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第五百十三話 水族館デート -2

「ね、見て! エンゼルフィッシュだよ! 綺麗ねっ」

「桜の方が綺麗だよ」

「そ、そういうこと別にいいから…っ」



 2人は寄り添いあいながら、この小さな水族館の中を回って行く。

 やはり日曜日であるからか人も多く、また、カップルや家族向けの水族館を推してるだけあってそれに該当する人も多い。少なくともひとりぼっちで居るような人はいなかった。



「そういえばどうして水族館デードにしたの? 叶のことだからなにか色々考えてるんでしょ?」



 カニの水槽の前で、ふと桜はそう訊いてみた。



「うん、まあ水族館がベストかなーって。映画館とか遊園地とかも考えたんだけどね。映画館はいってしまえば映像を見るだけだから初デートとしてはつまらないし、遊園地も人が多すぎるから個人的に嫌だったんだ。だからここにしたの」

「なるほど、水族館なら手を繋いで歩けるし、待つことも少ないものね」

「そういうこと」



 叶は桜が自分の意図を汲んでくれたのが嬉しくて微笑んだ。

 まもなく、二人は他の水槽へと目を写す。



「ハリセンボンね」

「膨らんでないね」

「ぷくーって膨らむところみれないのかな?」



 そう言いながら桜は自分のほっぺたを膨らませてみせる。



「え、桜…?」

「あ、え? あ、ご、ごめん。今の忘れて!」



 桜が普段絶対にやらないような行動に、叶はあざとさと可愛さを見出した。

 ふと、恥ずかしがる桜から目を離し叶はハリセンボンの方をみた。



「ほらみて桜。ハリセンボン膨らんでるよ、桜といっしょっ」

「うっ…うっさい! 次行くわよ、次!」



 耳まで赤くしながらも次の水槽へと歩く桜に手を引かれながら、叶は次の水槽の前へ。

 


「タコだね、今の桜といーっしょ」

「む…むぅぅぅ!」



 悔しそうに桜は叶の方をにらんだ。

 少しだけ、先ほどほどではないが頬も膨らませている。



「あはははは、ごめん」

「次に変なこと言ったら物理でやり返すから覚悟しなさいよ」

「ん、分かった」



 タコをしばらく眺め、さらにまだ移動を続ける。いくつかの水槽の前に立ち止まっては夫婦漫才のようなやりとりや、叶による魚の豆知識雑学談を繰り返し、ついに二人はこの水族館の一番売りにしている水槽にまで来る。



「ここは…何回来てもすごいよね」



 二人は今、水槽の中に居る。

 正確に表すならば、水槽で一面覆われた巨大水槽部屋の中に居るのだ。



「わぁ……綺麗……」



 叶にまたさらにもう少しだけ身を寄せながら、桜は上をキョロキョロと眺める。


 一方、桜を叶はじっと見つめていた。

 水槽の中の水が魚達が泳ぐことにより軽めに波立ち、それが影となって反映される。

 その揺れが水の色とあい合わさって幻想的な雰囲気を醸し出しす。

 そこに合わさる、最愛の恋人兼幼馴染の美しすぎる顔。

 

 眼鏡を外し『姉に比べて自分は容姿にてあまり酷く劣っている』などというコンプレックスを払拭できた美少女の横顔は、何をやっても完璧であり、他者とは比べられないほどの知能をもつ天才少年を魅了しているのである。

 


「桜、どう? 眼鏡なしで…しゃんとした視力でこの水槽を見た感想は」

「ん……綺麗、本当に綺麗」



 上を見上げていた桜は、叶の方をみて微笑んだ。

 眼鏡があった頃はほぼ盲目であった桜。

 最新の技術等を使い、生活できるレベルにまで分厚い瓶底眼鏡のようなそれで視力が上がっていたが、それでも実質、視力0.05ほどの明快さでしかなかったのだった。

 何度もこの水族館に来てはいるが、実際のところ心から楽しめたのは今回が初めてである。



「……こんなにここ綺麗だったんだね」

「うん。これからももっとたくさん、今までのぶんも加えて…綺麗なものたくさん見ようね」



 ジッと目を見て笑いかけながら、叶はそう言った。



「でも、叶と一緒じゃないとダメかな。やっぱり」



 桜が当たり前のようにはなったその一言に叶は思わず頬を染める。

 叶は普段は完璧であるが、本当に好きな人からの言葉に弱い。

 それを抑えたような言動ををたびたび桜は無意識のうちにはなってしまうのだった。

 


「も、もちろんだとも」

「今まで通りね。一緒に」

「うん。一緒に」



 叶は頷いた。

 桜は満足そうにはにかむ。

 


「…ん、そろそろ残りの水槽もみてお昼ご飯食べたいな」



 見上げていた顔を下ろし、お腹をさするジェスチャーをする桜。



「じゃあそうしよっか。桜は何食べる?」



 この水族館は食堂も併設されており、魚介類の料理が楽しめる。

 普通のファミレスとかに比べると、海鮮丼や刺身、寿司、茹で蟹であるぶん、料金は高めではあるが。



「そうね、サンマのお刺身盛りでも食べようかな」

「そっか、じゃあ俺は普通に海鮮丼にでもしよっと」



 手をつないだまま二人は宣言通りに、残りの水槽を見た後にこの水族館への食堂へと入っていった。

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