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第二百七十三話 みえる (叶・桜)

「見えてる…」

「本当? ならこの指は何本?」

「七本」

「本当に見えるようになったんだね…桜」



 サクラは周囲をキョロキョロと見た。 

 部屋にはカナタの他に椅子や机、ベット、台所や風呂へ続く廊下、時計……などなど日本とあまり変わらないものから、この世界にしかないような初めて見る物まで置いてあった。



「…本当に私達、別の世界に来てたのね…」

「そうだよ。桜には沢山見せたい物が有る。ローキスさんの所のお城とか…すごく綺麗なんだ」



 カナタはかなりはしゃいでいた。

 まるで自分の事のように、ニコニコと満面の笑みを浮かべてサクラに話しかけている。



「それにしても叶、その格好…どこかの貴族の御坊ちゃまの軽装みたいね」

「そう? 桜だって近い格好してるけど? 洗面台に鏡があるから見てこれば?」

「念のために一緒についてきてくれる」

「ん、じゃあお風呂と洗面台はこっちね」



 サクラはカナタに連れられて、洗面台の前に立った。

 そこにはどこかのお嬢様が軽装しているような服装をしたサクラが鏡に映っていた。



「カナタ…これ私!?」

「そうだよ。眼鏡をしてない曲木桜さんだよ。……美花ネェにそっくり。あ、でも目と耳と髪の色はおじさん似だね、桜」



 サクラは生まれて初めてと言っても過言ではないくらい久方ぶりに鏡で自分の眼鏡無しの顔を見た。

 普段だったら瓶底眼鏡のようなのをつけているのである。その不恰好な特殊な眼鏡でないと視力は補えなかったのだ。



「えへへ…お姉ちゃんに似てる…かぁ…」

「ああ、すっげえ似てる」



 カナタのその言葉にサクラは照れながらも内心も、天にも昇るほど嬉しかった。

 自分の姉に似ているということは、かなりの美人であるということだ。


 今まで自分の容姿が姉とは全く異なり、不粋だと思っていたサクラ。

 目が見えるようになったというこの事実が実は夢なのではないかと考え始めていた。



「やっぱり夢だよ、叶。私がこんなに…お姉ちゃんみたいな美人じゃないし…。それに眼鏡無しで目が見えてて。…こんな肩を思いっきり出した服を着て、学校のより短いスカートを履いてるなんて。…そもそも魔法って……! それに叶も私が可愛いなんて普段言わないこと言って…夢、そうよ、きっと私は夢を見て……」


 

 サクラがそう言った時、カナタはサクラの手を両手で少し強めに握った。



「ちゃんと手の感覚があるだろ? 夢じゃないよ」

「いや! これは叶が授業中に寝ちゃってる私を起こそうとして…わぶ」



 カナタは今度はサクラの鼻をつまんだ。



「ちゃんと鼻をつままれた感覚はあるだろ?」

「ひや! ひっと叶か中々起きない私を起こすためにょ手段……きゃっ!」



 カナタは今度は、サクラをお姫様のように優しく抱き上げた。ただ、抱き上げるまでの行動は省き、自分の腕の中に直接瞬間移動で移したのだが。



「どう? 目、覚めた?」



 カナタはサクラの顔を覗き込む。

 お互いの目が合った。

 サクラは驚き、また、口から心臓が飛び出そうになる。

 しばらくその場に静寂が出来たが、ふと、サクラは我にかえった。


 


「さ…覚めた、覚めたわよ! 現実なんでしょう? わかったから早く下ろしなさいよ!」

「わかったよ」



 カナタはサクラをそっと優しく降ろした。

 サクラはその降ろされてる最中、もう少し抱かれたままで良かったかもしれないと、内心、少し悔やんだ。



「それにしても…本当に夢の中に居るみたい。目が見えるだけでここまで違うんだね」

「ああ、そうだよ。ところで…見たい物とか無い? 無いんだったらローキスさんの所に挨拶しに行ってから街や城内を一緒に見に行こう。その他にも魔法とか俺の瞬間移動とか」

「見たい物…ね…」



 サクラは頭の中で色々と考えた。

 もし本音を言えるんだったら、叶の顔をよく見たいと言っていただろう。

 しかし、それは恥ずかしくてできないから、とりあえず、カナタの提案に賛成しようとしたが、思いとどまった。

 一つ、思い出した事があったのだ。

 それは_________



「見たい物で思い出したの。叶。今私の着てる服なんだけど、これって頼んで替えて貰った服? それとも初めて貰った服?」

「替えて貰ったほうだよ」

「ねぇ…ちょっと、その前の方気になるんだけど…持ってきてくれない? 1着でいいから」

「ああ? うん…わかった」


 

 カナタは自分の手元にマジックバックを呼び寄せた。

 そしてそこから1着の服を取り出し、サクラに手渡した。



「叶、私、これもう一回着てみるから、この脱衣所から出てくれる? もし、覗いたら…しばらく口きかないから」

「ああ、うん。わかった」



 カナタは言われた通りに脱衣所から出て、サクラが着替えるのを待った。

 そして入って良しとサクラから合図を送られるとおずおずと中に入る。



「か…かなたぁ……」



 赤面しながら必死に胸元を隠し、スカートの裾を伸ばしているサクラがそこに居た。

 内股気味にもなっている。



「こっ…これ何よ! 胸が見えるじゃ無い! そ、それに油断したらパンツだって…! 本当に漫画とかラノベの女の子のエッチな衣装みたいな…感じ…。見てないよね、私がこういうの着てた日…ジロジロと見てないよね! パンツとかおっぱい、見てないよね、ね! ね!?」



 サクラは大声で声を荒々げ、よっぽど恥ずかしいのか少し涙目になりながらカナタに訴える。

 カナタは頬をぽりぽりと軽く掻きながら、申し訳なさそうな顔をしてこう言った。



「あ…っと…その…なるべく顔は逸らすようにしてたけど…でもその…見えてしまったことに関しては許してほしいというか…まじまじと見た訳じゃないし…幼馴染のそういうの見るってなんか申し訳なくて…や、桜に魅力が無いとかじゃないし、どちらかと言えば美花ネェににてスタイル良いから気にはなったけど、見ないようには努力した…じゃ、ダメ?」



 話す度にサクラの表情が段々と暗くなっていくのをみたカナタは焦った。

 そしてカナタが話し終わると、サクラはゆっくりと口を開け始める。



「…エッチ…………………早く出てって」

「ん?」

「さっきまで着てた服に着替えるから、脱衣場でてきなさいよ、この変態」

「ああ…うん」



 カナタはおとなしく脱衣場を再び出た。


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