第五百六十三話 男子会 -2
「リルちゃんが可愛すぎるっていうのが不満なの?」
「不満…つーか、不安だな」
わけのわからないことを言う。彼女が可愛いんだから良いじゃないか。
実際にリルちゃんは、残念なイケメン…イケザン君曰く、俺らと並んでても見劣りしないらしい。
そこで『じゃあ、他の女の子が俺や美花と並んでたら見劣りするのか』と訊いたら『するでござるよ?』とすんなりと答えられてしまった。
「なにが不安なのさ」
「いやぁ…いつかこのまま俺の歯止めが効かなくなっちまうんじゃねーかってよ」
「あー…」
翔だって年頃の男だ。いや見た目的にそうとしか考えられないんだけど。
そんでもってもうリルちゃんとは身体の関係を持った仲になってるんだからそんな不安が出て来てもおかしくない。
「今はどのくらいのペースなの?」
「アナズムで週一だ。こっちではまだ…昼寝に添い寝をしたりだとかキスしたりだとか、そのくらいしかしていない」
「そ、それでどのくらいのペースが危険だと思うの?」
「毎日…あるいは2日に1回か」
「……っ」
やばい、俺と美花は2日に1回だ。
基本的に美花が誘惑してきたりねだったりしてくるが、俺からお願いすることもある。
そんなのを繰り返していたらいつのまにか隔日頻度になってしまっていたんだ。
「翔、非常に言いにくいんだが」
「なんだ?」
「俺と美花は2日に1回だ」
「ま…マジで?」
「マジで」
翔が目を見開いて驚いたような顔をしている。
それも仕方ない。
「その…なんか大丈夫なのか?」
「ちゃんと準備してから及んでるし大丈夫だよ。なんか害があるようにみてる?」
「い…いや…」
翔は広げてあったおせんべいを一枚食べた。
でも顔は動揺してるのがわかる。
「そっか…もしかしてこっちでも…」
「うん。俺と美花は子供から卒業した」
「ま、マジか…」
未だにあの日のことは覚えている。身体が出来上がっている美花との…。アナズムとは全然違ったよ。
「どうしようかな…俺は…」
「リルちゃんはなんて言ってるの? 週1回で満足してくれてる?」
「いや、2日に1回はなにかしらしてきてくる」
「まさかそれ断ってんのか?」
「…やっぱまずいかな」
柄にもなくなんだか翔が弱々しい。なるほど、こりゃあ不安になってるなぁ。
「なんで断ってるの? …不安だから断ってるなら自分にブレーキをかけてるんだってくらいはちゃんと言った方がいいよ」
「い、いや…それだけじゃねぇ。なんか…嫌なんだよ」
「リルちゃんが?」
「違う、それは断じて違う! 俺はリルを愛している!!」
翔はまたまた柄にもなく声をあげそう言った。翔にとって、どれだけリルちゃんの影響が大きいのやら。
それにしてもわかってるのかな。
「しーっ…お隣にリルちゃんも来てるんだってば…」
「あっ…聞こえちまったか?」
「でも愛してるだなんて聞かれても恥ずかしいくらいで困ったことにはならないよ。安心しなよ」
「そ、そうだな」
なんかちょっと気が立っている筋肉ダルマは改めて座り直した。
「で、愛してるのになんで嫌だからって断るんだ」
「………さっきも言った通り、理性を失いそうになる。…それが嫌なんだ」
「理性が効かなくなるねぇ。リルちゃん、翔のタイプど真ん中だもんね」
「ああ」
あっさりと否定せずに答えた。もうリルちゃんにも知られちゃってるから隠す必要ないのかもね。
「それで理解してるからかリルだな______」
「お?」
耳打ちをしてくる。
その内容に俺は少し驚いた。
「まじで?」
「マジだ」
「…でも美花もしてくれたよ?」
「マジか」
しかし、結構リルちゃんも大胆だな。
おそらくは『ショーを喜ばせる』ということが第一にあって、それで行動してるのかもしれないけど。
「で、お前から誘ったこと1回でもあるの?」
「ねーよ」
「……………マジで?」
「マジだ」
さも当たり前かのように答える翔。こいつは本当にこのままでいいんだろうか。
「それでいいの?」
「や、確かにまずいとは思ってる。それが俺の不安のまた一つでもあるわけだ」
あ、とりあえずは思ってるんだね。
しっかし。
「……お前、ヘタレだったんだな」
「ああ、つい最近になって気がついたぜ」
ここまでヘタレだとは考えてみてもいなかった。リルちゃんは寂しがったりしてないのかな?
グムム…。
「断る上に自分から誘わない…か。これが美花だったら不満そうな顔されてるな」
「だよなぁ……マジでそれが不安なんだよ」
なるほど、可愛いが故に欲望と戦いつつ、でもその戦ってること自体おかしいんじゃないかという不安こそがリルちゃんへの不満か。
「……翔それさ、翔のリルちゃんへの不満さ、自分への不満だよね?」
「ああ、さすが心の友。よくわかったな」
さっきより明らかにしょんぼりした顔で翔はこちらをみている。今まで恋愛に縁がなかった(と自分で思い込んでる)人間が彼女ができるとこうなるんだね。
「で、翔はどうしたいの?」
「………流石にリルに申し訳ねーからな。……こっちでは俺から…。ホテルは法律上ダメだから…_____」
そ、そうだったんだ。入っちゃったけど大丈夫かな?
……大丈夫だよね!
「______自宅で、両親がいない日が近くにあるからその時に、聞いてみる」
決意を決めたような…去年のインターハイの決勝戦に出る前の面持ちでそう言った。言い切ったらやる男だ、翔は。となるとリルちゃんの不満も終わる日が近い。
「それがいいよ。頑張ってねっ…!」
「ああ…!」
自分から誘う勇気がついて、理性を失いそうになる不安が治ればもう完璧なはずだ。
それがその翔が考えてる日に治ればいいんだけどね。




