第四百八十六話 リルが翔の部屋へ (翔)
「一段落すんだな」
「手伝ってくれてありがと」
あれから昼飯を食べ、早速整理整頓にとりかかり、今、リルの部屋が完成した。
とは言ったものの向こうの世界からの恩恵がなんなのかは知らねーが、なにをするにもスムーズにいったからな。
全て短時間ですんだんだが。
まあリルの部屋はなんというか、リルらしいというか。
一言で言っちまえばシンプルだ。
可愛らしい小物とかも置いてはあるが、目立たない程度だし。かと言って地味かといえばそうでないし。
「んー。ショー、私、ショーのお部屋行って見てみたい」
自分の部屋を一瞥してから、リルはそう言いだした。
「え? マジで?」
「ちょっと気になってね。嫌ならいいよ」
「いや…別に見られて困るもんとかねーし」
本当はある。
学校のあるツテから手に入れた本来なら18歳未満は購入できないえっちな本とか。
有夢にはバレてるけどな。
でも有夢も数冊持ってるし。
でもあいつ…美花にバレたって言ってたっけ。
でも美花の勘は異常だからな。仕方ないよな。
そんな有夢の二の舞にならないように、俺は厳密にエロ本を隠している。バレるはずがねぇ。
「ここが俺の部屋だ」
「…お邪魔するよ」
俺の部屋はリルの部屋の向かい。
部屋の戸を開け、リルを中に入れてやる。
俺の部屋はなんつーか、軽い筋トレ器具とか短めのマットとかが敷いてあったりする筋トレ室を兼ねてる部屋だ。
あ、汗臭すぎるってことはないように窓は大抵開けて換気しながらしてるがな。
そういうわけだから有夢の部屋と比べたらかなり広いかもしれない。
でもなーこの部屋に女の子つったら美花くらいしか来たことねーからな。あいつは俺の部屋に関しては特に何もコメントしなかったし。
リルは俺の部屋がどう見えてるんだろうか。
整理整頓掃除はしっかりしてるから汚くはないはずだが。
「すぅ……はぁ……」
そんな吐息が聞こえる。
……と思ったらリルが鼻をクンクンさせながら匂いを嗅ぐような動作をしている。
「うん、ショーの匂いがする。今まで嗅いで来た匂いの中で一番、ショーの匂いがする」
な、なんだそりゃ。
「あ、汗臭くないか?」
「ん? んー確かに私からしたらすごく汗の匂いはするけどね。普通の人は気にならないくらいだと思うよ。私にとっても好きな人の匂いであるわけだから無問題だね」
鼻の良さはこっちの世界でも健在か。
「部屋も私の知る限りじゃ男の人としではかなり綺麗だし……ん? んん?」
俺の部屋をある程度述べていたリルは、しかめっ面しながら首を傾げ始めた。
なんだ、めっちゃ気になる…。
「リル、何かあったか?」
「ん…いやね、微量なんだけどショーの別の匂いがしたんだよ。汗や体臭とはまた違うやつだね」
「それはどういう…?」
「えっとなんと言ったらいいか……うん、私とショーが裸で交わった時にショーが出す匂いだね。それだよ」
……やばい。
色々とやばい。
リルの鼻がここまで聴くことは予想できてなかった。
これこのまま…。
「……わふん? ショー本人からじゃなくてここからするね。ショーが今そういう気分だと思ったんだけど…違ったかぁ」
そう言いながらリルは残念そうな顔をした。
鼻で嗅ぎながら俺の部屋をうろちょろしてたリルは、今は俺の例の本を隠してる場所の前で立ち止まっている。
「ショー…ここを探ったらダメかい?」
「おう」
「そっか、なら仕方ないね」
リルはその場から離れてくれた。
……ふぅー。リルがリルで良かったぜ。
助かったぁ。
「とは言ってもあそこにあるものが何かはわかるよ」
俺の元に戻って来たリルは俺の腕に抱きつきながらそう言った。思わず冷や汗が出る。
「そ、そそ、そうか…」
「うん。でもこれからは本に頼るんじゃなくて私に頼ってよ。ショーが良ければの話だし、ママとパパがいる時は無理だけど」
にっこりしながらリルはそう言った。
これって喜んでいいのか? ホッとしていいのか?
「ご、ごめんショー。ちょっと調子に乗りすぎたかも」
「え…あ、いや。いいんだ」
俺の顔は今どんな風になっているのか。
リルは俺の顔尾を覗き込んでから至極申し訳なさそうな顔をして謝ってきた。
「そ、そうかい?」
「おう、気にしてないから気にすんなよな」
「…うん」
俺はなんとか笑いながらリルの頭を撫でた。
手に耳が当たらない違和感を覚えながらも、この少し癖のある髪を俺はくしゃくしゃにする。
リルは幸せそうな顔をしてくれた。
撫でることで雰囲気取り戻せたし……そろそろ本題に移るか。俺は兼ねてから…と言ってもリルがうちに来るまでの3週間の間に用意したものがある。それを渡したい。
「リル。プレゼントがあるんだ」
「わふ? なにかななにかな?」
俺は棚の中から紙袋を取り出し、その紙袋の中から1着の赤い頭巾を取り出した。
「ほら、これ」
「……赤頭巾…!」
「ああ、まあこっちじゃなかなか売ってなかったからな、アナズムで裁縫系のスキルをとってこっちで活用してみた。つまりそれは俺の自作だ。サイズはピッタリだと思う」
リルは赤頭巾と俺の顔を交互に見合わせる。
なにが言いたいかわかったから、頷いてやると、リルはそよ赤頭巾をつけ、被った。
リルの顔がほんのりと赤くなる。
「し、ショー。わ、私は…みにく…」
「とっても可愛い」
「そ、そうかい? えへへ…でもこれもやっぱり女の性だ。似合うかどうかきいてもいいかい?」
そんなこの答えは決まっている。
リルは似合うと思ってたから向こうの世界で出かけるたびに赤頭巾をつけていたのだろう。
俺も似合うと思っているからプレゼントしたんだ。
「とても似合っているぜ」
「そ、そうか! ……ショー…ありがとぉ」
リルはまた、俺に抱きついてきた。




