第四百六話 その夜 (翔)
「………リル」
「わふぅ」
俺は今、身動き取れない状態にいる。
というのも…リルが俺に抱きついてるからだ。
尻尾は忙しなく動き、顔を俺の胸に擦り付けている。
昨日とは立場が真逆だ。
「ショー…私、嬉しい」
「ああ、俺もだ」
なんでもリルは、俺達がこの世界と地球を行き来できることを知ってから、ずっとこうしたかったらしい。
結構、今日も腕に抱きつかれたりしてたが、それでも遠慮したほうなのだろう。
リルの青白の頭を獣耳の間に手を挟める感じで撫でる。
「でもね、ショー。……その、もし、もしだよ?」
「なんだ?」
とても不安そうな顔をして、俺の顔を見るリルの目は少し潤んでいる。
「私の告白を受け入れてくれた理由が、帰るまでの期間だけの付き合いだからとか…じゃない? そうだとしたら…私に構わず、ショーの好きなようにして欲しい」
過去に色々あったであろうリル。
つい、そういうのはマイナスの方に考えちまう癖があるようだ。
俺もリルの身体をぎゅーっと抱き締める。
「そんなんじゃねーよ。リルと居たいから、こっちに残ることまで真剣に考えたんたってのに」
「わふぅ…わふ…でも、ショーの幼馴染だっていうアリムちゃんとミカちゃんは…私より比べるまでもなく_____」
アリムの名前が恋愛対象として出てきて思わず吹きそうになったが、それをこらえ、話を続けようとしていたリルの頭をまた撫でた。
「あいつらはダチだ。そういう対象なんかじゃねーよ。リル、お前は俺のことが好きか?」
「わふっ」
首を少しだけ上にあげ、上目遣いで目を見開いてこちらを見るリル。狼なのに小動物みたいで可愛らしい。
「大好き。一生で一番好き。この世で一番好き…! ショーになら何されてもいい。ショーにだったらなんだってできる。ショーにだったら私は…っ!」
「おいおい、俺を神格化したりしてねーよな? だが…俺もリルが好きだ。…だ、大好きだ」
か、噛んじまった…。
し、しかし言いたいことは言えた。
リルは。
「わふわぁーっ…ショーっ! ショーっ!!」
大泣きしながらさっきより強く俺に抱きついている。
しばらくして落ち着いたリル。しかし俺に抱き着くのをやめようとせずにいた。
「わふん。これからどうするの? ああ、ショー本人がいるなら子供はしばらくいい。でも…ショーが…数年後も私のことが好きなら…けっ…結婚なんてなんて…なんて」
モジモジとしながら、結婚という単語に自分で言って自分で照れてる可愛いリル。
俺は背中を摩りながら返事をしてやることにした。
「いいぜ」
「わ…わふぅ! なら、そ…そーだ! 私も頑張って転生回数貯めるから、そっちの世界行かせてよ! 私、私、ショーのご両親にご挨拶したいんだ!」
俺の両親…警察のお偉いさんの親父と、結婚して子供(俺)ができるまで女性消防士だった母さん。
うーん、あの二人にリルを紹介したらどうなるか。
きっと、えらく歓迎されるに決まっている。
親父も母さんも、警察や元消防士みたいな体力が必要な仕事についてはいるが、こう…ドラマとかのイメージってそういう親って厳しかったりするだろ?
全然、そんなことはないんだ。
「そうか。きっと歓迎してくれると思うぜ」
「わふ、わふ!」
…リルは嬉しそうに俺に身体を擦り付ける。
ふと、気になって時計を見れば、もうそれなりに遅い時間となっていた。
…寝るか。
昨日リルが言った通り、抱きつかれながら眠ればいい。
「リル、そろそろ寝よう。明日はデートだ。俺もお前も知らないこの街だから…きっと新鮮なものになると思うぜ」
「わふん。そうだね! ……でもちょっとまって」
リルは俺から抱きつくのをやめ、俺から少しだけ距離をとった。
と、思もったら寝間着のボタンに手をかけ、はずし始めた。
「なんだ?」
「わ、わふ」
あっという間に上の寝間着のボタンを全て外し終えたリルは、バッ、と勢いよく寝間着を脱ぎ去った。
寝間着を脱いだと思ったら、中シャツもほっぽった。
結果的に、胸に下着を着けてるだけで、あとは何も着けていないリルがこちらをジッと見つめてる状態に。
もうすることはしちまって、リルの胸を直視したことがある俺だったが、唐突に脱がれ、戸惑い、今は前を見れないでいた。
チラリと見えだが……相変わらず大きな。これは口に出すまい。
「ショーは胸の大きな子が好きなんだってね」
「ぶっ!?」
思わず吹き出しちまった。
だ…誰だ俺の好みをリルに話したヤツは!
有夢か…? 有夢なのか?
「ショー…私、ショーの好みに叶うかな?」
正直に言っちまえばど真ん中だが…。
「わふ。もしそうなら、この身体もショーは好きに良いんだからね。_____だから」
「待った。明日はデートだ。今は疲れるぞ。あとついでに言えばリルは完全に好みだ…。上着着て寝ようぜ?」
やばい。
のせられたらやばかった。
「だから」の先を言われたら本能が…。
「わふぅ。嬉しい! それにデートを楽しみにしてくれてるなら仕方ない。また明日ね」
「お、おお」
脱いだものを全部付け直したリルは、俺に再び抱きつく。
そのまま俺とリルは横になり、眠りについた。




