第六百十三話 翔のところにも (翔)
「お疲れ! この調子なら県大会も無双できそうだなァ!」
「そうっすかね?」
今日の練習も終わった。
地区大会を団体も個人も優勝してからというもの、なんか調子がいいぜ。先生達からも通りすがりに褒めれるしな。
「ああ、そうだフエンさん。少しききたいことがあるんだが」
「なんでしょうか?」
「食うなら肉派か? 魚派か?」
「断然肉です! 思いっきり!」
元は狼のリルは、ゴリセンからの問いに元気にそう答えた。
「肉か……よし、なら県大会…いや、個人団体どちらかで地方大会以上でいい成績のこせた奴は俺が焼肉奢ってやる! ……それともし個人での全国大会優勝ができたならば、そいつは一人好きな部員を連れてこい。その部員も焼肉奢ってやる」
「うおおおおおおおおお!!?」
「マジスカ!? マジスカ!?」
かなり人は限定されてるとはいえ、ゴリセン、なんて太っ腹なんだ。2500円くらいの食べ放題だとしても、仮に俺ら選抜五人が地方大会にでて良い結果を残したら1万2500円も払うことになるじゃねーか。
ん、でもまてよ、後半って……。
「ゴリセン、それ俺に全国優勝しろと?」
「フエンさんに肉を食べさせてやりたかったらな!」
「……うっす!」
するしかないか、全国優勝。
行けっかなぁ……どうだろう。頑張るしかないよな。
「じゃあ、辺りは暗いし気をつけて帰れよ二人とも。もっとも、翔を倒すには軍の小隊ひとつは持ってこないと無理だと思うがな」
「それは流石にないっすよ。 ありがとーございました!」
「ありがとございました!」
俺のリルは学校を出た。辺りはもう薄暗い。
こういう雰囲気のなか、彼女と二人で帰るのもなんかオツなもんだな。青春の一ページって感じがするわ。
「ショー、無理はしないでよ?」
「無理は一応しねーけど、リルにはゴリセンの金で肉たらふく食わせてやんよ」
「わふ、ありがと!」
リルが腕に抱きつこう…としてやめた。
自分の匂いが臭いと思い込んでるのは中々治らないようだ。俺は無理やりリルを側に引き寄せた。
「わふ、汗臭いよ!」
「俺がか?」
「ショーはかっこいいからいいんだよ。私だよ私」
「リルは超美少女だからいいんだよ」
「わっふぅ…!」
リルは顔を赤くした。
なんでアナズムでエロ的な意味であれだけのことをしといて、褒めると真っ赤になるのか……めちゃくちゃ可愛い。
「し、しっとりしてるけど許してね」
「おう」
リルが俺の腕を抱く。腕に伝わる柔らかすぎる胸の感覚はもう慣れ…ない。たぶん、どれだけ日にちが経っても慣れないだろうな。
「……っ!?」
唐突に、リルが何かに気がついたように後ろを振り向いた。
「どうした、リル」
「……今確かに誰かそこに居たんだ」
じーっとリルは一点を睨む。
バレたと観念したのか、出てきたのは一人の黒いフードを被った不審者だった。
「……まさかバレるとはな」
「あなたはなんなん______」
「なんですか? 何か用でしょうか」
リルの言葉を遮り、一歩前に出て俺はそう受け答えした。なぜかフードの男は笑っているように見える。
「うむ、お前は翔だな? 知っているぞ」
「……それで」
「子供の頃から凛々しかったが、今に至っては歴戦の勇者の姿すら彷彿とさせる。大きなったな」
「…!?」
俺とリルは顔を一瞬だけ見合わせた。そう、記憶が正しければこいつは、叶君の言ってたアナズムの関係者。
「……何者なんだ?」
「ああ、私が何者か知りたいか? しかし教えてやらん。逆に聞こう、その娘はアナズムから来ただろう」
「……わふっ」
リルは身体をピクリと震わせた。俺はリルをいつでも逃げれるように少しだけ後ろに下がらせる。
「なに、とって食ったりしようとするわけではない。……そうだ、種族を当ててやろう。アナズムから地球へ人が来るなんて珍しいからな。もしかしたら初めてかもしれん。その毛の色、そして気配への完治と五感の鋭さ……オオカミ族だな?」
「……だ、だとしたら…?」
「ふむ、あたりか。いや、当ててみただけだ」
なんなんだこの人は。危害を加えるのか加えないのか。
ええい、もどかしい。
「ほんとに、あんたはなんなんすか?」
「む、今はそれを知る時ではない。またいつか再会するだろうから、そのいつかだな。……それにしても翔」
フードの男が俺をじっと見つめてきている…ような気がする。
「な、なんだ…」
「随分と大変な目にあったみたいだな。なにかものすごく憤怒したことはないか?」
「……え?」
「覚えがないならいい、さらばだ」
フードの男は物理的にはありえない、スッとした消え方をしまった。
「なんだったんだ?」
「……さあ。それよりショー、私を逃がそうとしなくてもいいよ。何かあったら一緒さ。いや、私を囮に逃げるのも……」
「リル、大切な人を守るのは男の役目だぞ」
「……ショーっ…」
リルはまた顔を赤くした。とりあえず可愛い。




