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第三百四十六話 叶の推理 (叶・桜)


 正午より少し前、予定通りにカナタとサクラ、ショーとリルは城で待機。

 玉座の間でローキスが来るのを立って待ってる中、カナタはサクラとメッセージで相談し始めた。



【うーん、やっぱりなんだろね、話って】

【普通に考えて魔神のことだろうねし】



 この9日間、デイスが会うたびに言っていた事をカナタはサクラに言った。



【…勝てるかな? 翔さんも居るし大丈夫かも…】

【どっちにしろ全力で戦わないと。勝たなきゃ帰れないとか、そういう問題じゃないかもしれないからね。____あ、来たよ】



 二人はローキスがこの部屋に入って来たのに気がつき、メッセージをするのをやめる。

 ローキスは重厚できらびやかな鎧を身につけており、いつになく真剣な表情をしている…だろうと、自分で考えていた。


 カナタは特に何も思わなかった。

 反応し、すこしびっくりしたのはリルぐらいであった。



「よく来たな、賢者らよ。今日は誠に…重要な話がある」



 ローキスの、その、ほんの少しだけ威厳がある声は、彼らに緊迫感をもたせた。

 自分がこの場所にいることが場違いだと考えている狼族の少女は、また、ビクリと驚き耳と尾を立てる。



「良いか、本題から言うぞ。……黒魔神スルトルが復活する、と、デイスの予知により判明した」



 そこに居た、賢者や黒幕である本人ら以外は、その言葉に恐怖を覚える。

 この世の終わりのような顔をしている者も居るし、絶望のあまりその場で気絶する者も居る。


 そんな雰囲気の中、最初に声をあげたのはカナタだった。



「具体的な日にちはわかったのですか?」

「ああ。明日の正午になった時だ。……デイス!」



 デイスは無言で、ローキスのそばにグングニルを持って来る。



「明日の正午に、この中に封印されているスルトルが、封印が解かれ出て来るのだ」



 周囲はざわめく。

 この国の重鎮である、大臣やその他宰相ら、またクルーセルやキリアンですら初耳だったのだ。


 カナタもそれには驚いた。


 まさか撃破する対象が、すでに、その場に居るとは思ってなかったのだ。

 それも、自分が使う予定であった槍、グングニルの中に。

 ショーは呆気にとられ、恐怖に震えているリルを念術で手繰り寄せ、自分の側に。

 そしてその震えている手をこっそりと握った。


 頭をフル回転させ、急いで自分を落ち着かせたカナタは、キッと、ローキスをひと睨みし、



「なぜ、今までその中に魔神が居る事を話さなかったんです? ……忘れて居たではすみませんよ?」



と、そう言った。

 ローキスはニヤニヤしながら、それに答える。 



「ああ、伝えるのを忘れていたのだ。……伝えなかったところで魔神を倒さなければならないと言う事実が変わるわけでもあるまい?」



 そのセリフを聞いたカナタは反論をしようとしたが、言葉を飲み込んだ。

 ローキスと言い争っても何もならないのだと悟ったのだ。

 


「…それまでか? すまなかったとは思っているぞ」



 ローキスはそう、表情を変えずに、悪びれることもなく言いはなつ。

 カナタは、前々からローキスが怪しいと感じていたが、これにより、本気で疑うことにした。

 この部屋に居たもののうち半数以上が、すでにこっそりと逃げ出したのは気にせずに、ローキスに対し、こんな質問をする。



「その中に魔神が入っているのなら、俺達が魔神を封印するのに何を使えば良いのですか?」

「この槍だ。魔神が出現した後に奪還し、再び封じ込むのだ」



 サクラはわけがわからなくなった。

 ローキスのしていることと、言っていることがまるで違うからだ。

 うまく矛盾点をつこうとしている、自分より頭の良い叶に頼るしかない。



「ローキスさん、貴方は本当に俺達に魔神を倒して欲しいんですか? それにしては、前もって伝えるはずの情報が足りない、あるいは遅過ぎではありませんか? 情報を伝えないということは、貴方方にとっても不都合でしか無かったはずですが? ……本当に忘れてたんですか?」

「お…俺もそう思います!」



 カナタのその言葉にショーが乗っかる。そんな形で二人はローキスに抗議した。

 ローキスは助けを求めるようにデイスにチラリと目配せをする。

 デイスは嫌がる様子もなく一歩手前に出て、口を開いた。



「のぉ、カナタや。実はスルトルを滅するのはこれで2回目、あまり前例が無いのじゃ。大目に見てくれぬか?」

「………………へぇ」



 カナタはその言葉で確信した。

 明らかにおかしいのだと。前もって情報を伝えなかったことと、前例が無いことは別問題だからだ。


 そういえば、と、カナタは思い返す。


 最近になってやっと何を討伐すべきかを言ってきたこと、賢者育成に役に立つものである筈のポーションを、何故か条件付きで譲ると言いだしたこと。


 他にも細かく細かく脳を回転させ、思い出しているカナタ。



「_________勝利したあかつきには、僕は賢者、お前らを讃え________」



 カナタが黙ったのを良いことに、ローキスが何か口上を垂れているが、それは耳に入らない。

 

 ローキスが粗相をしたことに、ふと、違和感を持つ。

 カナタはショーが魔法を放った時にお漏らしをしたことを知っていた。しかし、別に言う必要もないだろうと考え、サクラにも黙っていた。


 あの中で1番、ビビっていた本人…つまり、ビビリ屋な国王が魔神の復活という恐怖でしか無いものに、なぜ、怯えた様子がないのか。

 カナタはそう考え始める。


 

「________というわけだ! さあ、賢者らよ! かの黒魔神を倒して____」

「……………あっ」



 ローキスの言葉が終わろうとしていた時、カナタはつぶやいた。

 考え事をしている時のカナタの癖を知っているサクラは、カナタのその小さな小さなつぶやきを聞き逃さなかった。


 メッセージで、カナタに問う。



【どうかしたの! 何か考えられたんだね?】

【うん…ちょっとね】



 サクラへの返事も程々に、カナタはスゥっ…と手を挙げる。



「何か激励の言葉____なんだカナタ。また何かあるのか? 準備ならば心配ない。ポーションなどはしっかりと____」

「いえ、そのことではないんです。ちょっとだけ」

「……………なんだ?」



 カナタがなぜか嬉しそうにニヤニヤしているのをみて、不審に思うローキス。

 全員がカナタを注目してる中、カナタは頭の中で、何故、もっと早くに気づかなかったか反省しつつ、ローキスに、否、ローキスとデイスにこう言った。



「あの、もしかして、ローキスさん達…魔神を使って何かしようとはしてませんか?」

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