第四百七十一話 弟妹の学校にて(叶・桜)
「ね、ねぇ叶?」
「なぁに?」
電車に乗り、兄らと全く同じ経路を通ってたどり着いた学校の下駄箱にて。
桜はおどおどと叶に質問をし始めた。
「その…ラブレター今日も入ってるんだね…」
「うん。今日は前に学校来た時より1通少ないくらいだけど」
叶はとりあえずその2枚程度の手紙らをカバンにしまう。
「ラブレターが毎日くるっていうのは知ってたけど、こう…鮮明に見えるようになって…」
「ありゃ、やきもち妬いちゃった?」
「………うん」
「そっかぁ」
不安げな表情を桜は浮かべる一方で、叶はそれが実に嬉しそうであった。
「まあでも、俺も今、道中に桜があんなに注目されて驚いてるんだから」
「ん…」
叶と桜がここにくるまでの道中、二人は人に注目されっぱなしであった。
普段より叶は人の目をひいていたが、この日は桜に道端の通行人などが必ずと言っていいほど振り返り、注目したてきたのだ。
「ま、ミカ姉に似てるんだから仕方ないよね」
「お、お姉ちゃんいつもこんなんなんだ…」
「兄ちゃんがいるぶんもっとすごいと思うけど」
二人はそんな風に感想を述べ会いながら、自分らの教室である中等部2-Bへ赴く。
「え、やべぇ。あんなのうちの学校にいた!?」
「ちょーかわいい…」
「誰あれ!?」
「考えられるとしたら…転校生かな」
「でも2年B組の成上も居るぜ? ということは……」
そんな声が教室までの道のりで数多に聞こえてくる。
桜は顔をうつむかせながら、まるでトマトのように真っ赤になっていた。
「あ…あのかにゃた、私…明日から伊達眼鏡してこようかな……」
「なんで? このままでいいじゃない」
「ぁぅぅ…」
提案を叶に否定された桜はさらに縮こまる。
「そんなことより教室着いたよ」
「あっ」
ガラリと、いつものように、叶がまず桜の前に立って横開きのドアを開け、桜の動向をサポートするように手を回し、立ち位置を考えながら中に入る。
「おはよー、みんな!」
と、これもいつものように叶は声をあげた。
「おはよーっ! ねぇねぇ、私朝見たんだけどさ! 成上君の家のお姉ちゃん…あ、違ったお兄ちゃんと、委員長の家のお姉ちゃん付き合い始めたの?」
叶と桜のクラスメイトの一人である、浜崎という女子が興味ありげにそう訊いてきた。
どうやらこの教室内ではその話題で持ちきりだったようで、すでに教室にいる10名程度の生徒全員が叶の元に集まった。
「うん。兄ちゃんとミカ姉は昨日から付き合い始めたんだよ」
「へえ…! なんかすごいことになりそう! なりそうだけど…でもなんだか百合っぽい」
「うん、否定しない」
そう、叶と浜崎が会話する中。
目黒というぽっちゃりとした体型の男子が一言。
「ところで叶、その隣の子は何組の子? あと委員長はどうしたの?」
「え、ここに居るじゃん。これ桜だけど」
叶は桜の背中を軽く押して、少しだけ前に出した。
この場にいる10名全員が、桜と思わしき人物の顔ををよくみる。
「……これが瓶底眼鏡委員長?」
「トレードマークの瓶底眼鏡は?」
「うーん…や、でもこの二つ結び、髪型は一緒だよね?」
本日幾度目かわからないほど多人数に注目され、桜はまた顔を隠す。
それどころか叶の後ろに隠れてしまった。
「ちょっ…桜!?」
「やっ…恥ずかしい。私、やっぱり明日から伊達眼鏡する」
「なにも眼鏡外しただけなんだから恥ずかしがらなくてもいいじゃん」
「ふ…ふんっ。そ、そんなに叶は私の素顔みたいなら帰ってから好きなだけ見ればいいでしょ!」
そのような感じで叶と桜のやり取りは続く。
その光景を見たクラスメイト達はやっと、委員長が目の前の美少女本人であることを認識。
「ま…マジで委員長!? うっそ委員長!? まじ?」
「叶とこれだけの夫婦漫才をこなせるのは瓶底委員長しか居ない。俺は信じるぞ」
「委員長……そんな顔だったんだ…」
口々に自分の脳内の人物を確かめるように述べて行く。
「じゃあ眼鏡を家に忘れたの?」
「あの委員長がそんなことするなんて珍しい」
「ううん、そうじゃないんだ」
叶はみんなに朝にご近所さんたちに説明したのと、まったく同じ説明をした。
それぞれ不明な点がありつつもなんとなくは納得したようだ。
「じゃあ奇跡ってやつなのかな?」
「ほらあれだよきっと、ずっと叶が面倒見てきたからなんか色々働いてこうなったみたいな…?」
と、浜崎と目黒が感想を述べる。
「そんなことはいい。ねぇ委員長、今日_____」
いつの間にか会話の中に加わって居た、クラス1のナンパ師である剣持が、桜をナンパしようとするも、叶は慌てて桜の肩を抱きそれを阻止した。
「おっと剣持、そこまでだ」
「なんだよぉ、この前は付き合ってないって言ってたじゃないか」
「うん、でも昨日から付き合ってるから。ダメだよ手を出したら」
そう宣言する叶に顔を赤くする桜。
剣持含め、その場にいたクラスメイト全員がその光景を微笑ましく見ていた。
「まあおちょくっただけだよ。どれだけ成上と委員長が仲がいいかはずっとみてきてたからね。横取りする気なんてないよ」
「もう…それならそんなこと言わないでよね!」
後日、この地域に新たなマドンナが生まれたこと、そして、付き合っていると言うことが広まったのはまた別の話。




