第四百二十三話 ファンタジー
「お邪魔します」
翔の両親がうちにやってきた。
……なんでも今から、曲木家含め、この11人で話をするんだって。
アナズムのことをより詳しく説明しなくちゃいけない。
お父さんとお母さん、それに美花の両親は仕事に行く時間を遅らせたし、みんなから俺は「今日一日外に出るな』って言われたし。
まあ…そうやって心配してくれるのはありがたいんだけど…説明どうしよ?
とりあえず頭がいい叶に大体のことは任せたけど…。
説明、難しいよね…。
だって、どう考えたってファンタジーなんだもの。
そう、今あの世界に居ないから冷静に考えられるけど、あの世界はモロにファンタジーなんだもんなぁ。
「あ、すいません」
母さんがみんなの分のお茶を出す。
…リビングに11人が収まっている。
そして何故か正座してるし、また、何故か俺達側は全員、制服を着てる。
こんな、なんか重苦しい状況で、うまく喋れるかしらん。
「……じゃあ、説明してくれるかな?」
翔の親父さんは、俺のお母さんがお茶を出し終わってお父さんの隣に正座したのを確認すると、そう切り出してきた。
……仕方ない。
叶に全編的に任せるという相談はしたものの、やっぱり一番最初にあの世界に行ったのは俺であるということで、最初の方は俺中心に話すことになってる。
信じてもらえないかもしれないけれど……よし。
「えっと…まず、あの日…。いえ! 今日ですか________」
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……大体の説明が終わった。
俺達5人が何があったかを、細かいところ____例えば、ダンジョンでレベル上げしたとか_______は、抜きにして、5人がどうやって出会ったか、どうやって送られてきたか、どういう感じの世界かを中心に話したんだ。
主に叶が。
話終わるまでのおよそ1時間。
お母さん達は誰も一言も喋らず、真剣な顔で全部聞いてくれた。
「レベルにスキルに魔法…完全にファンタジーなところなんだな、アナズムというところは」
「はい」
翔の親父さんの確認に対し、叶は素直に頷く。
「……それにしても色々と大変だったんじゃないか? まだ誰も一人暮らしとかした事ないからさ。特に美花と会うまでの有夢君は。それも、そんな住み慣れてない世界で」
「ええっと…向こうの世界でもいろんな人に助けてもらっちゃったし、そんなに困ったことは無かったですかね」
美花のお父さんに、そう、無難に答える。
実際、しばらくは森暮らしだったけど、セインフォースの王子様方に会って人里に送ってもらってからは、ピピー村のみんなや、メディアル商人組会の人達、あとウルトさんとかにお世話になったし。
「まあ、確かに有夢にはあおつらえむきかもね。それにしても、そんな異世界が本当にあったなんてね。いやー、驚いたなぁ」
「えっ…と、信じてくれるの? 自分達で話しておいて、なんだけど」
お父さんのそのつぶやきに、対して叶はそう訊いた。
「ええ。お母さん達は貴方達の親なのよ? 子供達が嘘をついてるかどうかなんてすぐにわかるわ」
「そ、そうなんだ」
やっぱり親ってそういうものなのかね。
……いつか、俺と美花の間に子供ができたら、その子に対して俺もこんな風になるのだろうか。
「うむ、みんながこうして帰ってきてくれたのは本当に嬉しいが……。おい、翔。話によればお前、そのアナズムとかいう世界で女の子を一人、養っているんだよな…? どうするんだその子は」
「……ていうか、どういう関係なの?」
やっぱりリルちゃんのことに関しては、親父さんとおばさんは気になるか。
返答次第では怒鳴られそうな雰囲気を醸し出している。
『置いてきた』なんて答えたら、親父さんの拳骨が飛んできそうだけど…?
「その、リルとの関係は…。まあ、えっと…彼女だ、彼女」
翔は恥ずかしそうに頬をポリポリと掻く。
今の言葉を聞いた火野家本人ら以外はほんわかとしたムードであるのに対し、親父さんはひたいに怒りのマークを浮かべている。
「……お前……お前を慕ってくれる女性を置いてきたのか?」
「い…いや、父さん、これにはちゃんと訳があるんだ!」
「それは俺が説明します」
親父さんと翔の会話に割って入ってきた叶。
こういうのは、こいつに任せるのが一番だ。
「……ん、叶君。頼む」
「その実は、俺達、今すぐにでもあの世界戻ろうと思えば戻れるんです。というか、こっちとあっち、自由な出入りが可能なんです。ちょっとワケあってリルさんを地球に連れてきたり、あの世界に行ったことない人を連れて行くのは無理なんですけど……」
「へぇ…!」
出入り自由という素晴らしさは、親側も理解してくれたみたいだ。
「……なるほど。とりあえずわかった」
「と、父さん。じつは向こうの世界の住人がこっちに来ることはできるんだ。かなり厳しい条件が必要だが…。だから、そのうち紹介するよ」
「…うむ」
翔のその説明に一瞬、ギョッとしながらも、翔の親父さんは頷いた。




