閑話 王子達のデート (side ルイン) 1
「……よし」
ルインは懐中時計を見て一人で頷いた。
彼は今、待ち合わせ場所を『リロの部屋の前』にしたためにその場にいるのだ。
ドアを3回ノックした。
「リロ、準備はいいかい?」
「うん、いいよ。入って来て!」
「お邪魔するよ」
部屋に入ってまず、ルインはリロを見る。服装は外に出かける時のいつもの服装と相変わりない。
可愛い、それがルインの考えた最初の感想であった。
「デートだなんて、胸が高鳴るわねっ」
「うん、そうだね」
王子として育ち、情欲とは無関係に過ごして来たルインだが、これは男の性なのか、大きく誇張された双丘に目を写した。
彼女自身からその単語が発せられたので、仕方ないと言って仕舞えば、賛同するものも多いだろう。
自分が相手に対して失礼な場所を見ていると考えたルインは急いで目をそらした。
幼馴染が想い人に変わり、意識する様になったからでもある。
「さ、行こうか」
「…うん!」
ルインは手を差し伸べる。
デート中に握手をする…それが目標であったルインの第一の行動だが、これは身に染み付いていた王子としての女性に対する癖の様なものが発現しただけであり、意識して行ったことではなかった。
リロは一瞬戸惑ってから、恐る恐る手を握る。
『彼女である』という関係で繋ぐ手に、焦りと高揚を覚えながら手を絡める。
「このまま外に出ようね」
「うん」
二人はそのままで城を出た。
途中で多数のメイドや庭師、エルやヘレル、こっそりと観察していた大臣に見られていることは気付かずに。
とても初々しい二人を見て、関係者は皆、微笑ましい気持ちになっている。
「それで、何も聞いてないけれど、どこに行くの?」
「メフィラド大公園に行って通り芸とかを見て回ったり、彫刻を巡ったりするつもりだよ」
「公園を散歩? いいわね!」
デートはそれなりに重厚でなければならない、そう結論付けたルインはおしゃれな方向で行くことにした。
この街で1位2位を争う大きな公園、『メフィラド大公園』。芸術作品なども多数置かれており、ここでデートすることに決めたのだった。
オルゴと多少かぶるが、園内にある屋台で間食を取るのもまたいいだろうなどと考えている。
「公園ついたね」
「じゃ、何を見に行きましょうか。歴代の国王の石像とか?」
「そうだね……うん、それを見に行こうか」
手を繋いだまま二人はその場所へと向かう。
歴代国王の石像がずらりと並ぶ場所。無能だった王から有能だった王まで様々である。
亡くなった王のみがここに祀られるため、まだ現国王の石像はない。
また、現国王はまだ40半ばなため、あと数十年は新しいものが増えることはないのだった。
「うーん…やっぱり何度見ても歴代国王は誰も顔はルインに似てないわね。雰囲気は似てるんだけど……」
「まあ、お祖母様が嫁いで子供を産んだ時、そのお祖母様にそっくりなお母様が産まれたからね。僕達3人は母親似ってやつだと思うよ」
「やっぱりそうよね。私も目元はお父さんであとはお母さんだもん」
リロは握っていた手を離し、微笑みながら楽しそうにルインの顔をペタペタと触る。ルインはそれを照れながらも受け入れた。
「もっとたくさんみよ?」
「そうだ…ね?」
リロはもう、ルインが繋いでくれるものだと思い、手を差し伸べた。しかし先程までのはルインがほぼ無意識で行っていたのであり、今度はルインが焦る。
「手を…繋ぐの?」
「え、さっきまで繋いでたじゃない!」
「え……」
ルインは深く考えた。そして、城を出てからここに来るまでの経緯をおもいだす。確かに手を繋いで歩いていたと。
「ご、ごめん。ほぼ無意識に握っていたよ。では改めて」
「無意義に握ってたの? なんやかんや言って、昔はよくこうしてお散歩したりしたものね、その名残かもね」
「あ、ああ、そうかもね」
ルインはリロと手を握った。
肌の感触が伝わる。それだけで少し気分が高揚する様な気がした。
「ルインの手も随分大きくなったわね」
「リロだって」
「まあ成長したからね。えへへ、いろんなところが…なんて」
言葉の意味をすぐに理解したルインは、ふと、リロの胸の方に目をやる。そしてすぐにみるのをやめた。
今度は顔をじっとみる。
「どうしたの?」
「あっ…いやその、リロがさ」
「私が?」
「やっぱり…かわいいな、なんて」
「そっ…そそそ、そうかな? でもありがと」
リロはルインの手を、一瞬だけ撫でるように触れた。
「じゃ、次行こうよ」
「うん、行こう」
二人は今度はデートスポットとして有名なオブジェがたくさん置いてある広場へと、のんびりと歩いていった。