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第五百十話 デート帰り

 それから俺と美花は遊園地を出た。

 そこから一番近くのバス停まで行き、バスを12分ほど待ってから最寄りの地下鉄まで行くバスに乗り込む。

 行きとほぼ同じ時間だけバスに乗ったら、予定通り地下鉄駅周辺に辿り着くんだ。

 そしてそこから地下鉄には乗らずに夕飯を食べに一番近くのファミレスへ入る。



「何にしようか。俺はチーズインハンバーグにしようかな」

「そ、なら私もそれで」



 間も無くしてチーズインハンバーグと、そのほかに頼んだ、つまんで互いの口に放り込める料理が運ばれてくるからそれらを食べるんだ。



「ん…大きな声で言えないけど、やっぱり料理のスキルを活かして作ったご飯のほうが美味しいね」

「まあまあ、あれは特別だから」



 俺のアイテムマスターや真・料理で作った料理と他の料理を比べたらいけないというのは当然のことだよね。

 特にお昼ご飯の時ほどいちゃつくことはなく、俺と美花は食べ終わり、代金を支払ってファミレスを出たんだ。



「じゃあ帰ろっか」

「…………まって」



 ファミレスを出てそのまま地下鉄に乗ろうと駅に行こうとした時、美花は俺を止めた。



「どしたの?」

「さっき…母さん達には遅くなるって連絡したじゃない。…10時までまだ時間あるの」



 美花は少し俯き気味に顔を傾けながら、俺の袖を掴んでいる。ほんのり頬が赤い気がする。



「……うん」

「で、でね。…私…ううん、私達さ、ち、地球じゃあさ、お互い未経験でしょ?」



 なるほど言いたいことはわかった。

 美花はつまり、地球でも……。


 _____親はそういうことに対してなんて言ってたっけ。

 たしか…お母さんが『美花ちゃんとする日があると思う。万全に責任取れる年齢になるまで、きちんと避妊しなよ』と言っていたハズ。

 つまり容認はしてくれてるんだ。

 まあ、アナズムではなんの了解もなしにしてるけど。

 でもあの世界はマジックアイテムとかいう、地球では人智をこえた産物で避妊できるからね。


 しかしこの世界は違う。

 道具の使い方を誤ったらもうアウト。

 俺と美花の子供はたしかに欲しい…欲しいけれど今は作るべきでない、なんだか心配になってきた。

 


「それで……その…ダメかな? 近くにホテルも…あるし…」



 美花は俺の目をジッと見てくる。

 わかる、今日このタイミングでそういう気分になるのはわかる。俺だってここがアナズムなら喜んで美花を押し倒してただろう。でも……怖い。

 アナズムでの最初のときよりずっと。


 普通なら男である俺が怖がるなんておかしいかもしれない。でも怖いんだ。

 1歩間違えたら俺と美花の地球での人生はオシャカになってしまうんだって。

 アナズムで苦労(?)してやっと地球に戻ってこれたっていうのに、それじゃあ意味がないんだよ。



「有夢…?」



 美花が今度は俺の顔を覗き込んできた。

 可愛い、可愛くてつい言うことを聞きたくなってしまう、普段は。

 でも違うんだ。今はそうはいかない。

 万全な状態で…俺が大学を出る、あるいは高校卒業後すぐに就職して美花を養えるような状態にしてからでないと、この世界ではダメなんだ。

 はやく、惜しい、たしかに惜しいけど…本当はしたいけれど、断らなきゃっ_______!



「______もしかして、責任とか考えてる?」



 俺が断りを申し出る前に、美花はまるで俺の思考を読んだかのようにそう言った。

 図星だ。否定できない。



「やっぱりそっか」



 俺の表情を見て判断したのか、そう言うなり、美花は大きなため息を一つついた。



「なんて言ったらいいんだろう。私は…今日、昔から度々一緒に行ってた遊園地に2人っきりで、デートとして思ったの。有夢のことがやっぱり大好きなんだって!」



 俺も美花のことが大好きだって再確認したよ。

 できることなら本当に…。でも、怖くて…。 



「明日から有夢はアナズムで忙しくなるし、本来であるこっちの世界では私は処女のままで、不安なの。未来の夫がいるのになんかウズウズするというか…」



 なにやらモジモジしながら、まだまだ話をしてゆく美花。強い意志を感じられる。

 ……美花が望んでいるというのに、俺は『怖い』ですませたまで良いんだろうか。

 はっきり言えば美花も怖いハズなんだ。



「…あ、べ、別に私が有夢とエッチすることしか考えてない変態だってわけじゃないよ? でも……今日は特別な気分だから」



 美花は外だというのに、俺に思いっきり抱きついてくる。怖い怖いだなんて思ってるだけじゃだめなのかもしれない。今更幻滅されることもないだろうし、ちょっとくらい本音を吐いてもいいかな。



「美花…美花は怖くないの?」

「ん?」

「俺は怖い。魔法があるアナズムと違って、少しのミスで人生が大きく狂う。本当は、本当なら、美花の意見に大賛成なんだけれど、そういうわけにもいかないかなって」



 そう言うと、美花は幻滅したような顔をするどころか、さらにニッコリと笑ってみせる。



「だからだよ! 怖くなんてないもん。有夢は私に優しいから、どんなことがあっても大丈夫だって。だから身を授けたいなって思ってるのよ。色々考えてくれている有夢からしたら自分勝手かも知らないけれど」


 

 ……美花の意志は固い。

 これ以上、折ろうとするのは難しいかもしれない。

 だったら俺が折れるしかないのだろうか。



「わかった」

「んっ!」

「どんなことが起こっても、美花を幸せにしてみせるから」



 俺は美花を抱き締め返す。

 ……もしかしたら、上手く言いくるめられたのかもしれない。俗にいう尻に敷かれるというやつかも。

 側から見たら…やっぱり俺の方が正しいのかもしれない。

 でも俺は、美花の言う通りにすることを選んだんだ。

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