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第三百四十九話 デイス (叶・桜・翔)

「デイスさん、槍を渡して下さい。俺が責任を持って処理します」



 カナタは数歩でデイスに届く距離に居るにも関わらず、わざわざデイスの目の前に瞬間移動をした。

 この場にいる全員に自分の力を誇示するためである。


 

「……渡すな…渡すなデイス! 駄目だっ! この餓鬼は本当に魔神をどうにかしてしまうかもしれないぞ!」



 ローキスは怒りのこもった声で、そう叫ぶ。

 もはやローキスが魔神で何かをしようとしていることを否定できる者はいない。



「…そうじゃの」



 デイスは無表情のまま、槍を横にした。

 これから丁寧に槍をカナタに渡すのだろうと、ローキス含め誰もがそう思っている。

 玉座をから立ち上がり、デイスとカナタの方に詰め寄った。


 グングニルをデイスから奪おうと、怒りのこもった表情で、手を伸ばしたローキスだったが、一定の距離まで手を伸ばした時、ローキスの手は何か見えないものに弾かれてしまう。

 カナタのスキルの力の一つであった。



「クソっ…カナタ、おいカナタ、これを解け! 聞こえないのか!? デイス、槍を渡すな。やめろ、渡すんじゃない!」



 手を弾かれるにもかかわらず、ローキスは見えない壁に何度も何度も手を伸ばす。

 しかし、その手がデイスとカナタに届くことはない。



「デイスさん…」

「なあ、カナタよ。2つほど…良いか?」


 

 デイスは槍を横持ちにしたまま、その手を止めてカナタにそう呟いた。

 カナタはにこやかに営業スマイルをしながら、自分も槍に伸ばしていた手を止めた。



「なんです?」

「1つ、ワシの予言、いや、未来予知は良く当たる。…今までのことはただ、口にしなかっただけじゃよ」



 そう言いながら、デイスは槍を横持ちのまま、低く構え、片手を離した。

 その離した片手はまるで電車のつり革をつかむように、うやうやしくあげられる。



「そして2つ目。頭の出来は良いようじゃが、経験不足じゃな。精神的にまだ隙がある。まあ、まだ14歳じゃし、仕方ないことじゃろうて」



 そう言い終わったデイスの片手には、いつの間にか黒くおかしな形をした、かろうじて剣であるということはわかる代物が握られていた。


 それをデイスは一瞬のうちに、グングニルに向かって振り下げた。

 カナタはそれを止めようとするが、デイスが発した次の言葉により、動けなくなる。



「思い立ったのなら、ワシからこれをさっさと奪い、考えを実行すれば良かったのじゃよ。お前の兄はもっと突発的に行動できるんじゃないかの? …もっとも、魔神の本体は…日本でいう霊体じゃから、海の底はあまり意味がないの。宇宙に飛ばすのは流石にひやりとしたぞい」



 カナタは脳の処理が追いつかなくなった。

 頭で処理できないことが目の前で起きている。

 カナタの驚くことがあると思考を停止してしまう癖____それが今、彼に発動していた。

 この世界の人間に、自分の兄の話は一切していない、その衝撃。これだけで十分だった。


 そういうデイスの片手からは、いつの間にか黒く異形の剣は消えた。その代わりに、グングニルの一部であったものが地面にころがっている。


 ローキスはデイスに向かって叫ぶ。



「おっ…お前…何をしてるんだ、おい!? 今、魔神を復活させるというのか!? そもそも、どうやってグングニルを折った? ともかく、ふざけるな! どこに魔神を憑依させる条件の整った人間が________」



 ローキスはそこまで言った後、はたと何かに気がついたように表情を変えた。


 グングニルからは、真っ黒な靄が出てきているのだ。


 その様子を見て、それがヤバイものであると認識したショーは、必死にメッセージでカナタに呼びかけつつ、その場にいる国の重鎮達に逃げるように促し始めていた。

 重鎮達は戸惑いつつも、ショーの言葉通りに逃げたり、自分の立場としてすべきことをし始めた。


 キリアンとクルーセルは逃げずにその場に残り、各々の武器を抜き、その黒い靄に向かって構える。

 そして2人とも、とりあえずカナタに念話でそこから離れるように促す。


 リルは自分が何をすべきかわからず、とりあえず、スキルで斧ヨルムンガンドを召喚し、構えてみている。


 サクラ黒い靄が出てきたと同時に、カナタの元に駆けつけ、癖のせいで脳が働かなくなってる彼に必死で声をかけていた。



「叶! 叶、逃げて! お願い…叶! ……お願い…お願い…逃げて…動いて…」



 そう叫ぶものの、カナタにその声は届かない。

 


「な…なあ、まさか僕じゃないよな…? 預言者…僕を最初から…最初から…」



 カナタの作った空間を無視し、その靄はだんだんとローキスに近づいて行く。



「やめ…やめろ…やめろぉぉぉぉ!? 入ってくるな、くるなぁぁぁぁぁぁ!? おい、誰か、おい、賢者供! キリアン、クルーセルッ…誰か誰かこれを…これを止めッウゴギガウギゴゲググケゴケキゴゥィクゴギ」



 その靄がローキスの身体に全て入り込む。

 キリアンとクルーセル、そひてショーが助けようとしたが、遅かった。

 否、その靄が入り込むのが早かったと言える。


 そのことを確認したデイスは未だに固まっているカナタを見ながらその無表情だった顔を崩し、にっこりと笑う。

 そして、まるでカナタが瞬間移動を使ったかのようにその場から跡形もなく消えた。

 

 

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