第四百三十話 アナズムへの帰還
美花と楽しくお喋りしたりした後、夜になって父さんと母さんは戻ってきた。と、同時に美花は自分の部屋へ帰っていったんだ。
その後、俺はスキルによりをかけてそれはそれはもうクオリティの高いお夕飯を作って、両親に振る舞った。
地球において、使えるスキルと使えないスキル。
まず、SK1は一つとして使えない。
次に、SK2。この中からはいくつか使えるみたいで、例えば叶のスパーシナンチャラの瞬間移動は使えないけれど、アイテムマスターの一部は使える…みたいな。
その筆頭が料理なんだけれど。
それでもできは向こうの世界より少し劣っていたから、制限がかけられていると考えた方がいいって、弟は言っていた。
両親の俺へのお料理の感想は『凄すぎる』とのこと。
何がすごいのか、味なのか見た目なのかはわからないけれど、作ったオムライス~ハッシュドビーフソース添え~は半端じゃなく好評だったと思える。
あとは久しぶりに自宅のお風呂に入り、久しぶりに自室のベッドで眠り、隣に誰もいないことのちょっとした寂しさを感じながら眠りについたんだ。
そして翌朝、6時半。
目を開け、制服に着替える。
≪それじゃあ、いい?≫
と、全員のケータイにメッセージを残し、全員から了承の返信が来たのを確認して、ステータス画面からアナズムへと帰還した。
例のあの、ロード画面のような画面が現れ……。
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俺は目を開けた。
ミカもショーもカナタもサクラちゃんも、ほとんど同時に目を開けた。
ここは…よく見知っている俺の屋敷の中。
ミカも俺も身長が縮み、髪と目の色が変わっている。あと性別も。
どうやら、問題なく戻ってこれたみたいだ。
「わふ…? 行かないのかい?」
声がした方を振り向く。
犬耳と犬の尻尾……おっと、狼耳と狼の尻尾が生えてる女の子が首を傾げながらこちらを不安そうに見ていた。
ショーが答える。
「リル…今帰って来たところだぜ、俺達」
「わふ? …わふぅ!? 私、つい数秒前にみんなに『いってらっしゃい』って言ったばかりっ…!」
リルちゃんの反応からして、本当に一瞬の間だけって事になってるみたいだ。
「お、おう。リル…1日ぶりだな」
「1日ぶり…? 1日ぃ? わふん?」
リルちゃんは頭の上にハテナマークを浮かべているように、眉間にしわを寄せながら首を傾げる。
そんなリルちゃんに幸せ者なショーは笑いながら頭を撫でた。
「なんか皆が出掛けたっていう実感がわかない…」
「そういう機能だから仕方ないね」
頭を撫でられたままショーに身体を自然と密着させつつあるリルちゃんだけど、まだ、頭にハテナマークが浮かんでるように首を傾げてる。
「わふー…わふ。そうだ。こういうの訊こうと思ってたんだった。そっちの世界はどうだった? 御両親は心配してなかったかい? 話を聞く限りじゃ、そのチキューでアリムちゃんとミカちゃんは死んだ事になってるんだよね? どうなってたの?」
そう質問しながら、甘えるようにショーの胸板に後頭部を擦り付けるリルちゃん。
「なんかね、時間がボク達が死んじゃう前に巻き戻っててたんだよ。親達は全員、その事についての記憶があるんだけどね。そうだね…みんな、ボク達が帰ってきたことに偉い喜んでたよ」
「わふん。やっぱり親というのは子供が大事なんだね! 良いなぁ…」
そう、ニコニコしながらリルちゃんは言う。
そうか…リルちゃんは御両親は居ないんだった。
一瞬、顔をしかめたショーは、リルちゃんを後ろから抱きしめる。
リルちゃんはまた、頭にハテナマークを浮かべた。
「わふぅ? えへへ…わふん。ところで、学校はどうだったんだい? 私はそこが一番気になるよ! たくさんの同級生に囲まれてお勉強…っ! きっと、楽しいんだろうなぁ」
「いや、今回は学校に行ってねーよ。当日だったし、外に出てまたアリムが死んじまったら大変だからな」
『そっか』とリルちゃんは呟く。
それにしても勉強が楽しいって……リルちゃんの境遇を詳しくは知らないけれど、勉強は意外と楽しくないとは俺は思う。
カナタみたいに勉強しなくても普通に勉強してる人間を軽く凌駕するってんなら、面白いかもしれないけど。
「ううー。私、絶対にそっちの世界に行くよ! 学校に行きたい! 贅沢言うなら、ショーと同じ学校に行きたいよ! わふぅ…もっと同い年のお友達が欲しいーっ!」
小さな声でそう叫んだリルちゃんからは、本当に強い願望を感じられる。
うちの学校は地味に頭良い(中高大一貫だけど高校から入るのもあり。叶と桜ちゃんは中等部)から、ついていけるのかとか…色々不安はあるけれど。
「きっとできるよ。国王様からダンジョン貰ったら、すぐにレベル上げに行こう」
「わふん。頑張る!」
ショーに抱きつきながら、リルちゃんはそう言った。




