第三十二話 ひととき
おはよう。今日もいい朝だ。
朝ご飯を食べさせてもらい、一昨日まで着ていた服に着替えて外に出る。
外では子供達が昨日作った竹とんぼで遊んでいたよ。てか、ミュリさんも一緒になって珍しい物でも見るような顔で遊んでいるんだけど。
まぁ、この世界にないものらしいしなぁ。
声をかけてみよう。
「おはようございます! ミュリさん!」
「あ、アリムちゃん、おはようございます! 子供達から聞きました。凄いですね、こんなもの作っちゃうなんて!」
「はい、落ちる葉っぱと鳥を見ていたら思いつきまして…」
うーん。中々に苦し紛れの説明。鳥をみて竹とんぼ思いつくってどういう状況だろうか。回転しながら飛んでく鳥、そんなのいるの?
「へぇ~、アリムちゃんって、そういう物作りの才能があるんですね!」
ミュリさんが天然思考で助かったぞ。いや、もしかしたら回転しながら飛ぶ鳥が、この世界にはいるのかもしれない。
これ以上竹とんぼについて突っ込まれないように、話題を変えよう。
「えへへ~!ありがとうございます! あ、そういえばミュリさんって、なんで回復魔法中心なんですか?」
「え、あ、それはですね? 昔、私が怪我をしそうだった時に、オルゴが庇ってくれたんです。でもその代わりに、彼が怪我をしちゃって。今も残っているんです。籠手で見えませんけど、右手の掌にその傷が。私は庇って貰ったというのに何もできなくて……。せめて傷を癒すことができたら…そういう思いで回復スキルを中心にあげているんです。だから、オルゴのおかげでもあるんですよ!」
俺が美花を庇った時みたいだな。美花もこんな風に思ってくれてるといいんだけど……って、俺は向こうじゃ死んでるのか。
あいつ、どう思ってるんだろうな?
案外なんも思ってなかったりしてね。俺は確かにあいつの悲しむ顔は見たくないけど、それはそれで寂しい。会いたいなぁ……。
くそ、変なこと考えちゃった。腹いせにミュリさんを少しからかおう。
「そうなんですねっ! ……もしかしてオルゴさんのこと好きだったりします?」
「えっ……え、しゅ、しゅきぃ!? いや、えっと好きとかそういうのじゃないというか……。いえ、好きなんですよ? 好きですけどそういう意味じゃなくてでしゅねえっ……! え~と、そうしゃなくてぇ……はぅぅぅ……」
おお、図星だったか? なんだこの可愛い生き物。
「顔、赤いですよ?」
「しょ、それはアリムちゃんが、その…オルゴのことを私が好きだって…好きかって、言うからじゃないですか!」
「ごめんなさい。からかいました」
「むぅ~…あんまりからかわないで下さいねっ!」
ミュリさんは純粋だね! いいね! リロさんも可愛いけどね。
でも、セインフォースの皆17~18歳なんだから、身内で恋の1つや2つや3つ……いや、3つは駄目か。あっても良いと思うんだよ。幼馴染だしね。
俺もなぁー死ぬ直前までは……ね。
………チッ。
あぁ、本当はもう少しこうやってお喋りして、この平和なひとときを過ごしたかったんだけど。
でもさ、森の中からイヤーなのが近付いてくるんだよね。
ミュリさんもどうやら気づいたみたいで、そちらを凝視している。俺に向けて彼女はこう言った。
「アリムちゃん、子供達をここから離れさせて下さい。あと、村の人達に避難するようにも言って下さい」
「はい…」
俺はすぐに子供達をこの場所から遠ざて、村長や村の人達と一緒に避難させる。
ああ、あの気配は多分あいつだ。俺がダンジョンで87匹倒した奴。Cランクで灰色の長い毛を持つ犬、"灰騎犬"
風が唸るような音がした。奴の魔法で柵が壊されたようだ。
そして、壊れたその柵のその先に、立っていた。




