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閑話 星降る夜に

 夕食を食べ終え、しばらくした頃。

 オルゴは城の屋上に居た。

 本来なら四人で流星群を見るはずだが、この日は違う。

 


「……うまくいくだろうか」



 ポツリと呟いた。

 成功しようがしまいが、今日は大切な日になるとオルゴは考えている。



「あの…お待たせしました!」

「あー。呼び出して悪かったな」



 声がした方を振り向くと、約束通りミュリが来ていた。

 屋上に備え付けられている豪華な長椅子に座っていたオルゴは、端に詰めて隣にミュリを座ることをすすめた。

 ミュリは夜に屋上で好きな人と二人っきりであるという状況に興奮を覚えつつ、そこに座る。



「え…えっと、用ってなんでしょう?」

「……まあ、待ってくれよ」

「は、はい」



 二人は黙る。

 オルゴは下を俯き、緊張に押しつぶされそうになっている心を落ち着かせるようにつとめ、ミュリはいつもは騎士らしく堂々としているオルゴがこのよう俯いてるのが珍しいのかチラリと何度も彼を見ている。

 はたと、ミュリはオルゴの方を見るのをやめた。

 彼女はオルゴに声をかけることにした。

 


「あの、オルゴ?」

「……なんだ?」

「その…星が降り始めましたよ」



 そう言われたオルゴは、顔を上げる。

 ミュリの言う通り、星々がまるで川のように流れ、降り始めていた。



「そうだな」

「綺麗ですねぇ…!」



 星光に照らされている、星々を眺める幼馴染の横顔にオルゴは少し見惚れてしまった。

 そうしてる場合ではないと自分の心に喝を入れ、覚悟を決めたように拳を握った。



「お前のほうが_____」

「えっ?」

「いや…なんでもないぜ」



 恋愛マニュアルのような本に載っていたセリフを吐こうとしたが、父親譲りの騎士道精神溢れる彼には無理だった。

 しかし、大親友と共に意中の女性に告白すると約束した約束を無かったことにはできない他、今夜のように最高のシチュエーションは中々来ないこと、さらにミュリをわざわざ前日にここに来るように呼び出したこと………などを理由で諦められなかった。

 と、言うのは建前であり、オルゴ自身、何らか要因があったとしてもミュリに告白すると言う行為をしない気にはなれなかったのだ。

 故に。



「オルゴ、みてください! たくさん流れてますよ! すごいですねー、本当に!」

「……ミュリ、好きだ」

「……え?」

「俺はお前のことが好きだと………言ったんだぞ」



 意を決したように、ミュリの顔を見つめるオルゴはいつの間にか彼女の手を掴んでいた。

 驚きの表情のまま固まっていたミュリは、10秒ほどしてからやっと声を出す。



「えっ…あの、好きって…」

「その…俺はミュリに告白しているというか…だな」

「えっ…えええええっ!?」



 驚愕の声が響く。

 


「なんだ…。嫌だったか? その、嫌なら悪かった」



 オルゴは掴んでいた手をソッと離そうとした。

 しかし、それは先ほどまで握られていたミュリの手によって捕まえられる。



「あの…私なんかでいいんですか?」

「それはむしろ俺が言う方だ! 本来なら手紙を用意するとか、告白する前に気の利いた言葉の一言二言言うだとかあるんだろうが…不器用だからな俺は」



 オルゴがそう言うと、ミュリは頬を赤らめてこう言った。



「ふふ…私、私は…そんな不器用なオルゴが大好きですよ!」



________

______

____



「おおー! 見てる? ルイン! すごいわね!」

「うん、とても綺麗だ」



 また別の屋上で、ルインとリロは二人っきりで夜空に降る星を楽しんでいた。

 二人とも屋上に備え付けられている柵にもたれかかりながら。



「ふふー、それにしてもやるわねー。あれでしょ? 私を呼び出したのって、ミュリとオルゴを二人っきりにして、この間に告白させるって作戦でしょ? さすがルインね!」



 そう言ってニッコリと笑うリロの顔を見ながら、この国の王子であるルインは少々緊張しつつ言葉を返す。



「うーん、半分正解かな」

「えっ、半分なの? まー、どっちにしろ今頃、オルゴがミュリに告白してるのね! あの二人、両思いなの。 明日から付き合ってることおちょくってあげようかしらね」



 リロは悪戯っぽい笑顔を浮かべてそう言った。

 ルインは首を振る。



「だよね。そこは合ってるんだ」

「へー、残り半分の不正解はなんなの?」

「僕がリロをここに呼び出した理由」



 ルインの顔が真剣なものに変わる。

 


「えっ…まさかだけど、あはは…そのー…ルインが私に告白…とか?」

「そう、その通りだよ」


 

 リロは黙る。

 そんなことは御構い無しに、ルインは息を飲んでから。



「リロ、好きだ」



 ルインは膝を曲げ腰を下ろし、手を上に。



「えっ…あ…あああ々



 そんなルインをリロは驚愕の表情で見つめる。



「あ…ああ…あははー。えっ…と、その…ルインは王子様じゃない? わ、私なんかが釣り合うのかなー」

「大臣の娘でしょ? ずっと行動してきた幼馴染で、大親友だ。これ以上釣り合う相手が居るとはとは思えない。大親友以上の仲になれないかな?」



 ルインは同じ姿勢のままでリロの顔をジッと見たまま離さない。

 リロは慌て、一歩、後退りをした。



「あ…い、居るじゃない? た、たとえば貴族の娘とか…私より美人で…気立てがいい子が…」

「そうかな? でもそんなのは関係ないよ。僕はリロが好きなんだ」

「………ううっ…」



 リロは顔を赤くした。



「わ…私も…その…ルインのことが…好き…よ。で、でも、私なんかでいいの!? 後悔しないの?」

「なんか…じゃないね。リロがいいんだ」

「あう……」



 リロは自分の髪の色より顔が赤くなって居るのではないかと錯覚した。

 そして、ゆっくりと、王子様の差し出す手を取る。



「……じゃあ…その…よろしく…おねがいします」

「うん、末長く…ね」



 ルインはミュリの手を握ると、すぐさまに立ち上がる。



「はぁ…緊張した。恋愛ものの本を見て練習したんだけど…」

「え、そうなの? でもこれ以上ないくらいにカッコよかったわよ? そう、本当に王子様なんだなーって」

「はは…そうかな?」


 

 ルインはその爽やかな顔を微笑ませた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 一番下リロがミュリになってます。
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