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第六百三十二話 遅し

「はは、予測してた中で一番最悪のパターンだ」



 叶がそう呟いた。

 俺でもわかる。導者であろう光夫さんがもうすでに手元に魔神が封印された金剛杵を握っているのは非常にまずい。いや、まずいなんかで済めばいい。

 でも性格な記憶まで変わってるみたいだし、もうどう考えても……。



「光夫さん、その金剛杵が何かわかってますか?」

「もちろんだ。導者の道具だろ?」

「そこまで…」


 

 そこまでわかってる。光夫さん本人の言ってることが正しいんだったら金剛杵の記憶なんてないはずだ。

 


「ね、かにゃた…その、もしかしてあの人……」

「たぶん、そのもしかしてだと思う。色々とこれから策を練ろうとしてたけど、時既に遅しってやつだね。全員、いつでも逃げられるようにしておいてよ」



 とてつもない緊張感。もうみんなわかってるんだ。目の前にいるピエロは、光夫さんではなくもっと凶悪な存在であると言うことを。



「なんだ、そんなに警戒しなくてもいいのに」

「そりゃ警戒もするぜ。だってあんた……魔神だろ?」



 翔がそうズバリと訊いた。

 光夫さんの姿をしている元黒フードの男は、ニヤニヤと笑ったまま、その質問に丁寧に答えた。



「その通りだ、翔。いや、もうみんな気がついていたか。全員頭いいものな。ははは、んー」



 魔神は首をコキコキと鳴らす。

 翔は一番前に出て俺たちを庇おうとしてるし、叶も色々と考えてるみたい。俺にも何かできることがあるか知らん。



「それにしても私は驚いている。まさか君達全員がこうして私の前に、アナズムの知識をもって現れるなんてな」

「いや、俺たちもはっきり言って驚いてるよ。まさかこんな身近に魔神が潜んでるだなんて」



 だって思ってもみないじゃないか、自分の家のすぐ近くにこんな爆弾が封印されてるだなんて。いくらか曰くはあるけどただのお地蔵様には変わりないだなんて、誰だって思うじゃん? その結果がこれだよ。



「未来はともかく、運命は神にも操れぬが、こうも偶然が積み重なるとはさすがの私もびっくりだ。……どう考えてもあいつが……。いや、それはともかくもう全員がだいぶ知識を溜め込んでるみたいだし、私自身の説明なんかはいらないな?」



 あいつって誰だよ…なんて思ったけど確かにこの魔神が言う通りすでに何者かの説明がいらないんだよね、俺達には。だいぶ生活が変わったな…なんてつい感じちゃう。

 

 魔神は金剛杵を握りこみ、握ってない方の手で自分の胸に手をやった。そしてニヤニヤと笑うのをやめる。

 道化なのにどこか厳格な雰囲気に変わってしまっている。



「では、魔神などの説明はない省かせてもらおう。私は滅魔神シヴァ。この地球に既にいる名が同じ神の、もう一つの名をとり、アシュラと呼んでくれても構わない、なんてな」



 滅魔神シヴァ。

 三柱いる魔神の残り最後の一柱。

 なんだろう、今までの魔神よりはなんだか話が通じそうな相手だ。そもそも敵対心が見えない。



「お前達も自己紹介してくれと言いたいところだが、私はそこの狼族の少女以外はよく知っている。それにしても実に危なかったではないか」

「……なにが…?」

「ああ、いや、前にその狼族の少女が、翔とともにこの地蔵のもとにお祈りしに来た時のことだ」



 リルちゃんは自分を指差しながら首を傾げてる。あの時ってあれか、リルちゃんがお地蔵様の前でお祈りしようとしたら何かおかしな挙動を取り始めたやつか。



「アナズムの魔力を感じてな、導者が来るまでの仮の器としてお前の身体をいただこうと思っんだが……ちかくに翔がいて必死に呼びかけていたからな、止めたのだ」

「え、えっと……」

「ちなみにあのまま私が取り付いていたら寿命はのこり3日となり、さらに精神崩壊もしていたぞ」

「あ、ありがとうございます……?」



 なんなんだろ、本当に今までの魔神と比べると良心的だな。いや、もっと言えばすっごい親しくしてくれて来てるような。



「導者や導者を生み出す血族以外の者に取り憑くとなー、その対象はすぐ壊れるからな。賢者や勇者、それらを生み出す血族でも大丈夫か。……そうだ! 五人もアナズムに送られた者が居るのだ。一人くらいは賢者が居るんじゃないか? 誰かいるか? ちょっと手を挙げてみろ」



 翔と叶と桜ちゃんはそれぞれ顔を見合わせる。

 三人の小会議の結果、どうやら変に刺激しないように教えてあげることに決まったようだ。

 三人とも小さく手を挙げるわ



「お!? 翔と叶と桜が賢者なのか! なんというか、豊作というべきなのか」



 どうやら嘘偽り、演技なしで純粋に驚いてるみたいだ。

 やっぱり三人賢者は魔神から見ても相当珍しいことなんだね。



「なんか色々調子が狂う。質問でもしてみるよ」



 叶がそう切り出して来た。

 せっかくだしお願いしよう。



「……その、シヴァは俺たちのこと知ってるんだよね?」

「ん? ああ、よーく知ってるぞ! 有夢と美花がこーんな小さい時からな。幼稚園に入園し始めたころに翔も連れてきたな。叶と桜に関しては生後数週間からだ」

「なんでそんなに俺たちのこと知ってるの?」



 そんな叶の質問に、魔神はいとも簡単に答えてくれる。



「なに、見てたからだ」

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