第五百三十話 神樹国のこれから
「いやぁ、2ヶ月ぶりくらいか? なあナカタ」
「カナタです」
近ごろ、この国のSSSランカー同士の結婚式があるらしく各国から偉い人とか高ランクで有名な冒険者がやってきている。
今回結婚する2人のSSSランカーは有夢がこの街に来てからしばらくお世話になった人らしく、有夢がその結婚式の装飾・ウェディングドレス、ケーキ・演出をするらしい。
最近学校でなんか授業以外のこと勉強してるなと思ったらこれのことだったのだとか(もう勉強しなくとも良いらしいしな。俺もだが)。
まあ有夢は人から頼まれて引き受けたことはしっかりとやり遂げるやつだしあまり心配はしていない。
しかし唐突にトールさんとヘイムダルさんが訪ねてくるなんて思ってもみなかったぜ。……こういう風に来れてるということはあの国は今安定してるのだろうか。
王が死んでからまだ数ヶ月しか経ってないのに?
「それにしても結婚式ついでに来て良かったぜ! がハハハハハ! お前ら元気そうだな、あの国に居た時よりずっと」
「色々と嬉しいことが続いたからですね。…俺達が居なくなったあとあの国はどうなりました?」
「ふむ」
叶君はトールさんとヘイムダルさんにそう訊いた。
叶君も同じこと考えてたか。
「正直に言っても大丈夫なもんかの…まあ本人死んどるし構わんか……うま、これうまっ!?」
有夢が出したお茶を一口飲んでから、ヘイムダルさんは答えだした。
「はっきり言ってしまえば、王がいた頃より断然良くなっておる。変なことに金はかけずに済んでおるし、過度に酷かった奴隷への扱いも3代前くらいまで緩和された。それに国も今まで通り普通に稼働しとるよ」
「仮にも王が居なくなったというのに…なんでそんなに大丈夫なんですかね?」
だって王様だぜ?
この国はほぼ独裁国家ばかりなはずなのに、なんでそんないともたやすく______
「あの愚王は政治らしき政治をしなかったらかな、周りがほぼやっていた。故に大丈夫なのじゃよ。そして誰もが改善したいと思っていた策が、唯一その改善を反対していた王が居なくなったことによりスムーズに実行されることとなったわい」
ぐ、愚王って言っちゃってるぜ…大丈夫なのか本人不在とはいえ…。
「それに国の象徴としての一族が一ついなくなっちまったわけだが、あの一族はそもそもエグドラシル神樹国の魔神に対抗するためだけに存在していた血筋。ナリム・ナスウェイとジョー、ナカタが完全に魔神を消滅させちまった今となっては居なくても良いんだ」
そ、そうなのか。
つくづくあの王様は周りにとってあまり良くなかったんだな…。リルを殺そうとしたし俺も大嫌いだけどよ、死んで良かったと思われるぐらい嫌われるのも辛そうだな。
「じ、じゃあ何も問題はないんですか、あの国にはもう」
「そうじゃな。酷い奴隷制度がある以外は特に問題はない」
奴隷制度はなかなか無くならないんだな。
……過去から文化として残っているものは消すのも大変か。
「今の政治の仕方がそれなりに有効だと気がつき、政治家らも王不在でこのまま国を運営してゆく気らしいしの。そしてワシらはその奴隷制度を改善する策をラストマンやメファラド国王と相談しにやって来た訳でもあるわけじゃよ」
俺らの幸せのことだけ考えて出て来ちまったから少し心残りはしてたが、かなりいい方向に進んでるみたいで良かったぜ。
話を聞いてる限りじゃ、奴隷がいなくなるのも時間の問題かもしれねー。
「それにしてもおかしいよな。SSSランカーってだけで他国に使者代表として送られるくらいの地位が貰えたんだぜ? オレ、もともと農民の出なんだが」
「仕方なかろう、今は国家も人手不足。人民に少しでも信頼があるものなら動いて欲しいんじゃろうて」
そういえば今回の結婚するラストマンって人もかなりの地位を持っているらしいな。いや…それはこの国から奴隷を居なくならせたからだとは思うが。
でも実際アリムとミカもこの国の国王にしょっちゅう呼び出されてるし、姫のところにちょくちょく遊びに行ってるし、SSSランカーってのはかなりの意味があるんだな。
まあ、俺らはまだ4人ともSSランカーだが…。
それも無名だしな、権力なんて持ってないぜ。
有夢見てる限りだとそっちの方が楽そうだけどな。
「そういえばジョー、ナカタ、サクラ、リル、お前ら4人に話しておかなくちゃいけねぇことがあるんだが」
「なんですか?」
急に真剣な雰囲気でトールさんはそう言いだした。
な、なんなんだ? まさかあの国に戻れとか言うんじゃないだろうな? ……俺はこの国の方が好きだからこっちのが良いんだが…。
そう考えてる間にも、ヘイムダルさんがマジックバックからなんか取り出してるみてーだしよ…。
その取りだしたものを机に置いた。なんかの証明書みたいなのが4枚。
「……なんですこれ?」
「SSSランカーの証明書だ。4人とも今日からSSSランカーな」
……え?




