第五百七十一話 休みの日は? (美花)
「おはよう! リルちゃん」
「おはようっ! …ミカちゃん」
月曜日。
今週の土曜日はみんなでサーカスを見に行く予定なんだけど、その前に昨日……大事があったはずなの。リルちゃんと翔の間にね。
リルちゃんと翔はいつも通り仲よさそうに2人で登校してきたんだけど、リルちゃんが私の顔を見るなり真っ先にこちらに飛んできたの。
「どうだった?」
それだけを訊く。
リルちゃんは恥ずかしそうにモジモジしていたけど、すぐに答えてくれた。
「ショーから…誘ってれたよ……っ」
「良かったじゃない!」
誘って翔が承諾してくれれば成功だったものを、まさか翔から誘ってくるなんて…大成功と言わざるを得ない。
流石にまずいと思ったのかな。それとも有夢がアドバイスしてくれたのかな。
どちらでもいいけれど。
ああ、そうだ。いくら夜を一緒にしたと言っても私と有夢がまだウブだったころみたいに、お互い裸体になったまではいいけど最後までせずに終了だなんて事もあるかもしれない。一応聞いておこうかな。
「で…」
「で?」
「ちゃんと最後までしたの?」
「わふぅ!」
耳にそう囁くと、リルちゃんはコクコクと頷いた。
ま、そりゃあそうよね、流石に。
「じゃあ今日はちょっとだるかったり…」
「だるくはないけど、今日が体育じゃなくてよかったなとは思うよ」
そうよね、疲れるものね。
リルちゃんは周囲を確認してから私の席の机に腕と顔を乗せてしゃがんだ。
そしてちょっと唇を尖がらせるの。
「わふー。早くショーとの子供が欲しいよ。まだ学生だから無理だけど」
「でもだいぶ待たなきゃダメよ? 結婚自体もね。アナズムでは今すぐにでもできるかも知れないけれど、こっちじゃあ翔は警察の、それもキャリア組になるつもりでいるからね」
完全に翔のお父さんの跡を継ごうとしてるわよね。
男らしいっていえば男らしいかも。有夢は特に将来の夢は決まってなかったわけだし。
でも翔の夢を叶えるに従って大変なことはまだあるわけで。
「私も詳しくは知らないけど、大学院は出なきゃだか、結婚するのは25からで…その時に一緒に子供を作るとしてもあと9年は待たなきゃダメよ?」
「わふぅ…9年かぁ。私は16年間のうち10年間はその…辛い時期を過ごしてきたからね、割とあっという間かも」
「そういう考え方もあるか」
リルちゃんはにっこりと笑う。この笑顔を翔にも頻繁に見せてるのだとしたら、もう翔は他の女の子には手を出せないわね。だって可愛すぎるもの。
「わふん! それに大学に通っている間なら夏休みに2人で旅行に行けると思うし、その…昨日みたいなことだって、たくさんするチャンスがあると思うから辛くないよ」
「まあ確かにねぇ。早く結婚して子供は欲しいけど、それよりもまずは彼と一緒に居られるのが幸せだもんね」
「そうそう!」
私もこれから有夢が結婚式の影響でデザイン系に進むにしても、天才並みに勉強ができるようになったからもっと難しい職業つくにしても、全力で応援するしずっとそばにいるつもりだもの。
「わふーん、とにかく幸せだったよ昨日は…」
「いいなー、私も昨日有夢のお部屋に突入すればよかった」
うん、やっぱりそうすればよかったわ。
まだ避妊具も残ってるし。桜を上手いこと言って叶君の部屋に追い出して、有夢と2人っきりで………。
と、思ったけどよく考えたら昨日は有夢と叶君、家族でお出かけ行ってたわ。
ダメね、そんなこと忘れるなんて。
「わふん、突入しなかったの?」
「…今思い出したけど出かけてた」
「それは仕方ないね」
「ところでリルちゃんはまだ火野家とお出かけしてないの? やっばりおじさんが忙しい?」
あの家は昔っからおじさんが忙しかったからね。
一時期翔が寂しがってた……ってことはなかったわね、そういえば。逆にすごく尊敬してたっけ。
昔から人を助けまくってるし、生粋の正義の味方なのよね。
「そうみたいだね。まだショーとデートしただけだよ」
「そっかぁ」
「ミカちゃんは家族でお出かけしないの?」
「もちろんするわよ!」
一番最後にしたお出かけはいつだったかしら。まだ桜の目が見えなかった頃よね。
うん、色々大変だったけど楽しくはあったわ。
「でもしばらくはどこも行ってないわね」
「そっか。……そうだ、お出かけと言えば今週の土曜は6人で出かけようね!」
「うん!」
そして日曜日には家族でお出かけしようかな。
…叶君と同じ考え方で、桜に今まで見れなかったものを見せてあげようとするだろうけど、お父さんとお母さん。
でもサーカスを見せれるのは大きいわね。
桜も愛されてるわー。私も愛してるもの当たり前よね。
「あ、リルちゃん、そろそろホームルーム始めるよ」
「わふ、そうだね! じゃまた後でね!」
リルちゃんは翔の隣の席へと戻って行ったわ。
 




