がするが。
それも普段、なんてさらに思い当たる節がねーぞ。
むしろ…俺がリルに色々要求してるような…。
「ワガママって何だ」
「わふ? 頭撫でて欲しいなーとか、一緒にお風呂はいろーとか、キスやエッチしてとか」
「お、おう」
なるほどリルはあれをワガママのつもりで言ってたんだな。まあ…こんな歳になるまで欲望の解放のさせ方を知らなかったわけだから仕方ないか。
今度から最後の項目と風呂以外は易々と叶えてやって良いだろう。
それはそうと。
「早く飯食ってデートいこうぜ」
「わっふん!」
俺とリルはリビングに行くと、母さんが朝食を用意して待っていてくれた。
リルは『おはよう』、の代わりに『メリークリスマス!』と挨拶をする。
「おはよ…じゃなくてメリクリ。本当に昨日の今日でデートなんて行って大丈夫なの? 二人とも」
「向こうの世界で2週間も休んできたから大丈夫だよママ!」
「そう…? なら良いんだけど」
今日の朝は洋風だ。
味噌汁じゃなくてスープ。ご飯じゃなくて市販のロールパン、目玉焼きは変わらんな。あとサラダ。
そして早々に朝食を食い終わり、すぐに着替えた。
「どうかな?」
「おう、初めて見るコーディネートだな。いつの間に買ったんだ?」
「いや……持ってたんだけど今まで出してなかっただけだよ。どう? 良いかな? ……ショー、アナズムで2週間前に私がいろんなエッチな格好したとき、裸にストッキング履いたのがかなり反応良かったから…。1番良かったのは…外出するから流石に無理だけど。下着の代わりに___」
「お、おおおう、ありがとなっ。でも普通に服きてるなら可愛いだけだからな」
「わふん」
やばい、あの時のことを思い出しそうだ。
今は忘れろ、俺。これから出かけるし、年齢の都合でホテルに入ることもできないんだ。…はぁ。
「ショーかっこいいよっ!」
「ははは、そうか? 照れるな」
彼女ができてから服にはこだわるようになった気がする。気持ちだけで、実際あまり枚数を増やしてはいないが。
「んじゃ、母さん行ってくるわ」
「ママ行ってきます!」
「はーい、お父さんは夕飯までには必ず絶対、100%帰ってくるらしいからね」
「おう!」
家を出る。
その途端にリルは自分のマフラーを外した。
「なんだ、もう暑くなったか」
「ちがうよ、ふ…二人でマフラー巻こう?」
「ああ」
かなり身長差があるからきついとは思うが、良いだろう。リルは長い長いマフラーを俺と自分の首にクルクルと巻き始めた。リルの匂いがする。
巻き終えたリルは俺の手を繋ぎ、抱きつき気味に体を擦り付けてきた。
「えへへ、あったかいね」
「首、辛くないか?」
「大丈夫さ!」
ちょっと無理してるように背筋を伸ばしながらリルは俺にはりついている。ああ…今年から彼女とデートできて良かった。
去年なんて、有夢と美花に気を使って、他の野郎共に混じってクリスマス遊んだからな。
「じゃあ、とりあえず中央街いくぞ」
「地球での初デートに行ったデパートにまた行くかい?」
「それも悪くねーな」
しかし、せっかくのクリスマスだ。
ただデパートの中でデートを終わらすのはもったいない。だが俺のお財布事情であまりに高いところ行くの無理だし…今日使えるのはせいぜい1万と5千円…もないかもしれない。
昼飯はまず奢るとして、クリスマスプレゼントになにか買ってやるだろ? それだけだ余裕でふっとぶからな。
そろそろ、自力で金をしっかり稼ぐ方法見つけないとな。バイトしかないけどな、俺には。
いや、叶君もリルもやってる株をそろそろ本格的に勉強するのもありかもしれんし。
「どしたのショー? そんな険しい顔して」
「ん、いや、すこし考え事をしていただけだぜ」
「…わふぅ、なにか悩みがあるなや相談してね? なんでも協力してあげるからね」
「ああ」
俺はリルを軽く抱きしめた。




