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第六百五話 不審者 (叶・桜)

 叶は片腕を前に出し、いつでも桜を庇えるようにしながら少しずつ前に出る。



「(あ、あの人?)」

「(わかんない。でも、怪しいのだけは確かだ)」



 二人はただ立っているだけの何者かから放たれるプレッシャーから気休めをするために、一番近くの倉庫の裏に回り、様子を伺った。



「怪しすぎる…」

「うん…」



 この場に叶と桜が辿り着いてから5分後、 黒い男が二人の方を振り向いた。そして、初めての一言。



「で…て…きな…さい」



 手招きしながらそう言ってくる男に二人は困惑。

 叶が決心を決め、前に出てきた。桜は叶の真横に若干震えながら付き添う。



「あなたは?」

「……おれ…の、こと…はどうでもいい。……すがた…を、よく、みせてくれ…」



 謎の要求に叶は応えるべく一歩前に出た。

 桜はちょっとだけ、叶の後ろに隠れるように。



「ふ……む。おおきくなった」

「大きくなった……? なにが…?」



 満足そうに頷く謎の男に叶は困惑する。しかか、どうやら攻撃の意思はないと察すると、質問をしてみることにした。



「あなた、最近俺たちを付けてますよね?」

「つけてる? ……つけてる?」



 黒い男は首をかしげる。

 首をかしげると言う行為はやはり人を選ぶなと叶は感想を抱く。



「つけてる、ちがう。みている、せいかい」

「……みている? なんで俺たちを?」

「…しってる。から」



 この二人の会話に頭の中にハテナマークしか浮かばない桜は、とりあえず叶に抱きついている。

 叶は質問を続けた。



「…翔さんにもつけてまわってますよね? わかります? 力強い感じの人です」

「それわかる。……つけてる、ちがう。でも…みてる。ひていしない」

「俺をつける理由が『知ってる』だとして、翔さんにはなぜ?」

「かんじる…から。アナズム、どうほうのにおい」



 叶はさらに顔をしかめた。

 無論、それはアナズムという単語が出てきたから。



「アナズム…」

「……ああ、それにしても、はなしにくい。これ。どうしゃ、でも、どーほーのちゅうこ。あー、もう」



 男は自分の喉を抑え、どこか悔しそうにそう言った。

 イントネーションもまちまちで、桜にも叶にも、どこか他の国の言葉にしか聞こえない。



「とりあえずききます。あなたは敵ですか?」

「てき? おれが。てき……ふ、ふははは……」



 何かツボにはまったのか、腹を抱えて笑いだす。

 しかし、何処かうなだれてるようにもみえ、叶は態度から相手の考えていることを読み取ることは諦める。

 


「ふぅ…はぁ…フハハハハハハハハハ!」



 先ほどのたどたどしい話し方は何処へやら。到達に笑い方がきちんとしたものになった男は自分でも驚いたように喉を抑えた。

 そして、普通の人が自分の声を確認するときのように「アー、アー」と発声し、頷くと、黒いフードを被ったまま、叶と桜を見据えた。



「ふむ、身体になれたか。ああ、質問を答えなければな。私が敵かどうか、それは教える気は無い。しかし….な。またいつか会うだろう。これは確定だカナタよ」

「……!!」



 叶は唐突に男が流暢にはなし始めたこと、そして自分の名前を発したことに驚く。フリーズはしなかったが。



「……とりあえずさらばだ」



 男はそう言うと、まるで影と空気に溶け込むようにスッと消えていった。二人はポツリと取り残される。



「なんか、大変なことになったね」

「わ、私達以外にアナズムの…いえ、それより叶の名前…」

「俺の名前はもう全国放送されちゃってるし、知っててもおかしくないよ。でも…ね、予想通りアナズム関係者とは恐れいった」



 あたりはシンとしており、静寂が走っている。

 息を呑み、ハッ、と桜は思い起こすとスマホを取り出した。



「みんなに連絡しなきゃ…」

「いや、連絡は明日でいいよ」

「え?」



 桜は驚いた表情で叶を見た。

 叶は首を横に振っている。



「どうせみんな集まるんだし、今日はもう向こうも手を出してこないだろうし。そもそもみんな忙しいしね」

「それは……そうだけど……」



 スマホの使用を止められた桜は正直にそれをしまった。

 叶はやっぱり不安そうな顔をしている桜の頭を、少し乱暴にかつ優しく撫でる。



「さ、俺たちもデートの続きをしようじゃないか」

「ふえ? いいの?」

「いいよ。ずっと楽しみだったんでしょ? いまさらあの程度の驚きでデートを中断することはできないよ」

「……うん」

「不安に思うのはわかるけど、俺たちだもん、なんとかなるよ」

「た、たよりにしてるからね?」

「うん。頼りにしててね」



 二人は気を取り直し、デートの続きとして、クマやキツネがいる山のブースへと場所を移した。


 



 



 

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