第三百六十三話 火力 (叶)
「んじャあ、ここからが本番だ…! すぐに死んでくれるなよ? 楽しませろヨォ!? ……な」
スルトルより前方。
超展開される多数の魔法陣がカナタの目にうつる。
「ここからは…SSランクスキルちャんのオンパレードだぜ?」
スルトルはカナタの真似をし、パチリと指を鳴らした。
それと共に放たれるは最終ランクの炎魔法。
その最初は創造神炎術後ウェルカーナリア。
それも、炎神というスキルに加え、黒魔神スルトル自身の力によって数倍では足らず、数十倍以上に強化されたものだ。
自由自在に形を変える事ができるその炎の魔法は、全て、ろくに考えて形成されてないとわかるような、ハチャメチャな形状で撃たれている。
しかし、それらは本来ならばとてもかわしにくい。
考えていないようで、スルトルはよく考えて魔法の形を考えていた。
それでもカナタは瞬間移動で姿を消し、念術で自分の身体を空中に持ち上げつつ、出現した。
「カーッ、当たらネェカァ…。飛ぶなんて卑怯だぜ?」
「そんなものは知らぬ」
カナタはスルトルに向かって左手を突き出した。
彼の手から紫紺の魔法陣が展開され、すぐさまそれは発動した。
カナタのSSランクスキルの一つ、雷魔法、バルドルであった。
破壊力が尋常のそれではない白い落雷が、スルトルめがけて落下する。
しかしスルトルは魔法の詠唱をする事なく自分の頭上に魔法陣を展開。炎神究極魔術インフェルメスという、太い光線型の炎魔法である。
それはカナタの打ち出した雷に向かって行き、すぐさまに衝突。
バルドルも普通のSSSランクの冒険者を仕留める程度ならば十分な威力であったが、それをいとも簡単に打ち消し、インフェルメスはカナタに当たりそうになる。
しかし、カナタはまた、瞬間移動で移動した。
「おうおうおう、破壊力が足りねェンじャねーのか? それともオレ様が強いだけだッたり、しちャッたりしてェ?」
「……強いのは貴様ではない。翔さんが強いんだ」
「でも、こいつの力を引き上げてるのはオレ様だ。…オレ様、ツェェェェェェッ!」
そう、口を開き歯をむき出しにしながら、のけぞるように叫ぶ。
すぐに体勢を元に戻すと、カナタの方を睨む。
「しっかし…テメェも気が付いてんだろ、そろそろ。オレ様が本気のホの字も出してネェのはよ」
戦闘が開始してから、そろそろ3分ほどが経とうとしていた。カナタは十分に相手のチカラを理解している。
______強い。
十分にレベルを上げたはずだった。自分の兄ではないが、この世界のラスボスと仮定した魔神には普通に勝てるだろうとカナタはタカを括っていたのだった。
昨日までは。
しかし実際戦ってみるとどうだろうか。
国王に取り憑いて、自分たちのステータス以外を無効化。さらに、リルをいとも簡単に殺害した。
カナタはショーの通常の魔力がいかほどかをよく知っている。
しかし、スルトルが取り憑いた現在では、それが数倍に跳ね上がっているのだ。
そのうえ、それが本気でないことも。
いくら自分がサクラの補助魔法を十分なまでに受けていなかったらと考え、背筋に寒気がするようだと感じる。
それでもまだ、スキル、スパーシオペラティンがあるが故に戦えていたのだった。
これがなかったら、と、カナタは考え、息を飲む。
しかし、自分の弱い面を見せてわいけないと思ったカナタは。
「ふ…ふはは! だろうな! 我もまだ本気をだして居ない…! 漆黒に飲まれるがいい!」
スルトルを模して、自分の口癖になっている中二病的発言をしつつ同じ魔法陣を一気に展開した。今度はスキルによる補正も付いている闇魔法。
常闇神魔砲。要するに黒くて太いレーザー。
おおよそ10本の黒いレーザーがスルトルに向かう。
彼は回避しようとせず、その場に立ち、同じ数、同じ場所に魔法陣を展開、発射した。
「その程度か?」
溢れる轟音の中、その言葉がカナタの耳に届く。
スルトルの撃った魔法は、カナタの黒いレーザーを押し返していた。
「このままでも押し勝てそうだがな……。クロにはクロを合わせた方が…カッコいいだろ?」
その言葉とともに、今まで放っていた10本のインフェルメスに被せるように、黒と赤が混じった魔法陣が出現する。
間も無くしてその魔法…闇をまとった炎の魔法は発動された。炎の光線にオーラのようにまとわりつき、それを強化する。
カナタのレーザーを押し返す、その強さが倍増したかのように思える。
しばらくして、完全にカナタの魔法は負け、黒炎をまとった紅炎の光線はカナタにまで辿り着く。
もちろん、カナタはそれを瞬間移動で上方に回避した。
その魔法らの破壊力は絶大。
海が一直線にえぐれ去った。
「……フハハハハハハハハハ! ……ほら、次だ」
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