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第六百八十一話 クリスマスデート (叶・桜)

「ん、待ち合わせの時間より20分早いね」

「そりゃ…お地蔵様の前だし」



 叶と桜は待ち合わせの場所を幻転地蔵の前に指定していた。双方、予定時刻より大幅にその場所に着いたのだ。



「あれ、そのコートは?」

「これ? 叶とクリスマスデートすることを前々から伝えていたら、お父さんがクリスマスプレゼントに買ってくれたの。さっき開けたばかりよ」

「……おじさん、うちと同じでサンタさんの格好してプレゼント置いてくんだよね?」

「うん。私たちがいくつになるまであれ、やるのかな」

「さあ」



 叶はより良く桜の全体を見た。

 非常に可愛く仕上がっている。しばらく見とれていると、桜が不安げな顔をしてこう言った。



「ね、私のコートの色、派手じゃない?」

「確かに真っ赤だね。でもよく似合ってる。髪は今日は三つ編みなんだね。それに……化粧してる?」

「う、うん。ふたつ結びなんて簡単ものじゃなくて、いつもとちょっと変えてみなさいってお母さんが。化粧はお姉ちゃんが、クリスマスデートだからって、ナチュラルメイクを施してくれて…」



 桜はどうやら顔を気にしているようだ。

 人生で数回しかしたことない化粧に、いつもと違う髪型。叶の様子を伺った。



「そうか、だから今日は一段と可愛いわけだ」

「…えへへ、ありがとっ。叶もカッコいいよ」

「あー、でもいつものデートと同じような格好だよ」

「いいのよ、十分だから」



 二人は褒め合い、笑い合う。 

 


「……で、今日はどこ行くの? 珍しく、なにも予定は話さなかったわよね」

「うん。でも予定は組んであるから安心してよ」

「ぶらりと無計画にデートするのも楽しそうだけどね…で、どんな予定なの?」



 そう桜は訊くと、叶はニヤニヤと言うべきかソワソワと言うべきかよくわからない態度を取り始める。

 なにやらイタズラ的なことを考えているのでは、と、桜はとった。



「な、なにか変なこと考えてない?」

「へ、変なことは考えてないよ。あー、でも一つ忠告」

「……ん?」

「今日はお昼ご飯抜きになるよ」

「え? そうなの? ……まあいいわ、そのくらい時間が過密なんでしょ? コンビニか何かでおにぎり一つでも買っていけば…」

「いや、軽食すら厳しいかもしれない」

「え、どういうこと?」



 そう訊くと、叶はなにやらニヤニヤし始めた。

 先ほどの怪しい表情よりさらに、さらに危なっかしい予感がする。



「……な、なんなの?」

「ふっふっふ、我がフィアンセよ。それはね、これが理由なのだよ」

「ふ、フィアンセ…えへへ」



 桜が照れてる間に叶が取り出したのは二枚の煌びやかなチケットだった。一目で相当なものであるとわかる。

 俗にいうプレミアチケットというのは、こういうものなのだろうなと、桜は考えた。



「それはなに? 高級感が溢れてるけど…なんのチケット?」

「このチケットね……ぶっちゃけものすごく高かった。そして入手もすごく大変だった」

「でしょうね、見たらわかるわ」

「だからこれ、桜へのクリスマスプレゼントも兼ねてることでいいかな?」



 やけに貢いでくれていた叶がそういうのも実に珍しく、桜はそれほどまでにそのチケットが高級なものなのだと悟る。



「いいわよ。そもそも普段から私に貢ぎまくってるじゃない。それで、焦らさないで早く教えてよ、そのチケットがなにか」

「うん、これはゴディベスっていう洋菓子屋のクリスマス限定、スイーツ食べ放題のプレミアムチケットだよ」

「え……えっ? ……えええええ!?」



 桜の絶叫が響き渡る。

 この反応を叶は期待していたようで、ニヤニヤしながら驚く桜を見つめていた。



「ゴディベス…って、世界最高級の一つの洋菓子屋さんの…」

「そうそう、そこのケーキやクッキー食べ放題券。中心街に日本支部本店があって、そこが所有しているビル内が会場なんだけどね」

「わわ、私…それ、『お金持ちの道楽』を紹介するテレビのクリスマス特集で見た…。た、たしか入られる人は毎年

本当に限られてて1、さらにそのチケット1枚の値段が…じ、12万円…」

「ありゃ、値段まで知ってたか」



 叶は少ししょんぼりとした顔をした。

 一方、桜はあまりの出来事に震えが止まらない。



「え…え…い、いいの? そもそもどうやって手に入れたの?」

「これの存在は去年から知ってたからね。テレビに出たこともあって、いろんなツテを使ったんだ。…って言っても主に俺らの組織が協力してくれたんだけどね」

「ふぇ……」



 桜は今にも泣き出しそうな顔をしている。

 叶はそんな桜の頭を撫でた。



「喜んでくれるかな?」

「当たり前じゃないっ!」



 ガバ、と桜は叶に抱きついた。

 ここまで反応がいいことが嬉しいのか、叶はさらに笑顔になる。



「……ありがと。大好き、大しゅきっ…! なにか私ができるお願いがあるなら言って? …頑張って尽くすから」

「ははは、ここまで喜んでくれて嬉しいけど、さすがに身体をはるのは大袈裟だよ。12万は確かに高いけど、今後ももっと色々プレゼントするつもりだし、でも下心をもってプレゼントしてるわけじゃないから……」



 そう言う叶を、桜はさらに強く抱きしめる。

 叶は柔らかさなどを感じながらも、ちょっと苦しい。

 しかしすごい喜びようが、どうしようもなく嬉しいのだ。



「違うの、気持ちがとても嬉しいの! 私のために、私のために…こんなに、こんなに…頑張ってすごいのもってきて、そのことを考えるだけで私…! 今までの恩も1割も返せてないのに……! だから、私の嬉しさと同じくらい叶が嬉しいことを私もしたい!」 



 涙目になりながらそう訴える桜を見て、叶は考えた。

 それなら一つ、と、大きなわがままを思いつく。それを言ってみることにした。



「なら、20歳で結婚する約束だったけど高校卒業してすぐ、にまで引き下げるってのはどうかな?」

「……いいよっ! 喜んで!」


 

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