表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
495/1307

第四百七十三話 学校から帰って来た (叶・桜)

 室内にキーボードを叩く音が響く。

 その音に混ざるように、この部屋の窓が優しく叩かれた。



「叶…いい?」



 制服を脱ぎ、普段着に着替え終わった桜は、とりあえず叶と一緒にいようと考えて、叶の部屋へ行こうとしている。

 叶は珍しく桜の方を見ずに、片手で素早くOKとサインを出すのみにとどめ、その手もまたキーボードへと戻す。



「何してるの?」



 桜は侵入してきた窓を閉め、叶にそうたずねる。

 やはり叶は桜の方を見ずに口頭だけで答えた。



「投資だよ」

「へぇ…それが。でもどうして帰ってきて早々…制服も脱がずに投資活動を…」

「チャンスは逃すわけにはいかないからね…っと」



 叶は勢いよくエンターキーを押し、やっと桜の方を振り向く。



「あとは3時間12分後に今買ったのを全て売れば凄いことになる。現時点が今日の最安値だったからね」

「へぇ…よくわかんないけど。まるでこの先を知ってるかみたいな口ぶりね」



 そう桜は言った。

 その自分の言葉に、桜はハッとする。



「まさか……」

「はははー。そのまさかだよねー」



 パソコンをつけっぱなしでいる叶は、あどけなく笑った。



「ず…ズルくない?」

「ズルくないよ。だってゲームじゃないし、列記とした商売だしね。わざわざ得することを逃すことなんてないさ」

「そ、そうね…。でももし未来が変わってたりして大損しちゃったら…」

「そこはちゃんと計算したから大丈夫。記憶してた情報通りに事が進んでるよ」



 だから心配しないで、と、叶が口で言わなくても桜には伝わった。

 桜は一つ大きく溜息をつく。



「まあ…叶が何してても私は……」

「気にしない?」

「きっ…気にしないわけないじゃない! あ、危ないことしてたら…その…私が止めなくちゃ…」

「えへ…ありがと」



 叶はほのかに頬を赤く染めて照れた。

 一方桜は、顔をトマトのように真っ赤にして照れた。



「それにしても今日は騒がしい1日だったね」

「う…うん」

「みーんな驚いてた。桜がその…素顔がすごく可愛いこととか」



 この日、叶と桜が学校にいる間、主にクラスメイト中心に二人は話題のマトであり、特に『瓶底眼鏡委員長』というあだ名が付いている桜の素顔を見知っていた者は少なかった故に、男子や叶を狙っていた女子がひそめきあっていたのだった。



「そ、それよ。いろんな人がみんなして可愛い可愛いって言うだもの…! なんか疲れちゃった」

「良いんじゃない、本当のことだし」



 その言葉を聞いた桜は火照った顔を手で仰ぎながら、困ったような、照れてるような表情を浮かべる。

 


「……最近、叶、頻繁にそういうこと言うようになったわよね」

「うん。付き合ってるんだし本音言っても良いよね」

「ぅ…うう…。い、いいけど…人前では言わないでね?」

「わかってるって!」



 叶は桜の隣まで擦り寄り、頭を撫でた。

 桜は全く嫌がる素振りも見せずになすがままになでられる。



「桜も変わったよね」

「何が? またメガネ外してイメージ変わったって話?」

「違うよ。こうやって頭撫でてるのに嫌がったりしなくなったなーって」



 桜は驚いたように目を見開き、そしてしばらく自分の頭へ伸びてる腕と叶の顔を交互にみてから赤面した。



「あぅ…うん。だってもう付き合ってるし…その、今まで嫌がってた訳じゃないの! 嫌がってたんじゃなくてえっと…えっと、叶が…す…す…」

「好きだから照れてたの?」



 叶のその問いにさらにさらに顔を赤くしながらこくこくと頷く桜。

 桜のその様子をみて叶は満足そうに笑った。



「そっかぁ…そっかぁ」

「えっと…ごめんね。なんか」

「なんで?」



 叶は桜の頭を撫でるのをやめ、ジッとその顔を見据える。桜は軽くおどおどしながら口を開いた。



「いや…もしかしたら…断り方とかで不快になったかもしれないし」

「大丈夫だよ」

「そう? …ならいいけど」



 不安そうな顔で自分を見る桜に微笑みかけながら、叶は唐突に立ち上がる。



「さて、勉強でもしますか。予定時刻まであと2時間50分あるし」

「えっ…あ、まって! 私に考えあるんだけど」



 追うようにそう言いながら桜も立ち上がった。



「なにかな?」

「お勉強はアナズムですればいいと思うの。ほら、あゆにぃに頼んで時間が遅く進むマジックルームとか、この世界の私達が使ってる教科書、参考書を作ってもらって…」

「へ?」



 それを聞いて叶は拍子抜けしたような、キョトンとした顔をした。

 

 

「何かおかしなことでも言った?」

「い、いや。ズルいなーって」

「ズルくないわよ、だってゲームじゃないし。得することはしていかないとね!」



 そう、桜は得意げな顔をしながら言う。

 叶は思わず吹き出しそうになったのをこらえる。

 そんな叶の様子をみて、桜はいぶかしげな表情を浮かべた。



「何か変?」

「いや…それ俺も言おうと思ってたんだけど、桜って真面目だからさ。どう言ったら受け入れてくれるかどうか考えていたんだよ。それがまさか桜から言い出すなんて思わなくて」

「だ…だって…叶ともっとたくさんこっちの世界でも一緒にい…居たいから…。いままで私の委員会活動やお勉強のせいで1週間に3回から5回くらいしかこうして一緒にいられなかったじゃない?」

「桜……!」



 叶は桜に抱きついた。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ