第六百三十四話 滅魔神シヴァ 2
「ん……? まてよ」
「どうしたの?」
俺が男の娘だと知ってから、シヴァはなにか疑問なことがあるようで、首を傾げてくる。
「有夢が女の子でないとなると、人間関係、かなり変わってるよな? だって叶と桜が動物園でデートしてるの見たし……。目が見えないから今まで行かなかったはずだろ?」
「ああ、それは……」
叶が自分から桜ちゃんの目がどう治ったかを、詳しいところは話さずに簡潔に伝えた。
するとシヴァは涙目になったの。
「そっか…そっか、アナズムでなぁ……。いろんな意味で運が良かったなぁ…。目が見えなくて苦しんでる桜と、それを健気にも介護する叶をずっと見てきた私からすればもう、涙が止まらなくて止まらなくて……」
「あ…うん…ありがとう…ございます?」
桜ちゃんが御礼を言うけど、どうしても疑問形になっちゃうよね。わかる。
だって取り敢えず魔神だしね。
のこり二柱は敵だったわけだし。
「そっかぁ……子供の顔が見たいなぁ…。きっととんでもなく美人…あるいはイケメンで、頭がいい子が生まれてくるんだろうなぁ…」
「そ…それはその、あと6年以上まって欲しいかな…」
「それはそうだ。14歳で妊娠なんぞ、一応神である私も祝福なんぞしてやらん。まあ、二人なら心配ないし、私にそんな機能ないんだけど」
あー、もう何これ。
本当に近所のおじちゃんとお話ししてる気分だよ。調子狂うなぁ。調子狂うよぉ。
あの叶ですら調子狂ってるんだからさ。
「で、私が本当に訊きたかったのは、有夢と美花が付き合ってるかということだ。……よく考えたらキスしてたな」
「そのキスもまさか……」
「百合ものだと思ってました」
「そうですか」
でもお地蔵さんの前ではキスしてことないんだけど。まあ、好きなところを自由に見れると考えたほうがいいよね、さっきからの言動だと。
「そっか……俺はてっきり有夢と翔がくっつき、百合思考な美花が同性であるがゆえに諦めると思ってたんだがな。そうか、美花は同性愛者ではなかったか」
「ち…っちがう! ちがう!」
たしかに俺が正真正銘の女の子なら美花は思いっきりレズということになる。
まあ……アナズムで俺がアリムの時もキスとかしてたし間違ってないのかもしれない。
今の言葉は口に出せないな。うん、出せないな。
「そしてその翔の恋人がそこの狼族の……」
「り、リル…」
「そうか、リルか」
よろしくな、みたいな笑みを見せるシヴァ。でも顔がピエロだからわけわからないことになってる。
「ところで翔。スルトルは相当な怒りを込めた賢者か賢者を呼び出す一族の者にしか取り付けない。……お前は一体どんなことに怒ったのだ? 有夢と美花が向こうでも何かされそうになったか? 賢者を生み出す一族の者の半数以上は経験上性格悪いからな」
「あっ…いや、リルをスルトルに直接……」
「灰にされてしまったか。……それは悲惨だったな。で、なんで今は生きている? それは有夢と美花にも言える。なんでサマイエイルの羽を受けて生きているのだ。どうなってるんだ? どちらも即死な上、復活薬も魔法も無意味なはずだぞ」
即死で復活不可ね、これは本当にやばいと思ってたんだろうなぁ…アムリタがなければ。
そもそも俺たちが快適に過ごしていられるのはアムリタのおかげが本当に大きいからね。
「ああ、この身体の主にアムリタを使ってたな、有夢は。それか!」
「うん」
「そうかそうか、よく見つけられたなそんな貴重なもの。……でもおかしいな。普通は持ってても10本程度なのだが、国の中心都市の人間丸ごと生き返らせているようだ…」
「量産化に成功したからね」
「量産化に成功だと!? はぁ!?」
とんでもない驚き方された。さっき俺が男だってわかった時より驚いてるよこれ。
「アムリタの量産化って…なにしたのかわかってるのか!?」
「え、身内間でしか回してないけどなにか問題あるの?」
まあ半分嘘なんだけど。
思いっきり国王様達にも使わせてるわけだし。
「いや……不老不死に若返り、本来生き返るはずのない者まで万全の状態で蘇えらせる、神具級の中の神具級の回復薬だからな」
「まあね、だから結構厳重に管理してるんだけど」
実を言うと国王様から指摘されるまでドリンク感覚で結構じゃぶじゃぶ使ってなのは秘密にしておこうね。なんか怒られそうだし。
「ならいいが。とにかく私はみんなに何かあったらと思うと心配で心配で……」
「な、なんでそんなに心配してくれるの?」
「それはなあ、こんなちっちゃいころから知ってるからだろ」
やっぱこの人近所のおじちゃんか何かなんじゃないの? 本当に調子狂うなぁ…もう。
「ところで…さ」
「む、なんだ叶」
「単刀直入に訊くけど、シヴァは結局敵なの? 味方なの? 他の魔神は二柱とも敵だったけど」
叶がズバリとそういった。
時計を見てる。いつの間にか外に出てから30分も経っていたのか。
「ああ、そのことか。私は_____」