第三百三十五話 待機中 (叶・桜)
「もぉ…最低…っ!!」
サクラは激怒している。
「…そうだね」
カナタはローキスが失敗した者にあたる性格であることは理解していたが、やはり怒っていた。
「女の子の顔面を殴るなんて!!」
「うん。まあ、見るからに全力で殴ってたよね」
実際にローキスは自分の持てる攻撃のステータスから本気を出して殴っていた。
ローキスのステータスはAランクの冒険者程度はある。
デイスも、防御のステータスのいくらかは引き出していたが、ローキスの怒りを抑えるためにあえて、死なない程度までしかステータスを出さなかったのだった。
そんなことは誰も気づいてないが。
「ふぅ…ふぅ…。むぅ…ねえ叶、私、あの人の前にショーさんと一緒に居たリルって娘を出すの、なんか嫌なんだけど」
「わかるけど、翔さんのことだから、リルさんのことはしっかり守るでしょ」
「そりゃ、そうだけど」
カナタはサクラの背中をさすりながら、怒りをなだめようとした。サクラはさりげなく、その手を掴み、自分の頭の上へと持ち上げる。
「もし、本当にローキスさんに……あ、ちょっと待っててね」
「ん?」
カナタはサクラの頭を撫でたまま、目をつむり、空いてる方の手を握って意識を部屋中に集中させた。
数秒後、目と手を開く。その開かれた手にはたくさんのシールのようなもの。
「みてよ、ほら、盗聴器がたくさん」
「うわぁ…」
「で、話の続きね。もし、あの愚王が帰ることに協力してくれなかったり、裏切るようなこしたり、単に俺達があの人と付き合うのが嫌になったりしたら、瞬間移動で逃げようか、翔さんとリルさんも一緒に」
「ん…そうね」
サクラがその、カナタの提案にのったその時だった。
部屋のドアを誰かがノックした。
「何事かな? ちょっと出るね」
「うん」
サクラの頭を撫でるのをやめ、カナタはドアを開ける。
その先には、キリアンとクルーセルが立っていた。
その様子を見たサクラも、玄関に寄る。
「あれ、お二人ともどうかされました?」
キリアンは答える。
「いや、ちょっと顔をのぞかせただけだ。そうだ、カナタ、少しサクラを借りるぞ?」
「えっ?」
「案ずるな、女同士の話というやつだ」
キリアンはサクラに向かってウインクをした。
サクラはそれで察した。
「わ…わかりました! ごめん、カナタ、私行くね」
「え…あ、うん」
「30分したら返してやる、それまで、クルーセルとでも戯れてろ」
そう言ってキリアンはサクラを連れて何処かへ行ってしまった。
残されたクルーセルとカナタは顔を見合わせる。
「……残されましたね?」
カナタはクルーセルにそう声をかけた。
唐突にクルーセルはカナタの肩を掴み、その目は憂いを含み始めた。
「賢者カナタッ…貴方の鍛え方の方が、どうやら正解だったようだっ! さわりでもいいから、是非とも教えて欲しい、どうか、この通り……」
「あ、えーっと、なら、サクラ達が話してる間に、レベルの大切さを…」
「ああ、是非教えてくれっ!」
カナタとクルーセルは、また、別の部屋へと向かった。
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サクラとキリアンは、前に雑談した部屋に再び来ていた。キリアンはニマニマしている。
まず、サクラが心配そうにキリアンに問う。
「あの、キリアンさん。なんともないですか?」
「なにがだ?」
「その、カナタと手合わせしてから、ローキスさんに何かされたとか…」
「いや、これといって特になにも?」
サクラはその会話の間に、失礼だとは思いながらも、透視で身体に、最近できたような傷はないか見てみた。
確かに傷だらけではあったが、新しい傷はない。
サクラはホッとした。
なお、キリアンの胸の大きさより、自分の方が若干上であることも知ったようだ。
「あ…あ、そうなんですか」
「…? そんなことより、サクラ。あの後、カナタと進展はあったのか?」
そう訊かれたサクラは、モジモジしながら答えを返す。
「あの、はい。おかげさまで、実は…付き合うことになりました。えへへ」
「おおっ!? 思ったより早かったな。…で、どこまですすんだ?」
サクラは顔を赤らめつつ、ゆっくりと返事をする。
キリアンはノリノリで、身を乗り出しつつそれに期待する。
「キスを2回くらい…」
「それでそれで?」
「添い寝とか頭撫でて貰ったりしました」
「それから?」
「も、もうないです! ここまでです!」
キリアンはそれを聞いて、満足気に腕を組む。
「ふむ! まあ、二人の年ならそんなもんだろ」
「は、はぃ…」
「念のため、一応言っておくが、行為に勤しむのは、この国の法律では13歳以上でないとダメだからな! まあ、サクラは14歳だし、もう大丈夫かぁ…」
そう言われたサクラはさらに、リンゴのように顔を真っ赤にしてそれを否定した。
「ま…まだそんなことしませんっ!」
「そうか。…一緒に風呂に入ったりは…?」
「し、しませんよ!」
「いいな、初々しくて」
キリアンは笑いながら、その後、サクラにカナタとの関係での色々な質問をした。そしてサクラが答えるたびに、ニマニマと笑って見せたのだった。
ついにサクラは、逆に、キリアンに恋愛事情を訊くことにした。
「_________わ、私はともかく、そういうキリアンさんはどうなんですか!」
「私か? 私はもう夫は居るしな。25歳の時に結婚して、今は2年目でな子供はまだ居ない。しかさ、私がカナタに負けた後、治療室で手を握っていてくれていた…そんな男だ。ふへへ」
今度はキリアンが気恥ずかしそうにハニカんだ。
「ちなみに、城内の図書館の司書でな、私がそこから恋愛小説を借りてたら________と、もう30分経ったな。後少しでまた、ローキス様に呼ばれるんだろ? もう戻りな」
「はい…また今度。それと、あの、お幸せに!」
「む、そっちこそな!」
サクラは自分たちの部屋に戻った。
カナタもいつの間にか戻ってきており、二人は30分間、いちゃつきながら呼ばれるのを待った。




