第三百七十話 vs.黒魔神スルトル -2
「…ここから本気って、翔はどうしたの?」
ミカが、そう呟いた。
「ヒャハハハハハハ! 押さえ込んだに決まッてんだろ! おもしれーから、少し出してやッたが、本当ならオレ様から自我を奪うなんてこたァ、できねーんだよ!」
ミカは結構、小さく言ったのに、スルトルには聞こえてたみたい。もしかしたら、わざわざ大声出さなくても良かったかもしれない。
……それにしても翔が押さえ込まれちゃったか……。
仕方ない。普通にやるか。
「叶、封印するアイテムとかある?」
勇者の剣みたいなものがあれば、それなりに楽なんだけど…。
「うん、これ」
叶は一本の刃のついてる槍を差し出して来た。
鑑定の結果で伝説級の武器、『賢者の槍 グングニル』と表情される。どうも、賢者にしか扱えないらしい。
「あー、これ、叶達にしか使えないんだ…」
「うん。そうみたい。やっぱり兄ちゃんじゃなくて俺、いや、我が…!」
「桜ちゃん居るし、カッコつけたいのはわかるけどあの魔神の封印は俺がやるよ」
俺はさらに、スルトルにむけて数歩、前に出る。
後ろを振り向き、ミカと叶と桜ちゃんにむけてこう言った。
「ミカ、叶と桜ちゃんに被害が出ないようにしてね! あとは大体、俺一人でやるからさ」
「ん、わかった」
「それと叶は、これを良さげな時に投げて」
賢者の槍グングニルを叶の足元に大量に作り出す。
悪魔神サマイエイルと戦ったとき同様、封印アイテムをたくさん用意するのは有用かもしれないし。
「えっ…!? これってグングニル…?」
「うん。その程度の物ならいくらでも作れるから。足りなくなったら言ってね」
「は…はあ…」
これで良し。
俺はスルトルの方を向き直し、叫んでやる。
「えーっと、血湧き肉躍る戦いだっけ? 今からしてあげるからね………っ!」
それを聞いたスルトルは、先程までと同様に気持ち悪く笑う。…違うもん、翔はもっと爽やかに笑うもん。
「ヒャハハハハ! ありがテェ…! なら、血湧き肉躍る闘いを始めようか…始めようじャネェか! 始めるしかネェよなァ? イくぜッ」
瞬間、翔の身体全てが火達磨になってしまったかのように燃え盛る。その火力はおぞましく、それなりに離れてるこの距離からでも、まるで熱湯に全身を漬け込まれてしまったような熱さを感じる。
というか感じたから、即座に俺含むミカ達全員に火に対する耐性を格段にあげる何か、伝説級のものを5個ずつ配った。
このままの熱さでいたら、服すら溶けそうだったね。
「クカカカカカカ! 熱くねェのか? 流石だな」
「うん、まあね」
こんなに熱いなら翔本人はどうなってるのかねー。
消防士志望だからこのくらい慣れてるかも…なんてね。流石に嘘だよ。多分本人は熱くないんじゃないかな。
「じゃあ、叶、お願い」
叶はグングニルのうち一本を掴み、思いっきり投げた。
それはレーザー光線のように超高速で、運動的におかしな起動を描きながらスルトルの元へ。
しかし_________
「チッチッチッ…効かねェなあ」
スルトルにヒットしたかと思えた刹那、グングニルは溶けていった。それだけなら良かった。
スルトルは身体が炎で出来てるらしく、勝手にグングニルの方がスルトルを貫通してったんだ。
それに、柄まで貫通し終える頃には、グングニルは消えて無くなっていた。
……恐ろしい。
この時点で仲間を呼んで数万体で叩くっていうサマイエイルのやり方とは違うことを察せられる。
アレが量なら、こいつは質。
きっと、俺らが戦ってきた何よりも強力なのかもしれない。…と、見方を変えてみる。
「ハァッハァッ! ダメだったナァ…! これはどうだ? 『ファイヤーボール』…だぜ!」
スルトルの背後。
そこから現れるのは…俺らがここに来れるきっかけとなったSSランクの技、巨大な太陽のやつと同様かと思われる魔力量と大きさが同等であるファイヤーボール…そう、確かにファイヤーボール…!
魔法陣は無く、発動された空気も間違いなくファイヤーボールだった。
こんなのは規格外だ。
ステータスがカンストしてるうえにさらに数十倍増しとなってる俺の撃つファイヤーボールと同じくらいかもしれない。もしかしたら…。試したことないけど。
「散れ」
スルトルがそう呟くとともに、その超巨大なファイヤーボールは発射された。
地面をジリジリと溶かしながら、物凄いスピードでこちらまで来る。
……神の剣でも吸収しきれるか心配になってきた。
俺はその前段階として、魔力吸収型の伝説の剣、それもそのファイヤーボールに合わせたサイズのものを地面に突き立てる。壁代わりだ。
「兄ちゃん…これ…!?」
叶は驚く。確かにこんな剣が突然出てきたら驚くだろうけど…しかし、それは突破されてしまった。




