閑話 王子達のデート
「結婚式、素晴らしかったな」
SSSランカー同士の結婚式を直に見てきたルインとオルゴは、当日、そのことについて話し合っていた。
「アリムがプロデュースしたからああいうものになったんだよな」
「そうだね…。ね、オルゴ。僕達はいつ思い人と結婚しようか」
「それは…あれだ。個人個人で相談しなくてはダメだと思うぞ」
「だよね…」
ルインはうん、と頷いた。
しかしオルゴは険しい顔をする。
「しかし、俺達は何かを忘れている気がするぞ。付き合うようになってから俺達は何をした?」
「…アリムちゃんに連れられてレベル上げをして、そのあとはいつも通り4人で過ごしていたよね」
二人はここ数ヶ月のことを思い返した。
どこか心で引っかかる、物足りなさが二人を襲う。
「…なぁ、もう一度恋愛の本を読んでみないか?」
「そうだね」
二人は図書館へ行き、恋愛に関する本を数冊借りてくる。パラパラと数ページめくった二人に衝撃が走った。
手を止めたそのページには、このように書いてある。
【女の子とお付き合いできるようになりましたか? では次はデートです。デートをしなければなりません。デートのことをすっかり忘れていたあなた。まさか、キスはおろかまだハグすらないなんて、笑えませんよ? そんなのじゃ、相手に愛想をつかれます。】
王子達は顔を見合わせた。互いの顔に冷や汗が浮かぶ。
過去に書かれていた本にすら、自分たちの恋愛の進行状況が見透かされていたのだから。
親友としてては抱きしめはれても、異性として、恋人としてはまだ二人は相手を抱きしめたことがない。
「デ…デート、そうだデート! すっかり忘れていた…!」
「なんてことだ。いつも4人で行動してるからすっかり失念していた! このままではリロに愛想をつかれてしまう!」
慌てに慌てた二人の出した結論、それは。
「「デートをしよう」」
無論、デートをすることだった。
そうなると二人は色々と計画を立て始める。もちろん、愛の攻略本を見ながらだが。
そうして二人が出した結論と目標は_____
【2組に分かれて、別々のデートスポットへ行くこと。最初のデートでは相手をハグすることが最終目標】
となった。
善は急げ。早速、二人はそれぞれの想い人にデートの誘いをすることにした。
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「リロ、入るよ」
「ん、ルイン? いらっしゃい」
ルインはリロの部屋へと来た。付き合ってからは何度か通っており、ここで簡単な雑談をしている。
しかし、やはり4人でいる時間の方が多い。
「どうしたの? 今日は」
「えっと、今度の日曜日に一緒にどこか出かけない?」
「4人で?」
「ちがうよ。二人っきりでさ…その、デートってやつかな」
リロはキョトンとした顔でルインを見つめる。
そして頭の中でルインの言ったことを噛み締め復唱し、だんだんと笑顔になった。
「ほんとに?」
「ああ、今まで忘れててごめん。デートという発想が思いつかなくて」
「やーっと誘ってくれた。えへへ、待ってたのよ?」
初めてのデートの誘いが断られなかったこと、そしてリロが本当に嬉しそうな表情を浮かべていることに安堵したルインはホッと一息をつく。
「今更、初めてのデートに誘うだなんて、怒られて断られると思ってヒヤヒヤしてたよ」
「そんなわけないじゃない。すごく楽しみ! どこに行くかとかはもう決めてるの?」
「もし行きたい場所があるならそこに行くけど、ないなら俺が探して来た場所に行こう」
「うん! …ルイン、大好きよ?」
そう言われてルインは少し耳を赤くした。
言った本人も耳を赤くし、また、微笑んだ。
「うん、僕も大好きだよ」
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「い、よ、よお、ミュリ入るぞ」
「ええ、どうぞ!」
オルゴはミュリの部屋を訪ねた。
見た目によらず恥ずかしがりやなオルゴ、はルインほどの頻度でミュリの部屋には寄らなかった。
せいぜい、1週間に1回程度。
「嬉しいです! オルゴ、なにして遊びます? それてもお話ですか?」
「いや、ちょっと話があってな」
思いつめたような真面目な顔をしたオルゴの顔を見たミュリに、どっと不安な感情が渦巻く。
「な、なんですか? …もしかして私、何かしました? その、付き合ってからもあまり変わらないのは、もしかして……」
「ち、違うぞ! 勘違いをしないでくれ」
ミュリがなにを言おうとしたか、珍しく察したオルゴは慌てて言葉を遮った。ミュリは潤だした目をぬぐい、オルゴに微笑みかける。
「良かった。私、彼女としてなにもできてないかと…」
「そんなことはない。いや、むしろそれは俺の方だ。本当にすまない。……そして今日、俺がこの部屋に来たのはそれを打開するためなんだ」
「打開ですか…?」
ミュリは首を傾げた。
オルゴは深呼吸を一つすると、たどたどしく言葉を紡ぎはじめる。
「……で、デートしないか? 二人で」
「デート…ですか?」
「そうだ。デートだ」
ミュリは座っていた椅子から思いっきり立ち上がった。
そしてとても嬉しそうな表情を浮かべたまま、オルゴに飛びついた。
「嬉しいです…っ! 是非、是非行きましょう!」
「……ああ、いこうな!」
最終目標がもう終わってしまったことに困惑しながらも、オルゴは抱きついてきているミュリを優しく抱きかえしてみた。幼馴染とはいえ慣れないようで、顔を真っ赤にして。