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第三百十五話 ダンジョン帰りの残りの時間-3 (叶・桜)

「よっ…と。戻ってきたよ。……ちょっと冷やしすぎたかな? プリン…」

「あわ…あわわ…あわわわわ」



 二人は部屋まで戻って来たが、未だにサクラは上手く喋れていない。



「もう…桜? 戻って来たよ、部屋に」

「あう…ぅっ…うん。戻って来たわ…ね」

「どうしたの?」

「ど…どうしたの!? どうしたのじゃ無いわよ……叶…ちょっと、叶……」



 少しずつ、サクラは正気を取り戻してきた。

 それでも少し慌てつつモジモジしながら叶に怒ってるんだか、御礼を伝えたいんだが、喜んでるんだかわからないような声色で何かを言おうとしてるが、上手くまとまらないようだ。



「はぁ…。確かに色々あったし、驚くのはわかるけど、落ち着こ? プリンでも食べてさ」



 と、カナタは皿とプリンとスプーンを机の上に瞬間移動させ、カップの中のプリンを皿の上に開けた。

 なお、プリンは3日分ほど作ってある。



「はい、どうぞ」

「あ…ああ…ありがと」



 プリンを二人は食べ始める。

 サクラは折角の大好きな甘味なのに、緊張でまったく味がしないようだ。

 しかし、食べていくうちに更に落ち着いたのか、ポツリポツリとカナタにお小言混じりの御礼の様な物を話し始めた。



「おいし…。あのね、叶。6000万円も服で使う必要はなかったんじゃ無いの?」

「そう? でもまだまだ魔物の素材はあるからね。ていうか、1%も減ってないし。全然いいよ」



 そう、カナタは何気ない様に答える。

 その言葉を理解し、金の心配が要らないことはわかったらしい。だがまだ納得できないことがある様で、サクラはさらに話す。



「で…でも。……私だけのために6000万って…流石に…」

「まあ本当は7通りぐらいでいいかなーって考えたんだけどさ、どれ着ても本当に似合ってるし綺麗だったし…まずお洒落してる桜が嬉しそうでさ。日本にいた時は、自分に自信なさげだったからか、同年代の女子と比較すると、お洒落に興味持ってなかった方じゃん?」

「うっ……うん。まあそれは否定しない」

「だからさ。桜がお洒落を楽しんでるなら、全部買ってもいいかな、なんて」



 カナタはそう、照れくさそうにハニカミながら言った。


 サクラはその顔を直視できてない。なにか言葉にできない暖かい様な恥ずかしい様な感情が、渦巻いていた。

 それを自分に対してごまかすため、サクラは話を続ける。



「あ…ぁ…き…そうね、叶は彼女ができたら沢山貢いじゃいそうね! えへへ…幼馴染の私にこれだけ使っちゃうんだから…。き…気を付けなさいよ!」

「桜だから買ったんだよ? 普段、お菓子ぐらいしか欲しがらないし。信用できるから…」



 その言葉で、本日何度目かわからない赤面をサクラはした。頭が熱くなり、上手いことを考えられない。



「……っ!! あぅ…あ、あ、あ…あんなに買ってもらって悪いけど…わ、私っ…叶に本当にほとんど何もできないから…! え…えーっと、して欲しい事があったらなんでも言って? ……な、なるべく何でも叶える、どんなのでも……! その…私にはそれくらいしかできない…から」



 そう言った。

 6000万というプレッシャーと、『叶にならいい』という元々抱いていた感情が合わさり、このセリフを吐いてしまったサクラだが、それを言われた本人はポカンとした顔をしている。



「何でもって……。ていうか、桜。あのお金は桜も一緒に稼いだものでしょうに」

「い…いや、何言ってるのよ! 補助魔法と少し私が倒した分を入れても……ほとんど全部、叶が得た分でしょ? ほ、ほら、伝説級のアイテムだって多く貰ってるし…!」

「……ん? ……んー…考え方によっては確かにそうかもだけど。でもさ、どっちにしろ気にする必要は無いよ。お礼とかも要らないから。無理に理由をつけるなら、今日、急に抱きついちゃったお詫びかな?」



 カナタはニコッと、またひと笑いしてから残り少ないプリンを頬張る。

 サクラはその間を聞いてないはずだと思い、おもわず小声で本音を言ってしまう。



「(お詫び……あれ、むしろご褒美……)」

「え、そうなの?」

「ひゃいっ!? あぅうああ…かにゃた…うああ! あ、い、今のは違うにょ! あうう…あう…! ……あ! プリン食べちゃおう、ね! ねーっ!」



 サクラは全てを誤魔化すだめに、わざと変な声を出しながらプリンを食べていく。

 …カナタはサクラが何か隠してると考え、一瞬、しかめっ面をした。


 

「おいしかったね! ね、おいしかった!」

「桜、今日、なんか冷静じゃないね。まあ嬉しくて変なテンションになってるんだったら、俺も嬉しいんだけど」

「そそそ…そうかしら? そ…そうね、嬉しいことは確かよ! ありがとう」

「そっかぁ。良かった。桜がうれしいならそれで良いんだよ」



 カナタはサクラに微笑む。

 それはサクラによく効いた。本日、何度めかわからない赤面をする。



「あう…あう」

「食器洗っちゃうね」



 そう言ってカナタは台所へと消えた。

 カナタの姿が見えなくなった途端、サクラは全身から力が抜けた様にグッタリとし、力が入らなくなった。あまりに緊張してしまったためだ。


 サクラは今、キリアンがカナタとの関係について言っていたことを思い出している。



「(やっぱり…叶って、私のこと…。私は叶のこと好きだけど…。どうしよ、モヤモヤする。いっそ聞いちゃおうかな? ど…どうなるんだろ…怖い。で…でもこれだけ…色々…うーん……もう勇気を振り絞った方が? …だって本当に好きなんだもん)」



 しばらくしてカナタは食器洗から戻ってきた。



「桜、どうする? 夕飯まで1時間くらい遊べるけど」

「あっ…叶、お昼寝してて良いよ。ほら、何やかんや言って今日は寝てないじゃない」

「そうだね。じゃあ…そうさせて貰おうかな。夕飯が出来たら起こしてね」

「うん…おやすみ」



 そして、そのままカナタはダブルベットへと行き、横になった。

 サクラはその間、改めてこの世界に来てから、否、生まれてきてからカナタにしてもらったことを振り返り…聞きたい事を決め、言いたいことを決意した。

 


____

___

__



「叶、ご飯できたよ」

「んにゃ…ああ、ありがとう。ロールキャベツか、美味しそうだね」

「えへへ…うん」

「…ん? まあいいや。いただきます」



 サクラとカナタはロールキャベツを食べた。

 しかし、サクラは何やらずっとモジモジしている。

 その癖は何かを隠したり、緊張したりしている時に出るものだとカナタはわかっていたので、サクラに問う。



「ね、どうかしたの?」

「っん? なんにもないよ?」

「そう、なら良いんだけど」



 しばらくして、二人は夕飯を食べ終え、風呂に入る時間となった。



「じゃあ入るねー」

「うん。あの…あの…ね?」

「なに? どうかしたの?」

「えっと…今日は私が先で良い?」

「…ん? ああ……わかった」



 サクラは自分のマジックバックを掴み、風呂へ入っていった。

 その間に、何故か元気がないサクラについてカナタは考察する。



「(やっぱり6000万円分の服は重かったか…? 余計なプレッシャーを与えちゃったかもしれない。うむむ……そもそも_________)」



 しばらくして、サクラは風呂から上がった。

 


「良いよ、叶」

「ん」

「あ…あとそれと…寝る前にちょっと話しいいかな?」

「いいよ」



 カナタも風呂に入る。

 そしてサクラはその間に、自分のマジックバックを弄り、なにかゴソゴソしていた。



____

__

_



「あがったよ」

「じゃあ……その、悪いんだけど私の横に来て?」

「う…うん?」



 サクラは何故かブリーシンガメンを着け、今日買った服装の中の一つを身にまとっていた。カナタがサクラが風呂から上がったのを見た時、確かに寝巻きだったのだが。


 カナタは言われた通り、サクラの横に座る。



「えーっと、叶」

「……ん」

「今日はありがとう。こんなにいい服、沢山買ってもらって」

「喜んでくれたなら良いんだよ。へへ」



 そう、カナタは答える。

 それを聞いてから、サクラはそっとカナタの手まで自分の手を伸ばし、掴み、やさしく握り始めた。



「そう…あのね叶。この世界に来てからじゃなくて….その前までも。物心ついた時から、私は今日みたいに本当に沢山のことをしてもらったの」

「な…なにさ、改まっちゃって……。やめてよ、こういうの漫画とかなら死亡フラグだったりするんだから」

「死んだりなんかしないよ、多分。……でね、叶。私ができる御礼って何かな? 叶に御礼したい。叶にとって私にして貰ったら嬉しいことってなぁに? どんなことでもするから……言って?」



 サクラはジーッとカナタの目を見つめる。

 カナタはその目から、真剣さと本気が伝わってくるので、ふざけずにちゃんと答えることにした。



「……いいよ、居てくれれば良いんだよ。怪我とか…困り事とかせずに居てくれれば良い。それが一番嬉しい」

「そう……やっぱり、そうなのね。ね…叶。私の事…すっ…すす…好き?」



 今までスラスラと言えていたのに、サクラは重要なところで噛む。

 カナタはその『好き』の意味を『ライク』の方であると考え、何気なく答えた。



「はは、好きに決まってるじゃん。そうじゃなきゃ幼馴染なんてやってないって」

「そそそ…そうよね! わ…私は…私はね、私は叶の事が……………好き。大好き」

「大好き? ああ、ありがとう。俺もだよ。これからも仲良く_________」

「………むぅ。私が言ってる『好き』と叶の言ってる『好き』って…多分違う。あ…あの…あのね、私が言ってるのはこっちのこと…な…の_______!」



 サクラはカナタに飛びついた。

 頭の処理が追いつかないカナタ…サクラは自分の唇をカナタの唇に合わせる。

 


 数秒後、それをそっと離した。



「こういうこと…。あんたのは多分…『好き』て単純な意味なんだろうけど……私のは『愛してる』って言うかなんというか…その恋愛的な意味で…」



 カナタは頬を赤く染め、その話をおとなしく聞いている。



「この世界に来る前から、ずっと。だから……いつからかはわからないけど。……この世界に来てからも毎日のように親切にしてもらって…一生かけて御礼を言うべきことも沢山! でね…だから、この気持ちが加速して……。あの…今のキスね、私なりの御礼。一応ファーストキスだから,あげちゃったところで悪いんだけど、要らなかったら…あとで顔、洗ってね?」



 サクラは不安気にカナタの顔を見つめた。

 カナタも見つめ返す。



「ん…そ…それで、私はね。えーっと_______」

「好きだよ」

「________嫌じゃなかったらなんだけど…ん?」

「俺の方こそ。嫌じゃなかったらで良い。これからの関係は…幼馴染じゃなくて、恋人に成れないかな?」

「えっ…あ…あう…!?」



 数秒の間が空く。

 サクラは驚いて固まった……が、すぐに正気を取り戻す。


 自分が言おうとしていたことをカナタに言われたサクラは、ただ、そのカナタの問にカクカクと首を頷かせることしかできない。



「いいの?」

「あう、あう」

「ふふ。本当に?」

「あう…あう」

「中二病だったり…だらける時は思いっきりだらけたり、迷惑になるかもしれなよ?」

「い……いいの、そんなこと言ったら私…叶にきつくあったったりしてるし……それに、叶は欠点が無いように思えるほど、優しくてかっこ良くて、素敵だから……」



 桜は叶に普段は言わない、自分の考えを述べた。

 その恥ずかしさと嬉しさに、カナタは軽く頬をかく。



「えへへ、ありがとう。ん…じゃあ、今から俺と桜は付き合ってるって事でいいの?」

「う…うん。不束者ですが…何卒…」

「あはは…こちらこそ」



 二人は同時にお互いに向けて頭を下げた。

 


「桜。ごめんね、先に告白しちゃって。……どうしても俺が先にそういう事は言いたかったんだよ…昔からそう決めてた。勝手かもしれないけど」

「えっ…ううん! いいの……今日は逃げないでね、寝てる最中に! えへへ。今日から慣らす…じゃなくて、添い寝だから」

「あ…うん。わかった。そうするよ」


 

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