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第五百六十五話 破壊導入

 ある男は目を開けた。

 そして、左右の確認をする。



「ガードレール……」



 異世界から来た子の男は道に設置されていた白塗りのガードレルを見るなり、安堵した表情をした。

 


「やっと帰ってこれたか」



 およそ数百年にも及ぶ異世界の旅行は、彼にとってはとても過酷なものであった。

 『故郷に帰りたい』、ただそれだけの願いを叶えるだけのはずなのに異世界の全人類を敵に回し、あまつさえ一度滅ぼされかけてしまう。

 自分を滅ぼしかけた…しかも同郷の少女の手を借り、なんとか帰還出来たのだ。



「とりあえずここはどこですかね?」



 手元に地図がない。

 しかし異世界に転載される前の服装であろうこのスーツの中には、いくらか物が入っているようだった。



「たしか…スマホでしたか」



 幾年も触れていなかった光る機械の板。

 しかしこれは染み付いたものなのか、幾らか操作方法は覚えているようだった。

 とはいえサクサクと何かを調べることはさすがにできない。


 たまたま入っていたアプリの一つである、自分の現在地を示し地図の代わりをしてくれるものを開いた。



「ふむ…こんなものが向こうにあったら、完全に伝説級のアイテムですねぇ…」


 

 そう考えながら周辺の地図を出す。

 


「んー? …そんなに遠くないようですね」



 古い古い記憶の中から、自分が飛ばされる前にいた住所と今の場所を照らし合わせる。

 古い記憶……のはずなのだが、地球に戻って来たことによって記憶の修復が急速に進んでいることは本人は気がついていない。



「それにしても暗い…いまは…午後9時ですか。あ、日付は!?」



 帰って来てこれていたとしても、それが浦島太郎のように数十年進んでいたとなると大事である。

 今更そのことに気がついた彼は、即座に端末内のカレンダーを見る。



「……翌日…ですか。今日はあの日の翌日……」



 再び、深く安堵した表情をする。



「財布もきちんとありますね、残金も。……とりあえず帰りますか」



 電車でたった数駅の場所にある目的地に行くために、まずは駅へと歩き出す。

 歩きながら色々なことを考えた。

 

 _____帰ったら何を食べよう、カツ丼にしようか。その前にまずはうまい酒でも飲むか。

 _____まだサーカスの公演準備期間だったはずだ、明日は休暇を取ろう。

 _____近いうちに『じょうじょう あゆむ』にお礼がしたい。結構珍しい苗字だから探偵社などを使えばすぐ見つかるだろう。

 _____あの娘にお礼をするにはやはり何がいいだろうか。サーカス経営者として渡せるものは、VIP待遇の永久パスポートくらいしかないな。

 _____彼女にはとても大事な友達も居たようだし、3~5枚くらいは渡そうか。



 考えているうちに、ふと2軒の家が目に入る。

 かなり暗くなっており、名札はよく見えない…。また、なぜこの家が気になったかはわからない。



「今日はまあ、色々ぶっちゃけられて楽しかったぜ! じゃあな!」



 片方の家からとても健康そうで、ガタイのよく見える少年が手を振りながら出て来た。

 


「わふ、今日はありがと! また女子会しようね」



 もう片方の家からは、白に近い青灰色の髪の毛をした少女が出てくる。とんでもない美少女であった。

 かのアリム・ナリウェイほどではないが。


 それよりも彼が驚いたのは、その少女がとても『アナズム的』だったことだ。まるでアナズムからこちらにやってきたような見た目。

 彼は自分の頬をつねった。そしてここがアナズムとも地球とも違う、別世界という仮説も立てた。


 しかし、スマホを取り出して確認して見ると、自分の故郷付近が表示される。

 考えるのがめんどくさくなった彼は、日本語が流暢なハーフか、留学してきたのだろうとし、もう気にしないことにした。



「し…ショー!」

「リル……」



 どうやら別々の家から出てきた二人は知り合いらしく、互いに名前を呼んで見つめ合う。

 しかしすぐにその二人が仲睦まじく、しかしどこかよそよそしく腕を組み歩き始めたのを見て、どうやらそれ以上の存在のようだと考え直した。



「おっと、こんなことしてる場合じゃなかった」



 初々しい、青春を感じながらも彼は歩き出した。

 しかしまた道中、その足を止める。一つのもの…否、一つの地蔵が目に入ったのだ。



「これは……?」



 どこかで見たことのあるような形。

 地蔵にしてはとても珍しい。スマホのライトをつけて確認をする。



「……!?」



 やはりそうだった。

 彼はこの地蔵に見覚えがあった。それは彼にとってのつい先ほど、アリム・ナリウェイが取り出した転送装置。

 それよりももっと前に見たような記憶が、彼の中で彷彿と湧き上がる。

 再び考えた、ここはやはり地球ではないのではないかと。

 その考えが頭をよぎるのと同時に、頭の中で何者かが囁いた。



【祈りを捧げよ、道化よ、そして導者よ】

「えっ……!」



 気がつけばアナズム特有の、神への祈りのポーズを取っている。その瞬間、彼の意識は途絶えた。

 

 


 

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