第六百五十八話 宿泊 (翔)
「おーい、着いたぞ」
午後6時丁度くらいか。
どうやら今日泊まる宿に着いたみたいだった。
俺は眼を開ける。いつの間にか寝ちまってたみたいだな。リルと一緒に。
リルはまだ寝息を立てて俺に寄りかかっている。
起こすか。
「リル、起きろ。着いたぞ」
「わふぇ…ふわわ…おはよう。ショー、着いたんだって?」
「ああ」
「ふわぁ……ん」
リルは目をこすり背伸びをする。
そういや俺ら以外にも…ああ、ほぼ全員寝ちまってたようだな。ゴリセンも目をしばしばさせているところからどうやらさっきまで寝てたようだ。
「じゃあ前の方から降りてけ」
「うっす。ありがとうございました」
荷物をもってリルを立たせ、先導してバスから降りる。
運転手への御礼も忘れずにな。
バスを降りたらすでに宿のひとが俺たちの荷物を荷下ろししてくれており、その中から自分のを担ぐ。
「リル、持とうか?」
「わふ? このくらい軽いよ」
彼女の荷物をもつなんて当たり前のこと、自信も見た目と反して力持ちなリルには余計だったか。
「じゃあとりあえず部屋割りを決めたいが、まずは宿に入っちまうぞー」
宿に向かって歩いて行くゴリセンに俺達は着いて行く。そして宿に入った。…なるほどボロいとまではいかないが良くても古めの宿に泊まらされると思ってたんだが…ここはどう見ても中級、いやそれ以上の宿だ。
「学校側が金を出してくれたからな、こんないいとこ泊まれた。ま、だからと言って時間計画の講義はするがな」
なるほど、学校側からの支援か。
うちの学校はさすがに金はたんまりあるからな。
「じゃあまず部屋割りを決める! 人数の問題で2人で一部屋だ。まあそれでもかなり余裕あるがな。…あと、フエンさんは一人で一部屋だろ、唯一の女子だしな。 二部屋だけ3人になったり俺と相部屋になるが我慢しろよ。異議はないな?」
「まあそれが妥当っすよね」
「全然。こんないい宿なんで3人部屋でも大丈夫ですよ」
「えっ……」
女子であるリルは一人部屋、それ以外は2~3人で1部屋。これは当たり前のことだと思うし、俺もそれでいいと思うが…リルがめっちゃ文句言いたそうな顔してる。
「ん? どうしたフエンさん」
「キツキツなら私はショーと同じ部屋にしてくれればなにも問題はないかなーって思うん…デス、が?」
「いや、別に…3人でも部屋広いから余裕は…」
「………ショーと一緒のお部屋……」
くっ…リルめ、流石の俺も口に出さなかった要望をこうもやすやすと…! 俺だってリルと一緒に寝たい。寝る直前のちょっとしたスキンシップ込みでな。しかし、しかしだ! これは神聖な学校行事。そういうわけにはいかない!
「そ、そんなに火野と同じ部屋がいいか。教員としてそれは許可できないんだが…」
「そう…ですか…。でもショーの体調管理とか私がしてるし…明日から全力を出してもらうためにも必要だと思ったんですケド…」
俺の体調管理をしている、その一言で部員全員がこちらを向いた。いや、たしかに栄養面とかストレッチ、整体に至るまでリルは管理してくれてるけどよ。……みんな別の意味で捉えてないか?
……体調管理だとしても…エロチズムの方面でも、どんな捉え方してもそれは正解なのは否定できないが。
「じ、じゃああれだ。今から飯を食う。飯が終わった後から就寝時間まで自由行動にさせるから、それまでショーがリルさんの部屋に遊びに行けばいいだろ。な? それじゃダメかフエンさん」
「添い寝…んー、でも仕方ないか…。わかりました。ワガママ言ってスイマセン」
リルが引き下がったぞ、流石のゴリセンだ。リルがわがまま言うなんてまじで珍しいが…こんなこともあるんだな。俺と一緒に居たいか…ふふ、幸せだぜ。これだけで明日明後日は全力を出せそうな気がする。
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「わふーん、美味しかったね!」
「ああ、思ったより美味かった。リルの飯の方がうまいがな」
「わふ、そんなこと言って! ありがとっ」
俺とリルはリルが泊まる予定の部屋に直行した。
ちなみに寝るときはゴリセンと相部屋だ。くじ引きでそう決まった。剛田とかと一緒になるとこの自由時間の間でリルと何してたか訊かれるから正直助かったが。
「さて、と。ショー…どうしたい? これから自由時間内でお風呂な訳だけど温泉に入る? それともお部屋のお風呂で一緒に入る? 温泉でも混浴があるらしいから一緒に入れるよ!」
「こ、混浴…か。それはやめておこう」
バスタオル着用していいかどうかわからない上(そもそも水着は持ってきてないしな)、リルの裸体が他人に見られるのが死ぬほど嫌だ。
この部員の中からか…あるいは、この宿には他校も泊まってるだろう。そんな野郎共も助平目当てで混浴に入りに来るやつが100%居る。
そんなのは絶対に嫌だ。
「そうかい。じゃあ一緒にこの部屋のお風呂に入る?」
「温泉に普通に別々に入るって選択肢はないのか?」
「ショーがそれでいいんだったら私はそれでもいいよ…」
と、リルは口で言ってるものの態度はわかりやすい。
俺と一緒に風呂入ったって俺にしか得はないはずなんだがな…。
「ま、まあどうしてもっていうんならバスタオルつけて入るぞ……。デートじゃないからな、真っ裸は無しだ」
「わふ、わかったよ!」
「あと風呂上がりにいつもの整体頼むわ」
「任せてよ!」
まあ、これでいいだろ…うん。
なんか損した気分だがな。




