第五百六十二話 男子会
「ごめんね、呼び出して」
「いやいいよ。今日はリルが美花ん家行くとかで暇だったからな」
家に翔を入れた。
翔が俺の家に来るのは久しぶりかも知れない。つい数ヶ月前までは週1で来てたんだけどね。
「で、何をするんだ?」
「男子会だよ」
「男子会だぁ?」
「そう、男子会」
靴をめちゃくちゃ丁寧に揃え、お邪魔しますとつぶやきながら翔はうちの家の玄関より中に入ってくる。
「ほら、今美花達が集まってるのって、女子会をするためらしいんだ。アナズムのメンバーでね」
「ああ、それならリルから聞いたぜ」
「ま、久々に遊ぶ片手間に男子会をしようってわけだよ」
俺の部屋に入り、翔は定位置(昔、俺の部屋に持ち込んで来た座布団)へ。俺はクローゼットの引き出しの一つをあけ、お徳用のお菓子を広げた。
「てか男子会なのに二人かよ」
「仕方ないじゃない。叶は今、株価とにらめっこしてるんだ。んでもってアナズムに関わってる人限定にしたいしさ」
なんでも月曜日は特に忙しいらしいからね、叶。
桜ちゃんと遊ぶのも後回しにするくらいだから。
「……叶君よー、もうどんだけ儲かってんだ? 度々株やりまくってるって聞くが…」
「株だけじゃなくて外貨交換とかもしてるらしいし、そもそも叶は単独で開発して特許をとった物品も結構あるし…」
貯金はいくらだったかな。あまり口には出さないけど、お父さんに一回だけ『家と土地買えるんだけど』みたいな話をしてるのを聴いたことがあるような気がする。
「やっぱ大天才だよなぁ…。IQいくらだっけか?」
「忘れたぁ」
でもめちゃくちゃ高かったはず。
なんか国際的な組織に目をつけられるくらいの大天才だからね。その組織が桜ちゃんの目の治った原因も調べてくれてるし悪いところじゃないんだけど。
まだ中学生だからできることは限られてるけど、これが大人になったと思うとゾッとする。
おそらく、アナズムに行ってなければ桜ちゃんの目を治す研究をしまくってたはずだ。
「まあ弟のことより今日は男子会だからね、男子らしい話をしよう」
「男子らしい話ってなんだよ。だれそれが可愛いだとか、ゲーム楽しいだとか話すのか?」
確かにそれはそこらへんの男子中高大生がしてそうな会話だ。
「つーかよ、男子会って、そもそもおまえ男なのか?」
「はぁ? 男だよ! こっちでは!」
「さあどうだかな。今日の服装だってそうだ」
じーっと翔は俺のことを見てくる。
下を見て、上を見て、また下を見て。そして鼻で笑うんだ。
「ホットパンツじゃねーかそれ。もうちょっとで冬だぞ?」
「えーいいじゃん、動きやすいしー。あ、翔ったらボクの太ももに興味あるの?」
「お前の性別を知ってなかったらあったな」
むっ、でもこういうの正直に言ってくれるのは嬉しい。
他の人はただ黙ってジロジロ見るだけだからね! 女の子として。
「まあ俺が本当に女の子だったらお前に告ってるけどな」
「悪いな、俺にはリルという素晴らしい彼女がいるんだ」
こんなやりとりは何回やったかわかんない。決してホモではない…違うよ?
「で、結局今日は何を話すんだ? 話すことないならゲームしよーぜ。一応持って来たぞ」
「いや、今日は男子会だからな、女子会みたいなノリで話をしたい」
俺がそういうと、翔はピタリと止まる。
そして気持ち悪い動きをしながら口を開いた。
「えー、マジー? ヤッバー!」
いいだろう……乗ってやる。
「マジマジー!」
「えー、なにそれマジヤバいんですけどー! ウケるんですけどー!」
「………」
「………」
「「…はぁ」」
俺らは同時に溜息をついた。
「おいアホ。美花やリルちゃんがこんな会話すると思ってんの?」
「お前が男子会ってゆーから…」
「だからってあんな気持ち悪い喋り方しなくていいでしょうに。あはははははは」
「ふはははははは!」
ダメだ、笑いが止まらない。
面白すぎるっ…!
「ひぃ…いやな、今日したい話はあれだよ、彼女についてどう思うかだよね」
「ふぅ…ああ、女子たちがよくしてる彼氏のどーのこーののやつな」
「そうそう、あれをしよーぜ」
翔が顎に手を当てて考え始めた。
何か話すことでもあるんだろうか。
「そうか、じゃあ俺からいいか? リルへの本音を」
「リルちゃんに不満あるの?」
「……俺だって人間だし、リルだって人間だ。いくら愛し合ってると言ってもお互いに不満があるのはしかたねーよ」
「んー、まあなぁ…」
俺と美花だって昔からお互い好きだったと言っても、嫌な部分(美花からしたら、俺がゲームばかりするところ)があったわけだから否定できないな。
「で? 翔のリルちゃんへの不満ってなによ」
「……なんて言えばいいんだろうな」
腕を組み、ため息をつく。な、なんだろこの空気。
翔ってば本気でリルちゃんに大きな不満でも抱いてるというんだろうか?
翔がついに口を開く。
その内容は__________
「……リルがさ、可愛すぎるんだよな」




