第四百八十九話 リルが学校へ -3 (翔)
「これから、どうぞよろしくお願いします」
挨拶が終わったリルはぺこりとお辞儀をした。
「本当に日本語が流暢なんだね」
「ありがと、うございます。好きこそものの上手なれ、と日本のことわざでも言うじゃない…いですか」
先生に日本語を褒められその返答に、敬語を使うか戸惑っているのが可愛い。
「なんだかお前の言ってた通り、可愛い系の顔してるけどクールな印象をうけるな。つーかめちゃくちゃ美人じゃね?」
「だろ?」
山上がひそりとそう耳打ちをしてきた。
彼女を褒められて単純に嬉しい。
「えっと…席は火野の隣だな」
「うん、はい」
担任に勧められるままにリルは俺の隣の席へとやってくる。この教室の一番後ろの一番端の席だ。
黒板前からここにくるまでの間、クラスメイト全員の目を奪う。
そんなリルは俺の机を通り過ぎる瞬間に小声で『どうだった?』と訊いてきた。
俺はリルが机に座ったと同時に右手の親指を立て、見せてやる。するとリルは嬉しそうににっこりと笑って俺と同じように親指を立てた。
「えー、じゃあフエンさんとはこの1年と半年の期間仲良くするように。じゃあホームルームを手短に始めようか」
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ホームルーム明け。
次の授業が始まるまでの10分間。
そういうちょっとした時間には転校生がいる場合、その転校生にクラスメイトがドッと集まって来るわけで。
「フエンさん、日本語すごく上手いね!」
「ええ、ずっと日本語のお勉強してたから」
とまぁこんな感じで囲まれて質問大会が始まるわけだ。
「ちょ…ま、見えない…」
「うわぁ…すっげえ美人…ん? いや可愛いの方があってるか」
しかもリルの場合はテレビなどで話題なったわけで、このように他クラス他学年からもすごい人が来ている。
大抵、人が最初に感想を抱く対処は見た目だからな。
リルはやっぱりすげー可愛いって認識されてるみてーだ。
くくく、なんだか自分のことのように嬉しい。
リルは俺の彼女なんだぜ…なーんてはやく誰かに自慢してみたい気にもなるぜ。
「リルちゃんの好きな食べ物は?」
「私はとにかくお肉が好きかな。ステーキとか。レアで食べるんだ。日本食だったらお寿司だね」
お肉好きっつーのは今も変わらないみたいだな。
それにお寿司が追加されたわけだが。
「ノルウェーと日本どっち好き?」
「難しい質問だね。私はそうだな、ある理由で日本の方が好きかな」
チラリとリルは一瞬だけ俺の方を向いた。
ある理由ってのは俺が居るからってことか?
今日はなんたか内心のニヤケが止まらねぇよ。
「あ、ある理由って?」
「むーん、それは秘密だね」
なんだかリルはさっきから冷静に答えてるな。
別段愛想がいいわけでもないが、質問にはしっかり答えている。
不思議めいた転校生…っつー印象を事情をしらないヤツは抱くかもしれない。
「フエンさん勉強はすごくできるって聞いたけど、運動は得意?」
「運動は勉強よりも得意だよ」
まあ、元が狼だし。
野次馬はリルが何か質問に答えるために『おおおおお』なんつって歓声じみたものを上げている。
「じゃあさ、フエンさんさ、ここの男子の中だったら誰が__________
キーンコーンカーンコーン
佐奈田の質問を遮るように10分休憩終了のチャイムが鳴った。それと同時に慌てて他クラスの生徒達は教室に戻って行く。
佐奈田他、リルを囲んでいたクラスメイト達も慌ててそれぞれの席に着いた。
「はぁいー、授業をはじめまーす」
古典の教科担任の先生が教室に入ってきた。
起立、礼と授業の始める前の儀式的なものをした後に教科担任は机に教材を置き始める。
「えーっと、リル・フエンさん? んー、教科書まだ来てないしょ? 火野に見せてもらって」
「はい、わかったりました」
個別だった席にリルの机が繋がれる。
「えへへ、ショー。見せてね」
その時、リルはニコッとしながら微笑んだ。
やはりリルはいつも通りのリルだ。周りからクールに見えていようと俺からしてみれば甘えん坊なんだ。
とりあえず俺は古典の教科書をリルと俺の机の間に置く。
「フエンさん、日本語は…普通に喋れてるよね。先生、英語は無理だから、もし日本語でわからないところあったら曲木にでも聞いてね。…古典はわかる?」
「大丈夫だよです」
「それじゃあ今やってるのは枕草子の一節なんだけれど__________」
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「え、えーっと、これで授業を終わります…えぇ…」
先生から驚きの声が絶えない。
リルは古典の時間の間、何をしてのけたか。
……この先生の授業では生徒に問題を答えさせるときは挙手制なんだが、リルは先生の出した問題に全て手を挙げて_____『わかるの? やってみる?』みたいなノリで先生もリルを当て_____全問正解しやがった。
リルが手を挙げ、問題を正解させて行くたびに先生や周りの顔色が変わるのがめちゃくちゃ面白い。
いやでもやっぱり…幾ら何でも頭良すぎだろ。
叶君とまではいかなくても天才であるとは十分言われるだろうな。




