第五百四十二話 食事会
「それではこれから食事休憩を挟み、披露宴へと移行します」
絶妙な間を縫って、クリスさんはそう司会をした。
実はこの結婚式場には俺が武道大会に参加した時に司会をしていた人(さらにジアースを愛でる会の幹部でもある)も来てるんだけど、その人は普通に呼ばれただけなので仕事はしないみたい。
披露宴で出し物はするらしいんだけどね。
「えー、皆さまそのまま席にお着きになられますようお願いいたします。フルコースの1皿目が配膳されますので……シェフはアリム・ナリウェイ……」
俺の名前が出た瞬間、お客さん全体から驚きの声が上がった。そして異常に湧き上がる。
「きゃー!」
「ぬぉっしゃああああああ!」
「アリムちゃんの手料理!!」
「手料理ヒャッホーーー!!」
とまあこんな感じで冷静沈着に見えていた人も急に騒ぎ出した。はあ……こんなに人を湧き立たせるとは…ボクってば罪な女。ふふんっ。
「料理とともに新郎新婦も再入場致しますので、お迎えお願い致します」
未だに騒がしいこの式場の中で、クリスさんはそう呼びかけた。そんなに嬉しいのか俺の料理……まあ一部の人は味すら知らないだろうから、俺が作ったってだけで喜んでるのかもしれないけれど。
美味しさで全員の舌を引っこ抜いてやんよ!
しばらくしてウルトさんと苗字が『ラストマン』となったパラスナさんが腕を組みながら入場してくる。
それってラストマンじゃなくてラストウーマン…やっぱりなんでもない。
手袋やローブなど邪魔なものは外して完全に物を食べる体制に入ってもらっているの。
そんな2人が席に座ったところで、この会場の戸があき、それなりの多さの人数のシスターさんがワゴンにのせて前菜を全員ぶん運んできたの。
ちなみにシスターさんのうち2~3人、俺が作ったアンドロイドを忍ばせている。人数が足りなかったからね、仕方ないね。
「えー、本日は皆様、私、ウルト・ラストマンとパラスナの結婚式にお越しいただき誠にありがとうございます」
ウルトさんがそう話し始めた。
ちなみに最初の麗句はこの言葉だけで終わることとなる。そう俺から指示してあるからね。
「料理人の希望といたしまして、難しい話は後で、とにかく料理を楽しんでほしいとのことなので、一旦麗句はこれで終わらせていただきます。まずは料理を食べましょう」
本来ならここに手順は守れだとか言い出す人がいそうなものだけど、みんなみんな料理に釘付けでそのウルトさんからの提案で全く文句はないようだ。
「ではクリスさん…」
「ああ。…では神に感謝を__________いただきます」
というわけで俺のフルコースランチが全員に振るまわれることとなった。
メニューに名前つけてた気がするけどはっきり言って忘れちゃった。もうなんでもいいんだよ食べれりゃよ。
ほとんどあり合わせだしよ。
他国も何もかも揃って同じ祈りのポーズをとり、いただきますと呟くと、オモテ面では上品にフォークで前菜を突っついた。口に運ぶ。
「うん、今日もとろけそうなくらい美味しいね!」
「えへへ、ありがとう」
ミカは毎日食べてるからね、リアクションがあまり変わらない。さて、他の人は……?
「ほへぇ……」
「はわぁわぁ…」
「美味!実に美味!かのようにうまきものは食べたことがないっ!」
「この世の贅はすべて経験したつもりでおったが……そうか、これが天国か」
やったね!
大好評! 貴族や他国の王様達ですら驚嘆あるいは料理に惚れてしまっている。
んじゃあ、そういうお金持ち出身じゃない人の反応はどうなんだろうか。
例えばラハンドさん、ゴッグさんとマーゴさんとか……。
「……………」
「……………」
「すげえな…アリム……すげえよ」
ラハンドさんはどうやら正気を保たせていられたみたいだけど、2人は完全に放心してる。
まるで危ない薬みたいに見えなくも無い。断じてちがうけれど。
ちなみに俺が作るお料理達って中毒性があってね、普通に食べると俺の料理が欲しくて欲しくて堪らなくなって、それを渇望するようになり……なんてことが起こりうるらしいんだ。
危ないね。
だから色々いじって中毒性はなくしてるよ。
安心して食べてね。
前菜はみんなペロリと食べた。
次に運ばれたスープも一瞬でなくなるし、飲み物も…魚料理も消し飛んでしまった。
メイン前なのにみんな夢中になって食べてくれているよ。嬉しいね!
そしてメインディッシュ。
ドラゴン肉のステーキ(ゴールドローズクィーンドラゴンでない)。
それが運ばれた瞬間、匂いだけで倒れそうになる人多数。シスターさんはいまや全員アンドロイドに任せちゃってる。仕事にならないからね。
それをまた誰かが一口口の中に入れて………!
意識が弾け飛んだみたい。まあすぐ治ると思うよ。
心酔して他の料理食べられなくなったゃうとかそういうのはないはずだけど、もしそうなっちゃったらみんなごめんね。




