第六百七十五話 全国大会後、アナズムにて 2 (翔)
「うおー、すげーいい匂い!」
「お、主役の登場だ! こっちこっち」
「わーふー!」
有夢が手招きし、円卓の上座を指した。
そこに座れってことは、やはり俺が主役。いや、俺以外は今回はいないんだが。
ちなみに前屈みなんてせずに俺はちゃんと歩けている。ちゃんとした服に着替え終わったリルからの提案で、なんか興奮を冷めさせる薬とか作って飲めばいいんじゃないかと言われたからな。
その通りにしたらなんとかなったぜ。
「にしても豪華だな…」
「そりゃね! ドラゴンステーキに匹敵するような高級料理を俺が腕をふるって作ったんだもの!」
いつものなんちゃらローズドラゴンのステーキ(前より量は少なめ)や、なんかオーロラかオーラかよくわかんないものが空に漂っているスープ。
見た目がいかつい魚の焼き物や、みたことない野菜のサラダ。あとやけに美味そうなパン。……アナズムの超高級料理はやはり魔物を使うんだな、大半は。
「じゃあ乾杯しようか!」
有夢の掛け声で、俺たちは乾杯する。
そういやこの飲み物も神聖なオーラが漂ってるな。
「………わふぅ、本でしか読んだことないような高級料理ばっかりだね…!」
「ふふん、まーねー! それぞれが王族の会食の目玉になるような料理を一度に作り上げるのは、俺のダークマターでしかやれないんだよっ」
そういや、席が全部で6つ。
一つ足りない気がするが。
「シヴァってそういえばどうしたんだ?」
「んー? 今回は連れてきてないよ。もうすこしゴタゴタが片付いたら親をこちらに連れてくるのと一緒に戻らせるんだ」
「おう、そうか」
「まあまあ、とにかく食べてみてよー! 美味しいよー」
有夢にそう言われちまったから、俺はなんかやけに美味そうなパンから手をつけた。
「うまぁ!?」
「でしょー。ゴッドブレッドって名前のちょっと名前がかっこいいパンだよ」
なんでパンがこんないうまいかわからん。
肉が一番好きなリルでさえ、これを食べて震えている。
…….そういや、今までアナズム限定の超高級料理だなんて食ってこなかったな。
有夢もだいたいドラゴン肉を使った料理するし。
「どんどん食べてよ! 食後にケーキもあるからさ」
そうさせてもらおう。
空きっ腹にこの美味すぎる夕飯は、至福だ。
「この切り分けられた魚の切り身は?」
「SSランクの魔物の魚だよ」
「……サラダは?」
「食べられる植物のSSランクの魔物だよ」
「このスープ…」
「SSランクの魔物の骨とかまあ、いろいろな魔物のブイヨンかな」
やはりこの世界の高級食材=高ランクの魔物は揺るがないな。さっき言ってた通り、有夢だからできた所業だろう。
しばらくして、6人で出されていたものは全て平らげた。有夢がケーキを運んでくる。
見ただけでよだれが出そうなくらい美味そうだ。
桜ちゃんは目で必死にそれだけを捉えている。
切り分けてあるケーキを有夢はそれぞれの皿に乗せた。
「さ、召し上がれ!」
一口食べる。
うおお、めちゃくちゃうめぇ。
「な、これもやっぱり……」
「ん? ああ、卵とかがSSランクの魔物のものかな」
「そ、そうか」
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めちゃくちゃ美味い夕飯を食べ終わり、俺とリルは部屋に戻ってくる。
さて、リルに風呂入るかどうか聞かなきゃな。
「んじゃ、風呂入るか?」
「入るか…って、一緒に入ってもいいのかい?」
「今日もそのつもりなんだろ」
「うん!」
事の前、俺たちは必ず一緒に風呂に入る。リルがそのつもりなのはもうわかってるからな。
と、言うわけで俺とリルは浴室に移動した。
こちらをチラチラ見て顔を赤らめながら、リルは着ていたものを全て脱ぐ。俺も一緒に。
さっきほぼ裸…絆創膏だけとか布面積が狭すぎる下着格好もしてくれたのに、いちいち顔を赤らめて恥ずかしがるのが可愛い。
「じ…じゃ、入ろっか」
「……おう」
つっても、俺も恥ずかしいけどな。
しかし何回目だと思ってるんだ、俺は。いい加減慣れてもいいんじゃないか。
俺とリルはまず身体から洗う。
洗いっこだなんてこともやるな。まあ……同い年の男女が洗いっこするつったらもちろん、不純な行為も含まれるが…。
「背中洗うね」
「ああ」
後ろを向いた途端、泡のふわりとした感触と人肌の温もり、柔らかさ感じられた。やりづらいだろうに、俺のために体を張っている。
とまあ、こんな感じでお互いに一通り洗い終わったら、一緒に湯船に浸かり、雑談をすんだ。
「わふぅ…やっとだよ。ショーの試合を見た時の興奮、やっと私は解消できるね。ずっとひもじくてたまらなかったんだぁ…」
「……そうか」
「なんならここでガオーって襲ってきてもいいよ?」
「いや、きちんとベッドの上でだな」
「わふへへ、今夜は寝かさないよっ! 全国優勝のご褒美はここからが本番さ」
そのあと俺たちは。




