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閑話 王子達のデート (sideオルゴ) 3

「美味しかったです!」

「そうか、それは良かった」



 オルゴは二人ぶんの代金を店に支払った。デートとはかくあるべきものなのだとマニュアルに書いてあった通りに。



「デートって楽しいですね! 二人っきりで遊んでるような」

「たしかに二人きりで遊んで…いや、それはデートとはまた違うものなのではないか?」

「そうなんですかね?」



 また街に出た二人は歩きながらそんな相談をする。ちょこちょこといろんな店を覗きながら時間を潰しているのだ。ミュリは半歩後ろに下がりながら。



「次はどんなお店に行きましょうか! …あれなんてどうですか?」

「あれか?」



 ミュリが指差した先にはペットショップがあった。なるほど、こういうのもいいなと考えたオルゴはミュリとともにそこに入ることに。



「可愛い…みてください、オドド鳥の雛、可愛いですよ!」

「こういう時はこう言うんだったか。ミ、ミュリの方が…」

「あ、うさぎだ!」



 デートにも慣れて来たのか無邪気にはしゃぐミュリにオルゴはホッとため息をついた。安堵からのものだった。

 ペットショップを出た二人はまた歩き始める。



「ペットもいいですね」

「しかし馬がたくさんいるからな、城には」

「そうですね…馬の専門知識がないのでわかりませんが、他の動物と掛け合わせたらマズイものなんでしょうかね」

「俺も基本的に歩くからわからないな」



 また二人は何か面白いものを求めて歩く。そうして、ある一組のカップルを見つけた。

 そのカップルは抱きつき気味に手を握り、絡めあい、とても仲睦まじいようにみえる。

 いわゆる恋の先輩の前例を見たというわけだった。



「あ、あれ、私もしましょうかね?」

「む、無理しなくてもいいぞ」



 オルゴがそう言うと、ミュリは立ち止まった。

 どうやら真剣に考えているようだ。オルゴは生唾を飲んだ。もし手をあんな風に抱きつき気味に握れたら、自分は上がってしまうのではないかと言う恐怖と、しかしそうされたいという葛藤の間。

 ミュリは考え終わったようだ。



「お……オルゴ…。て…」

「あ、ああ」



 オルゴは手をミュリに向かって放り出した。

 ミュリはそんなオルゴのゴツゴツとした手に、自分の細い手を絡め、腕を抱く。



「こ、こうですかね?」

「そ、そそそ、そうだと思うぞ」



 二人にとってかなり勇気のいる行動である。

 オルゴはミュリに見えないように顔を赤め、ミュリは抱カップルのように抱きついた恥ずかしさで逆に冷静になっている。



「オルゴ……しっかりと鍛えてますね」

「そうだな、うん、剣士だからな」

「なんだか懐かしいです」



 ミュリはほぼ無意識により深く抱きつく。知り合い達の中ではアリムに次いでない胸である彼女の柔らかさを、オルゴが感じるほどに。



「なんか抱きつくのって落ちつきますね、手を握りながら」

「け、今朝も抱きついてきたじゃないか」

「……たしかに! でもあれはあまり意識してませんでしたから。こうして……彼女としてぎゅーってするのは…えへへ、いいですね」



 いつもと違うミュリにオルゴはさらに頬を赤めた。

 二人で、隣同士に並んで、体をこんなにも密着させている現状に。今回目指していたぶんのノルマはクリアしていると言うのにそんなことは一切意識せず。



「……オルゴ」

「こ、今度はなんだ?」

「やっぱり私、もう少し胸が欲しいです」

「いや、俺は別に気にしないが」

「…抱きついた時にこう、むにぃとならないのがなんか悔しいんです」

「む、むにぃ…な」



 実はもう感覚があるとオルゴは口に出せなかった。

 ミュリは少し不機嫌そうな表情を浮かべた後に、何を思い直したのかまた嬉しそうな顔をして抱きつき直す。



「そうですよ、思い出しましたこの感覚。昔、よくオルゴにおぶってもらっていたじゃないですか、あの時の感覚に似ています」

「そういえばそんなこともしていたな」



 今は気安くできないとオルゴは考える。

 ミュリはさらに何かを思い出したようだ。



「……あの時のキズ、まだありますか? アムリタで治ったりしましたかね?」

「いや、なぜか治っていなかった。あれは残っているぞ」

「そうですか……」



 ミュリはなぜか抱きつくのをやめ、手を握ったままオルゴの顔を見上げる。その憂いを含んだ瞳は強く輝いており、オルゴは目を合わせるしかなかった。



「思い切って抱きついて見てわかりました。やっぱり私、オルゴが大好きです。たぶん、あの時からずっと」

「……おう」

「ふふ、私この間、恋愛に関する本を読んだんですよ」



 なんだ、ミュリも同じことをしていたのかとオルゴは内心でため息をつく。

 ミュリはまだオルゴのことをじっと見つめていた。



「少し、屈んでみてくれませんか?」

「屈むのだな?」



 言われた通りにオルゴは屈んだ。

 と同時に顔はミュリの空いている片手に掴まれ、軽く引き寄せられると、唇に柔らかい感覚が走る。



「……お互いに初めてですよね?」

「………ああ」



 二人はそのままデートを続けた。一緒に並んで。

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