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第五百八十八話 生涯無料VIPフリーパス

「これです」



 2枚のカードを渡してきた。

 そのカードには『ラブロングサーカス団 生涯無料VIPフリーパス』と書かれており、また、『このカードを提示された受付の者はすぐに団長を呼ぶこと』とも書かれている。



「そのカードを1枚提示していただければ、同時に10人まで無料となり、またサービス付きの特等席へとご案内します」

「え…あ…はい?」



 書いてある文面でこれがどう言う風に使うものかはわかるけれど。



「すいません、サーカスなんて普通の人は人生でそう何度も来るわけではないし…。そんなものしか今は用意できなくて。貴方には多くの迷惑をかけ、また深く感謝しなくてはならないのに」


 

 本当に申し訳なさそうにそう言うの。



「えっと、ありがとうございます……?」

「何かまた思いつき次第、御礼を…。ああ、あとそれとこれは私の連絡先です」



 なんかよくわかんないけどケータイのメールアドレスと電話番号ももらった。光夫さんは時計を見る。

 


「それと今回の分の料金も後で返却し、次の公演ではそのカードに書いてある通りの特等席へとご招待しますよ」

「え、いいんですか? すいません」



 下手に断るのはダメだろ。うん。

 せっかくだし甘んじちゃおうね。…でも光夫さん自信がさっき言ってた通り、サーカスって数年に1回行くのが関の山だよな…。まあいいや。   



「まだ少し時間あります…あの、いくつか尋ねたいことがあるのですがよろしいですか?」

「ああ、はい。変なことでなければ大丈夫ですよ」



 例えば俺たちの詳細とかね。

 あ…不審者にバストとウェスト訊かれたことあるの思い出しちゃった。とにかく、そんなのじゃなきゃいいんだよ。



「2枚渡したましたよね? それはお詫びも兼ねてるんです。貴方がこちらに帰ってきていると言うことは、私が殺めてしまったことのあるもう1人の……今日はいらっしゃってますか?」

「ええ、来てますよ! 俺のそばにずっと居ましたもん。この世のものとは思えないほど美人の黒髪ロングの娘です」

「この世のものとは思えないほど美人な女性は、貴方のお友達の中に何人も居たような気がしましたが…そうですか、長い黒髪のあの方ですか」



 普通だったら美花を指す場合、『この世のものとは思えないほどの美人』だとか、容姿を形容する言葉を言えばみんなすぐわかってくれるんだけど、いかんせん、今日は桜ちゃんもリルちゃんも……一応、叶も居るし。

 そんな感じで多数いたから髪で判断してもらった。



「しかしそうですか、出会った当初は女性同士の親友だ思っていたのですが、実は有夢さんは男だったとなると、そういうわけですか」

「んーと、はい、そういうわけです」



 妙に納得したような顔で光夫さんは頷く。

 


「それと…俺が貴方の名前を呼んだ時、貴方と…美花さんでしたか。お二人以外の方も驚いていたような気がするのです。…普段は喋らないという設定で道化をしているのでそれに対して驚かれたのかと思っていましたが、どうやら違うようで…」



 おっ、気がついたのかな。

 光夫さんはさらに続ける。



「それに、その1人の白髪の彼女が…なんだかアナズムでよく見るような感じで」

「ええ、当たってますよ。俺達6人全員、アナズムの関係者です」

「なんと……!!」



 ピエロの顔が驚愕に染まる。ちょっと驚きすぎな感じもするけれど。

 もう少し詳しいこと喋ってあげた方がいいかな。



「あの中のうち、1人が俺の小さい頃からの親友で、1人が俺の弟、もう1人は美花の妹です。その3人全員、本当に偶然、賢者としてサマイエイル以外の魔神を倒すために呼び出されたんです」

「そんなことが…身内だけが固まるとはなんとも。すごい偶然というべきなのでしょうか。それで…あの白髪の…」

「あの子は俺の親友とアナズムで恋人になって、そのまま連れてきちゃったんです」

「そ、そんなことができるのですか!? 通りで地球とは違うわけですね」

「できますよ」



 リルちゃんは外見は普通の外国人だ(の中でもめちゃくちゃ美人だけど)。目の色はアナズムと同じ碧色。これはたまたま地球でありえる色だったんだね。

 でも髪の色が青白灰色っていう、染めない限りできない色。なんでも髪の毛についてはなんかの病気でこうなったってことになってるらしい。

 つまり、ここがアナズムの人間っぽさなんだ。

 ………もしこれ、緑色の髪の毛の人とかどうなるんだろ。



「そうですか…アナズムに関わった人間など、向こうの文献を見た限りでは何人もいたようですが、それでも何十年に1人程度。自分含めて7人がアナズムに関わるとは……。まあこう考察したところで俺はもう関係ないですが」



 同じ時期に7人か、確かに多いな。過去の文献なんてアナズムの一般教養を身につけた時以外読んでないし知らないけど。

 光夫さんはまた時計を見た。

 途端に表情を変えるの。



「すいません、そろそろ出なくてはならなくなりました」

「そうですか!」

「全身全霊頑張りますので、次の公演、楽しみにしててくださいね」

「はいっ」

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