第四百七十二話 学校から帰ってきて
アナズムから帰ってきてからの初登校日である今日の学校での一日は、俺と美花が付き合い始めたという報告をして以降、だいぶいろんな人に弄られた。
それにもめげずに俺と美花は学校でも風紀を乱さない程度にイチャイチャしたけれど。
例えば、お弁当食べさせ合うとか?
その程度のことしかしてない。
「えへへー、お邪魔していい?」
「いいよー」
学校から帰ってきてすぐ、制服を脱いで部屋着を着た美花が俺の部屋に窓伝いで入ってきた。
「なんか今日は……恥ずかしかったね」
「うん」
「えへ、でもこれで私達は付き合ってるってことは…サナちゃんの手伝いもあって明日には全校中に広まってるだろうし…これで有夢に変な子がひっつく心配は無くなったよ」
そう言いながら美花は俺に抱きついてくる。
胸や太ももが当たる……なんて言ったら変態っぽいけれど、ま…まあ、見た目はともかく俺も男の子なんだし仕方ないよね。
それにしても美花の目が一瞬怖かった。
特に『変な子がひっつく』とか言ってたあたり。
でも……そんなのどうでもいいわけで。
「ああ、俺もこれで安心できる…かな? どうだろ。美花の下駄箱の中のラブレター、相変わらずの量だったし。美花モテモテだからね」
「むむぅ、それなら私だって有夢の下駄箱のラブレターが心配よ。有夢もモテモテだもん」
「でもほら、俺は同性からのラブレターが半分占めてるから……」
女の子からのラブレターはとりあえず読んでから捨てるけど、男のは読まないことにしてる。
1回…いや3回だけ読んでみたところあまりにも気分が悪くなったからね。
みーんな俺のこと女の子扱いしてさ。
「確かに。……なら…どうだろ。でも有夢は安心してよね! 私が有夢以外の男子を好きになるなんて絶対にありえないんだから」
「へへ…ありがと」
俺と美花はキスをする。
キスの味はアナズムでするのと変わらない。
「ぷ。ところで有夢、ゲームしたいんじゃない?」
唇を離した後、美花は唐突にそう言いだした。
「え…なんで?」
「だって、あれ」
美花が指差したのは……地球での昨日、お父さんに取りに行ってもらった『ドラグナーストーリー4』。
ヤバい。すっかり隠すのを忘れてた。
「い、いや…その…あれは…」
「全然良いんだよゲームしても。やっぱり有夢はゲームしてもナンボだと思うの。やり過ぎないように注意だけしてね」
「そ、そう。それじゃあ」
俺はドラグナーストーリー4のパッケージと、ゲーム機本体に手を伸ばそうとした。
しかし、そこで美花から『待って』と声をかけられる。
「ご、ごめん。やっていいって言ったそばから止めさせちゃって」
「ううん、いいよ。どうしたの?」
「え…えっとね、やっても良いけど…その条件というかなんというか…」
「ああ、条件ね。好きなの言ってよ」
俺にとっての1番は美花だからね。
美花が言うこと全てを優先させなきゃ。
「うん。ゲームはいくらでもしていいんだけど…ゲーム中に声をかけたり、抱きついたり…色々しても邪険にしないで欲しいな…なんて」
「なんだそんなことか、全然いいよ」
そう言うと美花はパアッと顔を明るくし、ニッコリと笑った。ヤバい……本当にマジですごく可愛い。
……もうちょっとゲームは…いちゃついてからでいいかな。
「どうしたの有夢? ゲームしないの?」
ゲームに伸ばし始めていた手を引っ込めたことについて美花はそう言う。
「もうちょっと美花と話そうかなって思い直したんだよ」
「そうなんだ!」
さらに笑顔になる美花の頭を、俺は優しく撫でた。
美花は本当に嬉しそうに目を細める。
そしておもむろにもう一度キスをした。今度は舌でやりとりする深いものを。
「ぷふぅ。やっぱり有夢ってキス魔になったよね」
「美花もね」
「私は違うよ、ハグ魔だよ」
そう言いながら美花は俺にまた抱きついてきた。
同時に俺も抱きしめ返す。
「有夢…やっぱり女の子みたいな匂いする…」
「翔みたいな感じのが良かった?」
「ううん。有夢のその女の子みたいな声も、女の子みたいな容姿も、女の子みたいな匂いも全部含めて大好きなの」
美花は俺の無い胸(みんなが貧乳という)に顔を埋めてきた。
手のちょうどいい位置に頭があるから、そのまま撫でてあげる。
「有夢ひんにゅー」
頭を撫でてるさい中に、美花がポツリ。
「うっ…うるさい! 俺は男だよ! 貧乳で当たり前なんだ!」
「えへへ…そうだよねぇ…。でもほら、私はいい感じに巨乳だから」
瞬間、美花は俺のナデナデから脱出すると、素早く俺の手首を掴んだ。
そして、この地球での昨日のように、また、自分の胸へへ俺の手を持っていこうとする。
俺は今度は抵抗した。
「む、なんで抵抗するの!?」
「い、いやぁ。ほら時と場所をまきわえなきゃ」
「時…親は居ないし部屋のカーテンは今閉めた。場所…ここは有夢の部屋…。なんか問題あるの?」
確かにそう言われると無い気がする。
そう考えたのがいけなかったのか、俺の手の力が一瞬弱まったのを狙って、美花の頭の中の作戦は実行された。
また俺の手に美花の柔らかい感覚が……。
「えへへ…ん、どう?」
「すごくいいと思います」
「でしょー」
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とにかくそうやっていちゃついてたんだけど、あとは美花が下着以外を脱ぎ出したくらいで、これ以上のことにはならなかったの。
結局、俺はゲームができなかった。




