第六十二話 宿屋ヒカリにて
うーん、誰だろうか、こんな時間に。
ウルトさんは誰と話しているのだろう。
まぁ、俺には関係ないか。
そう考え、受付を通り過ぎようとした時に、偶然耳に入ったウルトさんと話している男性の一言に耳を奪われた。
「______と、アリムちゃんだっけか? 最速最年少のAランクってのは……?」
俺の話をしているようだが、その内容がおかしい。俺がAランクになったのは昨日の深夜だ。
ガバイナさん、グレープさん、御者さん達、あるいはギルドのランクを携わる役所の人か、ギルドの地位がある人しか知らないだろう。
そのことを知っているということは、今、ウルトさんと話しているのはギルド関連の人だということになる。
アギトさんという可能性も考えたが、声が違うからないだろう。
少し、透明になって話を聞こう。盗み聞きは良くないけどね。
ウルトさんも驚くべきことを言い出す。
「あ、やっぱりアリムちゃんなのか。Dランクがあんなステータスなわけないですからね。それより、Aランクか…。SSランクでもおかしくないと思いますけどね? まぁ、そのうちSSSランクですよ、あの娘は」
俺はウルトさんの前で、実力を奮ったことは一度もない。
何故、ウルトさんが俺の実力を評価できるのか。ステータスが見えるとしか思えない。
それに、SSSランクだと? 何故、ウルトさんがそのランクと俺を比べることができるんだ?
今度は女性の会話が聞こえる。
「へぇ……ウルトが他の冒険者を高評価するなんて珍しいじゃない? たしかに、適正年齢以下で史上最速最年少のAランク冒険者だったとしても……本当に私達と同等になりうる娘なのかしら?」
その女性の問いにウルトさんは答える。
「あぁ、間違いないさ。あの子は俺らと同じ、"あの名が付くスキル"を持っている。それも、全くの新種だ」
「へぇ…通りで。楽しみね」
「全くだ」
"あの名が付くスキル"ってなんだ…?
まさか、"マスター"か?
だとしたら、マスターは他にもあって、今、あそこにいる三人は、それぞれ何らかの"マスター"を持っているのか。
しかも、俺らと同じ…ってことは、ウルトさんは、イヤ、あそこにいる三人は、会話の内容から考えるに、SSSランクの冒険者だということになる。
まさか、ウルトさんが最高ランクの冒険者だったとはね…。
さらに、三人は話を続ける。
「で、その娘、どんな娘だ? 可愛いのか?」
「もう、何言ってるのよ…。ウルト、私も気になるんだけど」
「そうだな……武闘大会に出て、人目についたら、すぐに王都中で『可愛い』と、話題になるくらいには可愛いかな?」
ウルトさんったら…。そんなに褒めても、何もでないんだけどな…。
「へぇ…それは是非とも会ってみたいわね」
「じゃあ、会えばいいじゃないか、今」
「へ? ウルト、貴方、何言ってるのよ? もう寝てるに決まってるじゃないの。起こしたら悪いわ」
ん? ちょっと…ウルトさんまさか……でも、俺今、透明になってるし、音も出さないようにしてたし…。
「そこに居るのはわかってるよ。おいで。アリムちゃん」
何なんだこの人は。
俺はその三人の前に出る羽目になった。