第五十四話 雑用依頼
おはよう。
1日1依頼。さぁ、ギルドに行ってお仕事だ。
あれ、今日もギルドが騒がしい。でも大会のことじゃないみたいだ。
主にアギトさんが叫んでる。
「誰か、誰かこの依頼を受けてくれる、[料理]と[解体]ができる、Dランクの奴はいねーかっ? 誰か、誰かぁっ!」
しかし、誰も声も手もあげない。ただただ、哀れむ顔でアギトさんを見つめるだけ。料理も解体も持ってるDランク、ここのにはいないのか?
いや、俺がいるじゃん。可哀想だから声かけてあげるよ。
「アギトさん、どうかしたんですか?」
「あぁ、アリムちゃん。いやよ、強大な商人組会の幹部の商人が、大きな取引をしに、王都から港町[パルキーニ]行くらしくて、そのために馬車内での雑用の依頼がきてるんだけどな…。その条件がよ《Dランクで、[料理]スキルは絶対持ち。さらに[解体]もあった方がいい》だと。しかも勤務日数が一週間で、さらには明日出発ときた。大会前だから皆、準備で忙しいってのに……」
「でもそれで、なんでアギトさんが困ってるんですか?」
「その組会の幹部はなぁ…皆、ギルド本部のお偉いさん方と繋がってるんだ……。頭あがんねぇんだよ。もし、居なかったと思うと……」
成る程、権力が怖いのか。そうかそうか。
俺は準備しなくてもDランク程度だったら余裕で優勝できると思うし、条件満たしてるし、受けてあげてもいいんだよ? 報酬しだいで。
「ボク、受けますよ。どっちも習得してますし。」
「えぇ!?アリムちゃん、本当にいいのか? 本当か?」
「いいですよ。一応、報酬はいくらですか?」
「32000ベルだ」
中々に充分な額。受けよう。
「問題ないですね。やっぱり、受けますよ」
「うおー! 本当にありがとう。言い忘れてたんだが、護衛でもう一人、Aランクの冒険者を連れて行くそうだ。なんか学べるといいな。とにかく頼んだぞ」
「そうですね、任せてくださいよっ」
了承するやいなや、他の冒険者さん達からお褒めの声が俺にかかる。そんなに条件が悪い仕事なのか。これ。
もう今日することは決まったようなもの。
馬車の中で遊ぶ、道具を作ろう。多分暇になるだろう。
宿に戻った俺は早速、ジェンガとスゴロクとオセロの制作をする。でもそんな大したことないよ? 数秒で作り終わるから……いや、もう作り終わったからね。
明日の朝は早いらしい。時計 兼 図鑑 兼 地図 機能の付いたスマホみたいな奴……略して[トズマホ]の目覚まし機能を設定しておく。
朝5時に集合だから、4時には起きなきゃ。
おやすみなさい。
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おはよう。寝みぃ。
寝坊なんてしなかった。俺ってエライ。
髪を整えて、行く準備して、いざ、王都の門前の馬車乗り場へっ!
というか、もうウルトさん起きてんだね。こんな朝早くに。でも少しも眠そうじゃない。一体この人はどうなってるんだ。
とりあえず、しばらく戻らないことを告げておいた。
現在4時40分。集合場所に、すでに誰か居る。なんか、見た目的に、性格が堅そうな、赤い鎧着たおじさん……いや、ギリギリお兄さんだ。
そんな感じだ。お兄さんはこっちに気付いたのか、話しかけてくる。
「ぬ? …なんだ、娘子か。……どうした。こんな早朝で、こんな場所に」
「ボクはここに依頼で来ていて……」
そう答える。なんか向こうが勝手に話を進め始めた。
「ふむ。見たところ適性年齢以下だな? Xランクか。こんな早朝にご苦労様だな。冒険者は奥が深いぞ? 頑張りなさい」
む? 失礼な。適性年齢以下ではあるけどDランクだぜ? 俺は。反論してやる。
「むぅ~…失礼な。ボクは確かに適性年齢以下ですけど、Dランクなんですよ。ここにはそのDランクとしての依頼できてるんですぅー!」
「何っ!? ならば、ギルドカードを見せてみろ」
「はい、どーぞっ」
「ふむふむ……アリム……12歳……登録してから5日……Dランク。本当だったか。すまなかった。まさか子供がDランクだとは思わなかったのでな。俺はガバイナ。Aランクの冒険者だ。俺とお前は今回の依頼仲間となるな」
見た目どうり、礼儀とかしっかりしてる人だね。
言葉は少し堅すぎだけど。
「よろしくお願いします!」
「あぁ、よろしく。それにしても適性年齢以下で、登録5日でDランクか。かなり将来性があるな。正直、びっくりしたぞ。」
「そうですよね、よく言われます。びっくりした、って」
ガバイナさんと自己紹介をし終わったころに、やや高級そうな馬車が1台やってきた。その馬車の中から黄色い服で深緑色のネクタイを締めている男の人が一人、降りてくる。
「ん~、揃っているようだね。私は依頼人のメディアル商人組会のメンバー。グレープという者だよ。今回はよろしくね」
どうやら依頼人のようだ。グレープだって、ブドウかよ。ガバイナさんは自己紹介を始める。
「グレープ殿、俺は今回の依頼を受けた者、ガバイナと申します。よろしくお願い致します」
「ん~ん~。ガバイナさんは良く大会で見るからねぇ~。よく知ってるよ。引き受けてくれてありがとう。……でお嬢ちゃんは?」
「ボクはアリムと言います。よろしくお願いします、グレープさん」
少し、驚いた顔をしている。最近これが俺のテンプレとなりつつあるな。
「ん~、疑ってるわけじゃないんだけど一応、ギルドカードみせて?」
「どーぞ」
「ん~、成る程。類い稀、すごく優秀な娘だね。門前支部のアギトさんも、いい冒険者を紹介してくれたもんだね。よろしくね。アリムちゃん」
「はいっ!」
あー、良かった。この人も良い人そう。性格悪い人の下で働くなんて、なるべくしたくないから。
グレープさんが今から説明を色々するそうだ。
「ん~、じゃ役割ね。ガバイナさんは護衛。今回は急ぐから近道で港町まで行くんだけど、DやC、Bランクの魔物がわんさかいる道なんだよね。お願いね?」
「承知しました」
「ん~、アリムちゃんは主に家事ね。料理、掃除、ガバイナさんの補助…といったところ。解体スキルがあるんでしょ? ガバイナさんが倒した魔物を解体してよ。魔物の清算は帰ってからするから」
「わかりました! 任せてください」
「ん~、あと、乗組員は全部で7人。私、ガバイナさん、アリムちゃん、それと御者が4人ね。食料は積んであるから使って頂戴。7人分作れる?」
「大丈夫です。何の問題もありません」
「ん~、そう。頼もしいね。じゃ、皆さん、少し早いけど出発するよ。馬車に乗ってね。」
皆乗り込むと、馬車は出発した。港町パルキーニへと。