第四百五話 お風呂上がり
「げっ…」
ショーめ「げっ」とはなんだ。
人の顔を見るなりそんなこと言うなんて酷いじゃないか。
ショーから、男の時の俺だったら身の毛もよだつような話をされ、もういっそのこと女として生きて行こうと半分冗談で二人の前で決意表明したんだけけれどさ。
カナタの一言にちょっとムッとした俺は、嫌がる二人の目の前で今の姿、アリム(女)になってやった。
そしたら瞬間移動で逃げたんだよ? 酷くない?
まあ…俺としても自分でやっといて背中までしか見せられなかっただろうし…。
うーん、この二人ならアリムの時でも大丈夫かなーって思ってたんだけど、無理でした。
やっぱりスキルって凄いね。
「姉ちゃん、二度とあんなことしないでね」
「んー? んふふー、それはどうかな」
「……痴女_____」
「なっ……なんだとーっ!?」
俺はカナタに飛びかかろうとした。
しかし、カナタは瞬間移動で俺の背後に回る。
「んあっ! ずるい!」
「ふふ…我は持っているモノを巧みに活用しただけだ」
「……なにしてるの?」
ミカの呆れたような可愛い声が聞こえてきた方を向くと、寝巻きに着替えた本当の女性陣が部屋に入ってきていた。
「わふ? 仲が良い姉弟だね」
「うん、そうね」
寝間着姿のリルちゃんの呑気なその言葉に冷静に相槌をうつサクラちゃん。
「ああ…みんなあがったんだね。どうする? 寝る前になんか飲んだり食べたりする? 牛乳とか果物とか」
「食べる!」
何事もなかったように振る舞うようにつとめながら、俺はそちらを向きそう言った。その言葉に大きく反応するサクラちゃん。
「ふふ、そっか。じゃあメロンでも食べようね」
よし! これでなんとか何があったか訊かれずに済むだろう。ほら俺ってば一緒にお風呂に入ってないことになってるし。
と言うわけでとても美味しい伝説級のメロンを食べて始めた俺達は、明日の予定について話し合いを始めることにした。
「明日は特に何もないよ。みんなでこの街の観光にでも行ってくるといいね」
「わふぅ。ショー、デートしよ」
「お、おうっ!」
リルちゃんはショーの腕に抱きつく。
ショーはちょっと顔を赤らめた。
ふん、ショーめ、見るからにデレやがって。
あんなに俺とミカの仲を日頃からおちょくってきたんだ、いつか仕返ししてやる。
「じゃあ私達も…ね」
「うん、そうしようか」
すでに3切れめとなるメロンを美味しそうに頬張るサクラちゃんと、自分の分のメロンをサクラちゃんにあげてるカナタは顔を見つめあってそう言った。
……うむ、正直邪魔だろうから、街の案内とか俺はしなくても良さそうかな?
なら…。
「ねえ、ミカ」
「ん。ごめん、明日はアリムのためにたくさん準備することあるから、一緒に居られないかも」
「んふふー、構わないよ」
そっか、残念。
しかし幸せ。
それに、どっちみち俺は明日は仕事入ってたし、うまい具合に都合が重ならなかったね。
その上、ミカは出ない仕事(なんか新商品の飲料水のポスターのモデルをする)だから、なんの不都合もないし。
こんなにうまくいくものなんだね。
「ん、ごちそうさま。じゃあ姉ちゃん、ミカ姉、おやすみ」
「おやすみ、お姉ちゃん」
おっと、考えごとしてたら二人とも逃しちゃうところだった。
ミカが慌てて二人に声をかける。
「待って!」
「ん? お姉ちゃんなに?」
「桜、一緒に寝ましょ?」
サクラちゃんはカナタの顔をチラリと見てアイコンタクトしてから、ミカの方を向きなおす。
「うん!」
「ありがと。じゃあ私とサクラは私の部屋で寝るから。おやすみ、みんな」
ミカとサクラちゃんは俺とカナタを置いて、ミカの部屋へと眠りに行った。
今度はショーとリルちゃんが立ち上がる。
「じゃあ、俺らもそろそら寝るわ。おやすみ」
「わふ、二人ともおやすみ!」
筋肉ダルマと狼娘のカップルは、腕を組みながらまあ、それはもう仲よさそうに俺が用意した客間へと消えてゆく。
「さて、カナタ」
「………兄ちゃんと寝るの?」
「うん、必然的にそうなるね。男と寝るのが嫌だってなら、お姉ちゃんとしてはこのままの姿で添い寝してあげてもいいよ?」
「いや、いい。普通でいいよ」
なんだ、普通でいいのか。
それなら。
「わかったわかった、じゃあボクは有夢に戻るから、お兄ちゃんと添い寝しようね」
「だから…添い寝はしないよ。普通にベッドを二つ用意するって選択肢はないの?」
「仕方ないなー、わがままだなー」
「……はあ」
カナタは大きな大きな溜息を一つついた。
むぅ。こいつ…寝てる間にイタズラしてやろうか。
ともかく俺はカナタを、俺の部屋としている場所に連れ込んだ。




