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第五百二十話 リルの奇行 (翔)

「何やってやがる!?」



 俺は慌ててリルの後ろに回り込み、その腕を抑えた。

 そしてゆっくりと動けないように抑えつつも、お地蔵様の首から手を引き剥がす。

 ……おおよそ、普段とはまた違うかなり本気の力をリルから感じる。

 数分して、リルをお地蔵様からひっぺがすことに成功した。



「おいリル!!」



 普通のリルなら絶対にこんなことしないし、仮に祈りの一環だったとしても俺が止めた時に何か言うはずだ。

 そしてなにより、ひっぺがした後から全く動かない。



「リル、どうした?」



 俺は顔を覗き込んだ。 

 目は虚。心ここに在らず。

 ちょっとした恐怖すら感じる無表情だ。

 俺の前では表情豊かで可愛いリルは何処へやら。

 今はまるで、死んだ魚のような目で虚空を見つめているだけだ。瞬きせずに。



「リルっ……りるっ!」



 俺は無我夢中でリルの肩を揺さぶった。

 何か変化が起こってくれと、強めの衝撃で治る程度のことであってくれと、そう願いながら。

 


「わふんっ!」



 10秒くらい後、いつもの犬のような口癖がリルの口から聞こえた。

 ……よかった、なんかの衝撃で治ったようだ。



「リル、大丈夫か?」

「大丈夫…だよ? なんでショーは涙目なのかな」



 よかった…本当に良かった。

 またリルを失なっちまうんじゃねーか思ったっ。

 そんな直感がたしかにしたんだ。



「リルゥ…お前、さっき変だったんだぞ」

「えっ……え?」

「覚えてないのか?」



 記憶はまだ曖昧なのか。

 俺はとりあえず、リルが何をしたか、その後どうなってたかを伝えた。



「_______そんなことを私が?」

「ああ」



 信じられない、という表情で俺のことを見つめるリル。

 しかし、次第に何か思い出してきたのか眉間にしわを浮かべ始めた。



「そ、そういえばお祈りしている最中に、なんか意識が遠くなった気がするよ。その後のことは覚えてない」

「そうか」



 いったいどうなってるのか気になるが…とりあえずはリルが無事だったから良しとしよう。



「それにしてもお地蔵様の首って取れるものなのかい?」



 そんな素朴な疑問をリルから問われた。

 それについては俺の記憶の中に鮮明に残っているものが一つ。



「ん、取れるぞ。取れてるところを見たことあるからな、この幻転地蔵で」



 あれはだいぶ昔……有夢が割れたガラスから美花をかばう前か。

 俺と有夢と美花でこの辺にいた時に、どういうわけかこの幻転地蔵の首が取れて落ちていることを発見した。

 さすがにビビったね。

 

 でも有夢が『このままじゃいけない』とか言い出したから、俺と美花と有夢の子供3人でめちゃくちゃ重い頭を抱えて身体に乗せたんだ。


 昔からおかしな噂が絶えないこの地蔵様だったから、ほっといたら祟られるかもしれないという恐怖心が俺にはあった。有夢はきっとただ単にかわいそうだと思っただけで、美花はそれに付き合っただけかもしれねーけど。


 今思えば、幻転地蔵様が有夢や美花をアナズムで蘇らせたのは、これが大きいのかもな。

 俺や叶君と桜ちゃんをうまい具合に向こうの世界に行くように仕組んだりしたのもそれが要因かもしれねー。



「わふーん、そんなことが…ね」



 そんな思い出を話すと、リルは納得したような表情を浮かべる。



「ああ。…それより今はなんともないか?」



 そうたずねるなり、リルは自分の体を何箇所か触れたり、手首の開閉を繰り返したりした。



「大丈夫みたいだよ」

「はぁぁ……良かった」



 安堵。

 もしかしたらリルのさっきのも、アナズムの神である幻転地蔵様が、本来ならこちらにいないはずのアナズム住人に反応しちまっただけかもしれん。

 それで変な行動をしちまったと。

 どうだろうかこの説は。

 ……今はとりあえずそんなことよりも。



「今日はもう帰ろうぜ」


 

 リルに手を差し伸べつつ、俺は立ち上がる。

 調べるならアナズムでの明日からだ。

 叶君に協力を頼みながら、なんでこうなったか調べて行こう。

 本当なら第一旅人である有夢と一緒に考えるのが一番なのかもしれねーけど、あの夫婦は今、知り合いの結婚式の準備で忙しいからな。



「そう…だねっ」



 差し伸べた手を取らずに、リルは俺に思いっきり抱きついてきた。そのまま頬ずりしてくる。



「涙目になってまで心配してくれたショー、大好き!」

「え、ああ、ああおう。もうリルを失うのは嫌だからな」

「わふーん! ……やっぱりこのままもう一回ホテル行かないかい? 身も心も捧げたいよ」



 突拍子もないこと言ってくるリルを、『また明日ゆっくりと』という言葉で回避する。

 本当にホテルじゃやばいからな。

 俺も……はっちゃけちまうし、やはやアナズムの方がいいというかなんも言うか。



「………とにかく帰るぞ」

「…わふー」

 


 手を離れないようにしっかりと握り込み、俺は自宅へと歩き始めた。

 とりあえずみんなと相談して、リルは幻転地蔵様に会わないようにするか。

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