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第四百八十三話 リルの過去 -3

 夫婦にとって、もはやリルは奴隷として当たり前であるように感じていた。

 ゆえに、11まで育ってしまってからでも今更殺してしまおうなどとは考えてはいなかったが、うっぷんばらしはできなくなっていたことに不満を抱いていた。


 リルが11歳になるより前から、仕事をこなせていても殴る、蹴る、タバコを押し付ける、小さめの刃物で傷をつけるなどの行為は行っていた。

 無論、それで痛がるリルを見るのが楽しいため、ある程度楽しみ終えたら回復魔法をかけてHPだけは回復してやっていた。


 が、それだけでは刺激が足りなくなったのだ。

 殴る蹴るをしても、リルは震えて泣くだけで他になにもしない。喋りもしないし悲鳴もあげない。


 なぜ、自分たちがこんなにも残虐になってしまったのか、心の奥では謎に思いつつも、リルに対する虐待はエスカレートしてゆく。


 11歳になってから1ヶ月後、夫婦の婦人の方はリルが家畜に喋りかけてることを発見する。

 とはいっても前々から知ってはいたが、喋りかけていることを気にしたのはこの時である。


 婦人はそれを見て、リルに家畜の糞を食べさせてやることにしたのだ。

 もはや感覚が麻痺しきっていた所以である。


 無論、リルも抵抗した。

 しかし抵抗しようとした瞬間に夫人から背中を縦一文字に斬りつけられ、あまりの痛みに久々に口を大きく開く。

 その瞬間に、人生初の牛糞を口に詰め込まれた。


 嘔吐。

 幼い少女の嘔吐に次ぐ嘔吐を、二人は笑って見ていた。

 結果、リルは悪食の称号を手にした。


 過度な虐待はそれから4年間続いた。

 死なぬ程度に、なおかつ精神がボロボロになってしまうまで。

 巨大昆虫の魔物の目を食べさせられたこともあった。

 悪食のおかげで食べられはしたものの、死ぬほど吐いた。そうしてタライに吐いたものを頭からかけられる。

 

 剣で容赦無く刺されることもあった。

 矢の的にされることもあった。

 人間扱いなんてされない。奴隷の扱いですらない。

 弄ばれる玩具。

 生きてる玩具と成り果てたリルの精神は限界まで達していたのだった。


 それでも4年間もこのような生活に耐えられた理由は、ひとえに慣れとやはり、頭の良さである。

 リルは食物を夜の間にいつの間にか覚えた隠密を使って森の中から採取し、食べてしのいでいた。

 糞などはともかく、与えられた虫類はタンパク質となることをリルは本能から感じ取り、正直に食べた。


 しかし、汚物を口に流されるときに吐いてしまう癖と食べること自体が嫌になってしまうという癖がついたため、リルにとって食事は最高の拷問と成り代わっている。

 ゆえに命の危険が回避できる以上のものは摂取しなかった。


 食べ物以外にも対策は取っていた。

 自分や家畜の汚物にまみれたとしても、森の中の湖で綺麗にする。

 回復しきれなかった傷は薬草を擦り込む。

 そうして、普通の人間なら死んでしまっているような環境を生き延びたのだ。

 隠密をかなりはやい段階で取得したために、運良く魔物との戦闘は皆無であったのも一因。


 ここまでされてなぜリルはなぜ逃げなかったか。

 ここまでリルが育ってなぜ夫人から犯されたりしなかったか、それは狼族の本能的な掟があるからである。

 狼族の掟とは様々決められているが、リルは世話になったものに迷惑をかけること、夫人は婦人を裏切る行為をすることが掟やぶりとなるため本能的に行わなかったのだ。


 そんな日々が続いていた時、唐突にリルにとっては最高の転機が訪れた。

 獣人狩り。

 これが行われたのだ。

 獣人狩りとは、王国がごく稀に行う奴隷の補充儀式であり、これで潰された集落や村の住人は奴隷として市場に出回ることになる。


 屈強である狼族もその例外ではなかった。

 しかし、屈強である狼族は強い。

 ゆえにこの時捕まったのはリル一人だけであった。

 なお、獣人狩りをいち早く察知し、村の皆に伝えたのは夫人であったりする。

 これが理由となり夫人が次期長となることが決められたのはリルは知らない。



 奴隷捕獲師と奴隷調教師達は、至極驚いた。

 たった一人だけ捕まった狼族の娘が、すでに精神は廃人そのものであり、病こそ何故かなかった(リルが薬草を見つけていたため)ものの、もはや万全と言える体力ではないのは明らか。

 それでも生きている。

 さらに奴隷の文様がないため奴隷ですらない。


 彼らはとりあえず、奴隷という形でリルを捕獲し、調教所に連れて行き、調教をしようとした。

 しかし、それはもはや完璧に行われていたため、リルを担当した調教師の仕事はなかったのだった。


 家事が最初から完璧にでき、身を清めてやれば顔立ちや胸の大きさも良く、それに処女であるリル・フエン。

 そんなリルは、1年調教所である程度楽な暮らしをした後に、『不良品』として世に出荷されることになる。


 不良品の理由は5つ。

 1つ、耳と尾がちぎれてるため。

 2つ、身体中が傷だらけであるため。

 3つ、調教はしたものの、敬語が苦手なため。

 4つ、食物を摂取させにくいため(吐いてしまう)。

 5つ、精神的に人間として終了しているため。


 出荷されるその馬車の途中で、人生を180度変えてしまう運命の出会いをするのは、また別の話。

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