第三百九十五話 幻転地蔵と転生
「ん…。じゃあどうしようか?」
抱きつきあっていた曲木姉妹が互いに離れてから、俺はそう声をあげてみた。
「どうするって…なにをだ?」
「ん、とりあえず帰れるかどうか試してみるかってこと。ほら、いざ帰るって事になった時に俺みたいに帰れないなんて事になったら大変でしょ? 試すだけ試そうよ」
「ああ…なるほど」
誰が一番最初に試すか、なんていう暇もなく、カナタが俺の前に出てくる。
流石はカナタ。行動が早い。
「で…どうすればいいの?」
「このお地蔵様に手を置いて、でこう…なんか作動させるというか」
「うんうん。そうだな…じゃあとりあえず、姉ちゃんやって見てくれない? ほら、やっぱり帰れるかとか…スルトルを入れてから正常に作動するかどうかもみるためにさ」
なるほど、それもそうだ。
「わかった、じゃあボクから試してみるね」
俺はあの時と同じように、幻転地蔵様のようなこのお地蔵様の頭の上に手をそっと置いた。
ひんやりとした高質の研磨した石の感触が手のひらに伝わってくると同時に……頭の中にメッセージが。
【 世界移動
・あなたは使用不可です
転生ショップ
・使用する / 使用しない 】
「んええええっ!?」
俺はオドロキのあまり、思わず地蔵様から手を離し、おもいっきり尻餅をついてしまった。
いや、そんなことより……転生ショップ!?
転生ショップってなんなのさ?
前にはそんなのなかったじゃない…ううん、そもそも、使用不可であるという表示だけ出てきて、半ば門前払いみたいな感じだったのに…。
「あゆむっ!?」
「どうしたのっ!?」
「おに…姉ちゃん、大丈夫!?」
3人が駆け寄ってきて尻餅した俺を介抱してくれた。
俺は手をニギニギと開閉してみたり、目をぐるぐると回してみたりして身体にどこも異常はないことを示す。
「何があったんだ?」
俺の肩に手を置きながら、翔はそう言。
「い…いや、前と違った表示が出たから、驚いて尻餅ついちゃっただけだよ。心配はいらない」
「そうか…? なら良いんだが…」
ショーは立ち膝をやめて立ち上がり地蔵様を眺める。
「…どういうこと? ちょっと、今度は私がやってみる」
「気をつけろよ」
そう声をかけたショーにミカはコクリと頷いた。
いやいや、本当にそんなに危険はないからね?
なんて気持ちは伝わらず、ミカは恐る恐るお地蔵様の頭に手を置いた。
「あ、ほんとだっ!」
何気なく、すぐにお地蔵様から手を離すミカ。
「でしょ?」
「うん。しかも私まで帰れなくなってるみたい」
「「えっ?」」
俺とサクラちゃんの声が合わさってしまった。
「どいうこと?」
「いや…なんか『世界移動』っていう項目があるよね? それが「あなたは使用不可です」って」
「うーん…そっか…」
ミカまで帰れなくなってるんだ……。これで良かったのかな? まあ、それはおいおい考えるとして…。
「お姉ちゃんは本当に帰れなくなった…ってこと?」
「うん。ごめんね桜」
「原因はわかんないよ」
「あ、ううん! いいのお姉ちゃん、アリ姉! 気にしないで」
慌てて手を振って気にしないでほしいとジェスチャーするサクラちゃん。
その様子を申し訳なさそうにみてたミカは、こちらに顔を向ける。
「ところで…転生ショップってのが増えてたんだけど…」
「よくわかんない。なんなんだろ、本当に」
俺とミカが顔を見合わせて謎の増えた項目、「転生ショップ」を気にしてる間。
「あ、姉ちゃん。俺は帰れるみたいなんだけど」
と、カナタがあっけらかんとして言ってきた。
こいつ…勝手に試したのか。
「いつの間に試したの?」
「うん。その新機能ってやつも名前からして無害そうだったから。俺の場合、世界移動って項目に はい か いいえ って表示が出てた。なんの心配もないからとりあえずみんな……そうだな、リルさんも試してみて?」
「わ…私も!?」
「うん」
カナタが勝手に話を進めてる……。
まあ、日本ではお兄ちゃんなんかより優秀だったカナタだし、別に良いんだけど。
カナタに勧められるまま、まずはショーが試してみた。
結果、帰れるらしい。
特にその事に関しては喜んだ表情は浮かべなかったけど。
次にサクラちゃん。サクラちゃんも同じ結果だった。
そしてついでに試したリルちゃんは、俺らと同じ使用不可だったみたい。
だけど全員が転生ショップは使える。
「こうなったら、転生ショップを試してみるしかないよね。……転生回数が多分一番多い、俺が試してみるね」
「き…気をつけろよ」
ショーのその忠告に頷いてから、俺は再び幻転地蔵様の頭の上に手を置いた。
例の項目が脳裏に出現する。




