第六百二十六話 夜に地蔵のもとで
「美花、おーはよ」
「あゆむ、おはよー」
さっきアナズムから帰って来たばかりだけど、とりあえずそう言っておく。
「で、結局やるのかしらね?」
「わかんないよ。朝ごはんの時にきいてみる」
アナズムで叶達にお地蔵様の秘密を打ち明け、そんでもって考察したあの日。終わる間際にリルちゃんが言い始めた『最期だったらどうするか』『最後まで一緒にいたい』とそんな話題で盛り上がる前に、叶から一つやるべきことを指示されていたの。
『あゆむー、ごはーん!』
母さんの俺を呼ぶ声が聞こえた。朝ごはんを用意してくれてるんだ。
ちなみに俺と叶の料理の腕を知ってから2日に一回どっちかにその日の料理、朝食と夕食を作るようにねだってくるんだよね。まあ得意分野だからいいけど。
それに最近はお弁当は美花が毎日作ってくれるしね。愛妻弁当ってやつ(お父さんのお弁当はお母さんが作ってるけど)。
なんかこれだけでだいぶ楽とかお母さん言ってたよ。良かった良かった。
「はーい! じゃあまた後でね」
「うんっ」
窓から身を乗りだし、美花は俺の頬にキスをすると部屋の中に引っ込んでった。
続けて俺も2階から1階のリビングに降りる。
「おはよー!」
「おはよ、有夢。朝ごはん食べなね」
「うん!」
「にいちゃんおはよ」
「おはよぉ」
「おお、有夢、おはよう」
「おはよーっ」
何回おはようと言えばいいのか。起きてからすでに4回は言ったぞ。ま、こんなこと日常茶飯事なんだけど。
「んでにいちゃん、わかってるよね? 今夜」
「うんうん、わかってるよ。でもやっぱりバチが当たりそうで怖いよ」
「でも仕方ないじゃん、確認する方法はそれしかないんだから……」
「むーっ…ぷくーっ」
そう、叶がやると宣言して来た内容は、夜中に地蔵のところまで行って頭をとり、中身を確認すること。
いくつもいくつももう金剛杵が取られてしまっているような事柄が起きているわけだけど、でも百聞は一見にしかず、本当に中身を確認してみないとわからない。
「ん、何の話?」
「ああ、母さん。今日ちょっと夕飯食べた後では出かけると思う。テストで確認したいことがあって」
「夕飯食べた時間で確認したいこと…?」
「そそ、翔さんも付いてくるからなにも心配することないよ」
「そう? ならいいけど。誰かの家で勉強会ってことかしら?」
「んー、ちょっと違うけど、そう考えてもらって構わないかな」
会話文だけ見ればめちゃクチャなこと言ってるのに身振りと声のトーンだけで押し切りやがった。さすがマイブラザー。
ちなみに翔は本当はあまり出てこない。いや、正確に言えば俺らからちょっと離れた場所でリルちゃんと待機してもらうつもりなの。
リルちゃんはお地蔵さまに近づいたら危ないからね、仕方ないね。かと言って翔を俺たちの周りに居なきゃ、夜に俺たちが出歩くなんて誘拐される危険性があるからね、仕方ないんだよ、うんうん。
ショー一人なら武装したテロリスト数人くらい一人で制圧できるからね(叶曰く、数値上では)。
「ごちそーさま!」
「はい、お粗末さま。じゃあ着替えてきなさい」
「うんっ」
俺は二階の自分の部屋まで上がり、着替えを始める。ちょうど美花も着替え始めたところだった。
「あ、有夢。ど? おじさんとおばさんから許可は得られた?」
「叶が簡単な説明で無理やり納得させたよ」
「さっすが叶君ね! 私達は翔の家でリルちゃん達と遅くまでお勉強するって事になったわ。おかげで夜は外で食べないと」
「あっ……俺もそうすればよかった。夜ご飯は家で食べる事にしちゃった」
失敗したなぁ。
月曜日からお外で食べる事は考えつかなかったや。
「んー、ま、いいよ。桜と久々に二人っきりで遊んでくる」
「そっか、ごめんねー」
その後俺たちは無事に着替え終わり(俺が部屋に戻った時点で中シャツ着てたから美花の下着は見れなかったよ、残念)、外に出た。
「よし、行こっか!」
「今日は一回、お地蔵様を経由して行かない? 夜に来る前に下見としてさ」
「そうしよっか」
いつもの通りに俺と美花は手を握り合い、お地蔵様の元まで歩いた。ご近所さんに仲睦まじいところを弄られながらも、ものすごい近場にあるからあっという間に目的地に辿り着くの。
「周りに気配は?」
「目で見てる範囲にはいないね。……探知の劣化版にも引っかからないみたいだ」
「……そうね。それでお地蔵様に異常は?」
俺はお地蔵様をちゃんとみた。ここまで凝視するのは数年ぶりかもしれない。やはり普通のお地蔵様とは違い、手は合わせずに指を組み…うん、そのほかにも色々と普通のものと相違点はあるけど挙げてたらキリがない。
俺と美花はとりあえずいつも通りに手を合わせた後、再び手を握って歩き出すの。
「……大丈夫かしらね」
「ここで黒フードの人とか出て来ると思ったけどそんな事ないみたいだね…」
「……全然時間に余裕あるけど、行こっか」
「だね」
そしていつも通り学校へと。